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戯曲(たわみ)ノベルの創作ノート

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主に〜10分程度の創作台本を並べています。
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#小説

短編『窓際の姫君』

短編『窓際の姫君』

とある大学の、とある部室。

「……なるほど。この“おさげの子”には、実在するモデルがいるの?」

思わず『“姫君”です』と言い返しそうになったが、ぐっとこらえる。

「そうです。ただ、実際には話したこともないので、モデルと言っていいのか……」

「ふんふん。じゃあ、これは一種の私小説なんだな」

「そう……ですね。いや、やりとりは全部脚色っていうか、創作なんですけど……」

「面白い」
「……え

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【小説】ゲット・ザ・シュガーライフ(1)

【小説】ゲット・ザ・シュガーライフ(1)

よくよく見てみるとかわいいな、こいつ。
塗装が剥げたDSの中で、たぬきの店主が甲斐甲斐しく歩き回っている。その顔は、少し同居人に似ている。

「たぬきち顔だ」
「え?」

側で寝転がっていた彼が起き上がる。聞き取れなかったみたいだけど、無視してゲームを続ける。

「……今日は何もないんだっけ?」

疑問形は、珍しい。

「ん」
「……そ」

私たちの毎日は、いつもこんな感じだ。一間の部屋に二人でこ

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『お約束には乗れない僕ら』 その1

『お約束には乗れない僕ら』 その1

一話: 「いっけなーい!遅刻遅刻!」僕、原稔(はら みのる)の人生にはドラマがない。
顔も、体も、頭も冴えない。おまけに名前だってパッとしない。
何よりそれを苦にも思っていないものだから、そんな自分を変えることさえ諦めてしまっている。
おかげで多感と言われる高校二年生のこの時期に似つかわしくない、無感動で不感症な毎日。
今が好きなわけでもなければ、嫌いなわけでもない。何もかもが中途半端だ。せめてこ

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『Disqualification』

『Disqualification』

「ハイツギー!!!」(和訳:はい、次)

図書館の入り口では、無愛想な小男が待っていた。
乱雑な手つき、品性に欠ける声。

「ココは叡智の楽園ヨ」

無数の本だけではない。デッサン・彫刻・人体図。楽譜や蓄音機の類まで、ここには全てがあった。
男の言う通り、ここは叡智の楽園。
しかし、訛りの強い言葉を話す彼は、お世辞にもこの“叡智の楽園”の番人には相応しくないように思える。

「目的ハ?」

しかし

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『完成まで』

『完成まで』

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長い長い大きな道が、目の前に続いている。
自分と同じように歩みを進めている人間が、前後に米粒の如く見える。

空を見渡せばオーロラ。足下には霜。口からは白い吐息。

道の端から落ちたら何があるのか、道の果てまで行けば何があるのか。分からないまま足だけを動かしていく。

この道は前進を促してくる。ただ急かされるまま、歩を進めていく。

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老人 私を追い越すのか?
青年 ええ
老人

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