あなたにしか、言えない言葉を。
制作の過程では、「なにか」を「ことばで定義する」ことがよくあります。「なにか」とはデザインコンセプトだったり、企業理念だったり、コピーだったり、いろいろです。
そのためにクライアントと対話していると、主に「プラスイメージのことば」が飛び交います。
優しい。明るい。誠実だ。真面目だ。
ときどき、「ありきたりなことばになってしまいますが…」と謙遜される方がいらっしゃいます。
しかし、ありきたりなことばでは「らしさ」を表現できないのでしょうか。私はそうは思いません。大切なのは、「ことば」に質量を持たせることだと思っています。
たとえば、ある人のことを表すのに「明るい」ということばが適しているなら、それが最適なはずです。「明るい」を修飾しようと考え始めると、どんどんその人から遠ざかってしまいます。「うまいことを言おう」と狙った文章は、分かる人にはすぐに見抜かれてしまいます。
この場合、もっと踏み込んで考えるべきは「それは一体、どんな明るさか」だと思います。暗闇に灯るキャンドルのような明るさなのか、世界を照らす太陽のような明るさなのか、日を向いて咲く向日葵のような明るさなのか。同じ「明るい」でも、だいぶ印象が異なります。ことばの定義によって、できあがるデザインにも違いが生まれます。私たちが目指すのは、「明るい」をただうまく装飾することではありません。その人にしかない明るさを定義することです。
今回は、「ことばで定義する」過程で大切にしていることをまとめてみました。
ことばの意味を定義する
冒頭で書いたように、ひとつのことばにはいろいろな意味や使われ方があります。使われる文脈によって、受ける印象も異なります。
たとえば、「優しい」ということば。このことばの定義も、ときと場合によって異なると思います。
身近にいる「優しい」人を思い浮かべてみてください。
この3人はみんな「優しい」人ですが、想像するイメージ(姿かたちや性格)は異なるのではないでしょうか。「優しい」の種類は一つではありません。人の数だけ優しさはあって、ことばに含まれる意味も違います。
では、3人の「らしさ」を表現する場合、どんなキーワードが適切かを考えてみます。
もちろんこの他にも、たくさんのキーワードが考えられます。デザイナーと話をしていると、定義したことばからラフを描いてくれることもよくあります。
「優しい」をただそのまま受け取るのではなく「どんな優しさか」を定義すると、「誰でも言える、ありきたりなことば」にはなりません。その人にしかない「優しさ」を定義することで、表現へとつなげやすくなります。
関わる人の思いをのせる
どんなに綺麗なことばでも、うまいことが言えたとしても、そこに思いがのっていなければ、質量がないものになってしまいます。
そのことばを使う人、そのことばを目にするのはどんな人たちか。その人たちの思いを、背負わせるのにふさわしいことばは何か。いつも考えます。
たとえば、採用コンテンツをつくるとき。「採用」には、多くの人が関わります。求職者、求職者の親御さん、従業員、社長……にもかかわらず、求職者向けのメッセージはつい、会社からの一方的なメッセージになりがちです。思いが熱いければ熱いほど、「これも伝えたい、わかってほしい」という気持ちが加速するからだと思います。
その熱意は、すごくすごく大切です。大切にしてほしい。その思いを、求職者より先に受け取る私たちが考えるべきは、「この思いは、どんな表現であれば届くのか」です。
熱い思いをそのまま伝えるのがベストなときは、その熱量が伝わるような表現に。さりげなくさらっと伝えるほうが適しているときは、すこし温度を落として。抽象的なことばより具体的なことばを使って、しっかり安心してもらえるように。「らしさ」を表現するのに適切な温度、ターゲットに届けるのに適切な温度を探っていきます。
メッセージは、「やりすぎ」になってはいけません。「ちょうどいい」ところを見つけることが大切です(むずかしい)。
こんなふうに考えていると、回り回って、最初の表現に戻ることもあります。でもその時点で、そのことばにはたくさんの人の思いが宿り、質量があるものになっています。
考える過程を大切にする
ひとつのことばでなにかを定義するときは、「それがどのように導き出されたか」という過程がとても大切です。
たとえば、ある会社を表すのに「誠実」ということばが使われたとします。そのことばが、AIによって出力された「それっぽい」ものなのか、関係者で考えて考えて、やっと導き出された一言なのか。それによって、ことばの質量は全然違います。
誰でも言える「誠実」なのか、
あなたにしか言えない「誠実」なのか。
質量のあることばをつくるには、関係者で丁寧に対話し、それぞれが真剣に考え、方向性を合わせ、表現を探り……といった過程が必要です。
しかし、ただやみくもに時間をかければいいわけではありません。この作業は、関わる人が多ければ多いほど、思いが強ければ強いほど難しくなります。悩むこともたくさん出てきます。クライアントと、クライアントのお客様との間に立つ私たちは、両方の視点から適切な表現を探さなければなりません。その過程でにじみ出た「らしさ」を大切に受け取り、かたちにして、届けるべき人に届けることが、私たちの仕事です。
ことばもデザインも、AIによって「それっぽいもの」は誰でも作れるようになりました。だからこそ、考えて、考えて、みんなで導き出すものにこそ、価値が宿るのではないかと思います。
誰かが考えたからじゃない。
綺麗な表現だからじゃない。
あなたが考えたことばだから、価値があるんです。
あなたにしか、言えない言葉を
エルでは制作の過程で、デザインとことばが何度も行き来します。
「ことば」に質量が生まれ、色づき、かたちが生まれていく。この過程に立ち会うと、「らしさをつくる」の意味を実感します。
一緒に、あなたにしかない「らしさ」を見つけていけたらうれしいです。そのために今日も私たちは、デザインとことばの海を潜っています。
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デザインスタジオ・エルは「超えるをつくる」を合言葉に「らしさ」をデザインするWeb制作会社です。
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