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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2020年8月の記事一覧

情報という石油・恐怖という炎ー読書感想#39「告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル」

情報という石油・恐怖という炎ー読書感想#39「告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル」

情報が新時代の石油ならば、それを燃やす炎の名前は「恐怖」だった。選挙コンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカの恐ろしい選挙マーティングの内幕を暴露した「告発 フェイスブックを揺るがした巨大スキャンダル」を読んで確信しました。著者のブリタニー・カイザー氏は同社の営業を務めていて、中枢ではないものの貴重な証言となっている。

「スーパープレデター」とミシェル動画トランプ氏VSクリントン氏となった

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台湾を旅できる小説ー読書感想#38「路」

台湾を旅できる小説ー読書感想#38「路」

ページを開けば台湾の風が薫る。吉田修一さん「路」(ルウ)は、旅をした気分にさせてくれる小説でした。台湾新幹線導入に関わる商社マンと、現地でこの事業に関わる若者の数年間を描く。人間の陰鬱さを描く名手である吉田さんだけれど、本作は爽やかな感動が味わえた。

グァバ畑、屋台の匂い浮かび上がる情景がどれもいい。特にお気に入りがこれ。

 グァバ畑を濡らしたスコールは、結局十五分ほどで上がった。やんでしまえ

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絶望を抜け出すための「問い」ー読書感想#37「夜と霧」

絶望を抜け出すための「問い」ー読書感想#37「夜と霧」

ナチスドイツの強制収容所という底無しの絶望を抜け出すために必要だったのは、「答え」ではなく「問い」だった。ヴィクトール・E・フランクルさんの「夜と霧」には、この「コペルニクス的転回」が綴られている。「自分が人生に何を期待するかではなく、人生が自分に何を期待しているか」というメッセージはあまりにも有名ですが、実はこのメッセージの「その先」があったことを、本書を読み通して初めて知った。その上で依然とし

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風を憂うより船上を楽しむー読書感想#36「その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。」

風を憂うより船上を楽しむー読書感想#36「その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。」

吉川浩満さん・山本貴光さん「その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。」は、あっという間に読めていつまでも助けになりそうな哲学書でした。古代ローマ、ストア派の賢人エピクテトスを「先生」にすれば、生きる上での様々な難問に指針を見出せるよという内容。その要諦はズバリ「権内と権外を見極めよ」。船を運ぶ風の行く末を憂うよりも、船上をいかに楽しく過ごせるかを考えよう。

心の休まらない乗客になっていないか本書

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分水嶺を掘り起こすー読書感想#35「2050年のメディア」

分水嶺を掘り起こすー読書感想#35「2050年のメディア」

下山進さん「2050年のメディア」は凄まじい労作であり、初めて目の当たりにするスペクタルでした。2000年代前半から起こり始めた新聞メディアの「デジタルシフト」の歴史を描く。襲いかかるネットの側は「ヤフー」、守勢から時に攻勢に転じる新聞側は「読売新聞」を軸に、それぞれの現場にいた人物の豊富な証言を記録していく。だから生々しい。ほとんど大河ドラマのような迫真さがあり、400ページ超の本編で飽きること

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