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2022年6月の記事一覧
淡い色の補助線を引くーミニ読書感想「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」(東畑開人さん)
臨床心理士・東畑開人さんの「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」(新潮社)が面白かった。「こうすれば人生がうまくいく」という処方箋が溢れる現在に、もっと曖昧だけれど大切なことを語ってくれる本。この本を読んでも悩みは解決しないけれど、辛い夜を少し、やり過ごせるようになる。
本書は「紙面上のカウンセリングルーム」に見立て、著者が相談者と行なっている対話を再現している。多くのクリニックや精
なぜ東京大空襲は選択されたのかーミニ読書感想「ボマーマフィアと東京大空襲」(マルコム・グラッドウェルさん)
ノンフィクション作家マルコム・グラッドウェルさんの「ボマーマフィアと東京大空襲」(櫻井祐子さん訳、光文社)が大変興味深かった。一夜にして10万人の市民の命が奪われたとされる東京大空襲。この惨事がなぜ起きたか、米軍側の政策決定過程に焦点を当て、解き明かす。再びくる終戦の夏に向けて、この本を読めてよかった。
本書は「東京大空襲に何の関心もない米国人向け」に書かれているのが特徴だ。これは日本でも同様だ
最短距離では辿り着けない場所ーミニ読書感想「そして、ぼくは旅に出た。」(大竹英洋さん)
写真家・大竹英洋さんが写真の道を志すきっかけとなった最初の旅を振り返る「そして、ぼくは旅に出た。」(文春文庫)が面白かった。ページをめくるごとに美しい景色が広がり、旅をした気持ちになる本。最短距離で目的地を目指すカーナビ的な思考では、決して辿り着けない場所があると教えてくれた。
旅本とでも言うべき本がある。読むことで旅をできる本のことだ。まるで自分が荷物を背負い、足を動かし、バスに揺られるような
価値ある人間だから給料が高いのではないーミニ読書感想「給料はあなたの価値なのか」(ジェイク・ローゼンフェルドさん)
ジェイク・ローゼンフェルドさん「給料はあなたの価値なのか」(川添節子さん訳、みすず書房)がとても勉強になり、興味深かった。タイトルはもちろん反語だ。給料は「あなたの価値ではない」ということを、産業史的な視点、労働運動史的な視点、現代労働の国際比較などさまざまな観点から検討し、立証する。副題にある通り、給与にまつわる「神話」を解体する。「個人の市場価値」の向上がそこかしこで叫ばれるいま、必読の一冊だ
もっとみる何度読んでも美しい冬の星座のような短編集ーミニ読書感想「なめらかな世界と、その敵」(伴名練さん)
ハヤカワ文庫に収録された「なめらかな世界と、その敵」(伴名練さん著)を読んだ。単行本に続く再読だけれど、初読と同じように感動した。何度読んでも面白い。何度読んでも美しい。冬の星座は、2年前も2年後も美しい。同じように本書はこの先何度繰り返し読んでも、燦然と輝くんだろう。オールタイムベスト・オブ・オールタイムベスト。伴名練さんは凄まじい短編集を世に送り出してくれた。
収録の6篇全て外れなし。自分は