ファンベース_02

あこがれの存在から身内の関係に変わったブランディング戦略:ファンベース

前回紹介したPURPOSEはおもに企業の内側の視点でしたが、今回紹介する本は外側=ユーザー(ファン)に向けてのことが書かれた本です。

どちらの本も共通しているのはブランディングという考え方に対して「好きになる仕組みや仕掛け」をつくることで、「便利だから買う」「性能が優れているからこっちにする」といった合理的な判断ではない人間の感情を大切にしていることだと思います。

ファンベース
佐藤尚之
ちくま新書 2018.02

これまで多くの本を読んできた経験上、新書系の本(文庫本サイズの1000円以下で買えるような本)は、内容に偏りがあったり著者の持論が強い傾向があります。なので1つのテーマを勉強するときは新書だけを読むことはしないようにしています。

だけど、この本は新書でも例外です。優れた一個人のオリジナルメソッドとも違うし、学術的な研究ベースに導かれたものでもないけれど、顧客視点でものごとを客観的に捉えて、事例をもとに今の時代に適した考え方が体系的に整理されている内容です。

そんな本書にはファンとのつながりを強めるための方法論が紹介されています。大きな流れでは次の3つのステップになります。

1.少数のファンから始める

そもそもファンとはどういうことでしょうか。

本書の中ではパレートの法則(8:2の法則)をもとに、2割のお客さん=ファンが8割の収益を支える構造が多くの業界に見られることを述べています。もしこの割合が1:1であったならそれは均一化された価値なので、例えば競合が出てきたときに簡単に乗り換えられてしまうことを意味します。

つまり、「外部要因に右往左往しないで、自社が提供する価値を絶対評価で『好き』と思ってもらえること。」それがファンだといえます。

最初はこの2割(はじめは数人から)の心をつかむことが大切で、それには提供するプロダクトが優れたものだったり、それを心から素晴らしいと思って販売してくれる社員がいるかから始まります。居酒屋を例にあげると、ごはんが美味しかったり元気な店員がいることが大事なように、何もないところからファンは生まれません。

なので、まず自身の内側からしっかりとつくることが基本です。

2.ファンを常連にして少しづつ増やす

ここからが本書がメインで語られている内容です。この段階ではファンがまた通ってもらえる常連さんのような状態にすることを目指します。居酒屋さんを想像するとわかりやすいですね。

具体的には次の3つの観点があります。

・共感:ファンの声に耳を傾けて、お互いにわかちあう
・愛着:オリジナルの要素を持たせる
・信頼:丁寧に誠実に接する

居酒屋でも、次にもう一度行きたいかどうかは、こういったことに現れるかと思いますが、上にあげた3点はどれも「体験価値」が強く起因しています。デザインの立場で捉えると、体験を考えるUXデザイナーの活躍が期待される領域であるともいえます。

3.常連を身内にする

最後はまるで身内のような存在にすることがゴールです。例えば居酒屋であれば、釣った魚を食材として提供してもらったり、一緒にメニューを考えたり、新しいお客さんを呼び込んでくれるといった状態です。

この段階で常連の状態は次のように進化していきます。

・共感 → 熱狂:一緒に価値をつくってくれる
・愛着 → 無二:かけがえのない存在になる
・信頼 → 応援:存在に人の顔が見えて社会のためにつながる

これらは、いま風の言葉にすると「共創/コ・クリエーション」になります。デザイン思考などでも共創の考えは重視されていますが、実際にユーザーと共創をするには、ファンベースの積み上げがないと実践するのは難しいといえます。

解説を多少、自分なりの言葉でアレンジしてはいますが、以上が本書の概要です。それぞれの内容や、具体的な取組み方や事例については、本書を読んでいただければと思います。(新書なのでお財布にやさしめです)

・・・・・

まとめ

今回のファンベースは、前回のPURPOSEや、WORKMILLのイベントで取り上げられていたD2Cやチームワークの話にも通じる点が多かったように思います。僕なりに観点を3つにまとめてみます。

・まずは内側の素材をしっかりつくる(組織、社員、商品...)
・数値で示しにくい人の感情に届ける体験価値に着目をする
・みんなと一緒につくる共創の関係性を目指す

これまで僕はブランディングに対する実践経験が少なく、こういった内容にあまり自信はなかったのですが、上にあげた本とイベントを通じて、少しずつ自分なりのブランディングに対するメソッドやプロセスの輪郭が描けるようになりました。

従来型のブランディングは、高価格なモノやあこがれといった要素が強いものでしたが、これからのブランディングはユーザーと対等な目線で一緒につくっていくものに変わってきています。

例えるなら、昔の巨人軍はあこがれによる強いブランド力を備えていたけれど、いまは横浜や広島のような選手と観客が一体となって試合に勝つというような共創の関係が、強いブランド力につながっています。前に読んだ本のなかで横浜ベイスターズのこの本は、かなりの部分で共通点があるかと思います。(でも僕は広島ファンなので、そっちの本も読まないと)

https://designstrategy-studyroom.blogspot.com/2018/06/blog-post_30.html

令和時代のデザインブランディング戦略、もっと勉強+研究します。興味を持った方がいましたら、本を読んでいただいて一緒に議論しましょう。


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デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。