「公務員」としてフロンティアに挑む ~2021年を迎えて~

 昨年は、医療従事者の方々が命がけで働いている中、この国の株価がバブル以来の高値となる一方でその日の食事もままならない人が急増する中、そして、アメリカで歴史的な政治的無責任と分断と暴動が止まらない中、自分は何をすべきか、否応なく考えさせられた年でした。
 22年前、公益のために働くことに最もまっすぐ向きあえる職として外交官を選んだこと。13年前、地域経済・農業の疲弊に取り組むために外務省を退職し、それでも生涯「公務員」として彼らに恥じない生き方をすると誓ったこと。そして、10年前にあの原発の爆発を見た時、何が起きているのかはわからないけどこの問題に人生をかけて取り組むしかないと瞬間的に決めたこと。
 家に籠り悶々としながら、自分の原点に立ち返り、何をすべきか、あらためて考えが固まりました。

 自分のなすべきこと、自分の役割は、マーケット・メカニズムに乗らない課題、マーケットからこぼれ落ちる課題に取り組むこと。そして、これまで培ったビジネスパーソンとしての全スキルを投入して、それをマーケット・メカニズムに乗せ、回るモデルを作ること。ひとたびビジネス・モデルを作れば、マネタイズしたい人はたくさんいるので、参入が起こる。そのフロンティアを切り拓くこと。

 一つは、福島の課題。ここ5年ほどは、東北の中でも福島の食・農業を中心に取り組んできて、たくさんのヒーロー生産者が生まれ、ヒット商品が生まれ、農業界でも最も熱い地域となりましたが、まだ全体として課題が解決したと言える状況ではありません。漁業はいまだ試験操業。また、いまだ存在する避難指示区域の姿を目にするたびに、胸が締め付けられます。避難指示解除された区域も、住民の帰還のペースは上がっていません。このままでは終われない。終わらせない。
 一方で、この地域でチャレンジしている人達に会うと、本当の意味でのアントレプレナーシップとリーダーシップに大きな可能性を感じます。彼らと共に、ここを日本で一番ワクワクする地域にしたい。日本で一番イノベーションが起きる地域、日本で一番当事者性の高いコミュニティを創りたい。この国の人からも忘れられた地域を、世界が注目する地域、民主主義と新しい経済のロールモデルにする。それは本当に実現できると信じています。
 今年から、個人としても、事業としても、福島、とりわけ浜通り(沿岸地域)に一層コミットします。まだ言えないことも多いですが、この地域でどんどん新しいこと仕掛けていきます。(いよいよもうすぐ、福島県浜通りの課題解決事業を生み出すために創った「NoMAラボ」の事業も発表します。)

 もう一つは、食の輸出。こんな時代、個人も企業も、内向きになりがちですが、日本の農業・水産業にとっては、胃袋の数が減り縮小する国内市場のパイを取り合うより、中間層が爆発的に増えて逼迫するアジア、世界の食糧需要を取りに行くべきなのは自明です。日本の生産者が磨いてきた農業・水産業・食の技術・品質は世界に誇るべきもの。そして、実は日本は農業生産額世界8位の農業大国。日本の排他的経済水域の面積は世界6位の水産資源大国。それが、2%という他国と比べて極端に低い割合しか海外に輸出されていないのは、マーケティング戦略と効率的な流通チャネルが確立しておらず、個々の事業者からすれば、その壁を乗り越えるコストを自己負担するより、国内で売っている方が短期的にはよいから。誰かがリーダーシップをとり、マーケットインで海外市場戦略を構築し、規制を政府と一緒に乗り越え、チームを組んで具体的な輸出チャネルを創っていけば、耕作放棄することも減反することもなく、地域の一次産業は発展できる。
 国境の壁を乗り越え、世界の胃袋をしっかり取り込み、日本の各地域に豊かな農業・水産業を創る。このために、Oisix ra daichiの海外事業と、東の食の会の「Tohoku Global Challenge」を共に一層強化し、香港・中国に加えて、東南アジア、ヨーロッパ等に活動を広げて挑んでいきます。

 2021年。公のための仕事を司る者たる「公務員」として、福島の課題と食の輸出、地方と世界の二つのフロンティアを切り拓いていく年にします。
 本年も何卒よろしくお願い致します。



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