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数学入門書良書二冊紹介

(初出アマゾンレビュー)

数学21世紀の7大難問―数学の未来をのぞいてみよう (ブルーバックス) January 21, 2004 by 中村 亨 (著)
ソフトで柔軟な文体の良書
Reviewed in Japan on September 19, 2021
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各数学的概念の説明自体はこれ以上はなかなかできないだろうレベルでわかりやすくコンパクトである。レビュータイトルにもしたが、著者のソフトで柔軟な文体のせいだろう。つまりこれだけ難解なことをたったこれだけのスペースでかくのは無理だからだめというレビューは必ずしも正しくない。逆にこれだけ難解なことをたったこれだけのスペースでかなりの程度噛み砕いて説明できたということだ。

個別の問題についてだが、特に「ヤン-ミルズ(理論)の存在と質量ギャップ」は非常に興味深い。場の量子論自体の存立、より普遍的には古代以来の自然学= #物理学 と数学との不可分な関係性それ自体の存立が賭けられている超難問だという事が理解できる。

また最終章「ナヴィエ-ストークス(方程式の解)の存在と滑らかさ」の記述での一般式とニュートンの運動方程式との対応関係を全ての項(質量=密度、加速度、外力、圧力、圧縮[ミレニアム問題では=0]、粘性に関する項)にわたってこのようにわかりやすく説明している記述はあまりないだろう。ただしこの最終章の最後の7頁以降における「弱解」の活用を巡る記述はさらに色々参照しながらでなければ(無論ここに限らないが)読解はかなり難しい。

なっとくする数学記号  ブルーバックス by黒木哲徳 

凄い入門書
Reviewed in Japan on May 4, 2021
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網羅的に高度な洞察に到る路をここまで噛み砕いて軽やかなスタイルで開陳した凄い入門書はなかった。教育的な狙いとしては現代数学への入口になっている。

上記網羅的に高度の一例としては、線形代数と関連領域だけでもsgn・行列式・rank・行基本変形・転置行列・対称行列・交代行列・固有値・単位行列・逆行列・直交行列・対角行列・エルミート行列・ユニタリー行列・ラプラス展開・トレース・次元・Im・Ker・次元公式つまりほぼ基本的な全領域をカバーしている。開集合・閉集合の構成論理(近傍・集積点・閉包・内点・内核・境界点)やディラックの超関数(ディラックの測度)の導出計算過程も必要最小限の記述で要点を押さえている。

なお、194頁の行列式の絶対値による平行四辺形の面積の公式が正しくはマイナス記号がプラス記号の誤植になっているのに注意(誤植av+はav−が正しい)。また多変数積分のヤコビアン迄出てくるが著者のマジックの様な記述で驚くほどスムーズに理解できる。そうなるように全体が緻密に体系化されているからだ。

 最後から2番目の第52章のベクトル解析「rot(回転)」の記述は全体で5頁だがここまで簡潔にして高密度の記述はかつて無かったかもしれない。本書の大詰(50~52章)はベクトル解析で最終章53章はガンマ関数とベータ関数である。やはりリーマンゼータ関数等に到る路の入口へと導くことが本書の狙いだったと言えるだろう。


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