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愛と痛みを知っているから

今日は図書館で
とある絵本と目が合った。

懐かしい。
小さいときに読んだ。
また会えたね。

絵本に
吸い込まれるように
私は立ち読みした。



さっちゃんのまほうのて

さっちゃんは
幼稚園に通う女の子。

もうすぐ生まれる弟に
胸を躍らせながら
お腹の大きな母を見て決めた。

私お母さんになる。

幼稚園のおままごとで
お母さん役に名乗りを上げた。

ところが周りの子達はこう言った。
さっちゃんは
お母さんにはなれないよ。
だって手のないお母さん
なんて変だもん。

さっちゃんには
右手の指がない。

そのことを母に問うと
生まれる前にケガをしたこと
指は生えてこないこと
を母は優しく真摯に伝えた。

指がない右手。
お母さんになれないのかな。
そのことで
さっちゃんの頭はいっぱいになった。

弟が生まれた日の帰り道
さっちゃんに父はこう言った。
さちこは素敵なお母さんになれるぞ。
さちこの手は魔法の手だ。

次の日
幼稚園の男の子が
さっちゃんにチョコを
渡しに来た。

その時の顔が何だか可笑しい。
明日は幼稚園に行こう。
そう決めたさっちゃんだった。



さっちゃんは
どうしてお母さんに
なりたかったのだろう。

さっちゃんにとって
お母さんとは
どんな存在なのだろう。



さっちゃんの両親は
愛に溢れている。



右手を
かわいい手だと。
魔法の手だと。

娘の傷ついた心に
全力で向き合ってくれる。

さっちゃんのことも
お腹の弟も
溢れる愛情で包んでいる。



そんな両親を見て
きっとさっちゃんも
そうなりたい。
と思ったのではないだろうか。



幼稚園の子達が言った言葉。
さっちゃんの心は
とても傷ついたと思うし
ずっと消えることはない。



だけどさっちゃんは
きっといろんな人に
愛を与える存在になると
信じている。

人の心の痛みに
寄り添える人になれると
信じている。



それは
さっちゃんが身をもって
愛と痛みを
知っているからである。

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