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「問い」の奥深さを感じる1冊。【読書記録#21】【『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』安斎勇樹・塩瀬隆之】

皆さんは「ファシリテーション」という言葉をご存じだろうか?
個人的にはあまり聞き馴染みのない言葉かなと。

「ファシリテーション(facilitation)」は「促進する」「容易にする」といった意味を持つ英語「ファシリテート(facilitate)」を名詞化したもの。
主に企業や学校、地域などでの問題解決を容易にするための働きかけといった文脈となる。
問題解決の場として会議形式だけでなく、ワークショップという体験型の知識創造の場を設ける場合がちらほら出てきている。筆者も10年以上前にワークショップを運営する団体に属していたこともあり、会議じゃないんだけど実りのある話し合いができたり、自身の価値観を揺さぶられたり、他人の考えに共感したりと様々な効果があったと感じている。

こういった問題解決の場では会話でも議論でもなく、「対話」を行うことが最も重要である。己の価値観、根底に抱えている問題意識などを持ち寄り、近い部分・遠い部分を認め合いながら、新たな価値を創造する営みが必要となる。とはいえ集まった人にいきなり「じゃあ新しい価値を創造してください」と言っても到底無茶な話で、どうすればいいのかわからず迷う人ばかりになってしまうだろう。

そこで必要となるのがファシリテーションであり、ファシリテーションを支えるのが「問い」となっている。本書はその「問い」に焦点を当てて解説を行っている。

そもそも「問い」って何?どういう風に考えればいいの?という疑問もあるかと思うが、本書では以下のように定義している。

「問い」の定義
人々が創造的対話を通して認識と関係性を編み直すための媒体

『問いのデザイン』P.42

「創造的対話」とは新たな意味やアイデアが創発する対話のことを指す。ここまで読んでいただいている人も、ある問いから話をしていると、ついつい問いが止まらなくなる瞬間を経験したことがあるかと思う。
「〇〇ってこうらしいよ」「そうなんだ、じゃあ◇◇ってこと?」「詳しくはわからないけど、××ってことなんじゃないかな?」
といったように、ある知識が問いを呼び、それぞれが答えを持っているわけではないけれど、仮説を立てながらどんどん話を展開していく。かなり抽象的にしているけれど、このような営みのことを指す。

「創造的対話」で特徴的なのは、新たな意味を生み出すことである。本書では、とあるカーアクセサリーメーカーの事例を挙げている。カーナビを代表的な製品としているが、AIを活用した新しいカーナビのアイデアを考えたいが、どうしても出てこない。そこで筆者らにファシリテーションを依頼したといういきさつ。
このクライアントは「人工知能が普及した時代において、カーナビはどうすれば生き残れるか?」という「問い」を立てていた。しかしカーナビ自体は本来自動車を運転するサポートを行うための「手段」あったはず。カーナビがメインのプロダクトになってしまったこともあり、いつの間にかカーナビを作ることを目的にすり替わってしまった。
そこで筆者らがクライアントに「カーナビをどのような動機で作ったのか?」などといった「問い」をぶつけていくと、「自分たちは生活者に"快適な移動の時間"を提供したい」という想いに立ち返ることができた。
そこから最初の問いを「自動運転社会において、どのような移動の時間をデザインしたいか?」「その移動の時間を、自社製品を活用してどのように支援できるだろうか?」といった問いに変更し、ワークショップを開催している。このように、「問い」によって自分たちのしてきたことに意味を見出すことができた。

「創造的対話」が誘発されるような「問い」の設定ができれば、既存のアイデアへの固着を防ぎ、まったく別のアイデアが生まれる可能性がぐんと向上する。問題解決の場では、既存のアイデアのみで解決できることには限界が来るので、「創造的対話」が肝要となっている。

本書はそういった「問い」を考えていくために、あらゆるヒントを提供してくれている。自分のまとめだと稚拙なところが多々あるので、ぜひ一読いただいて、思考のプロセスを感じ取ってもらいたい。

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