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街と自発性 「世の中の幸福研究の潮流」

*本投稿は株式会社デンソーデザイン部の自主研究活動であり、弊社の開発案件や事業をご紹介するものではありません

こんにちは、デンソーデザイン先行デザイン課の平賀です。

今回は人の幸福について、世界ではどのような議論がなされてきたか、またその中でなぜ我々が自発性が重要と考えているかについてお話しします。

快楽的幸福と持続的幸福

人の幸福に関する研究は心理学の領域で活発に議論されていますが、以前は快楽的幸福 (その瞬間ごとの快楽を追求すること) が重視されていました。人々の欲求を喚起して経済を活性化されることが幸福につながるという考えです。

しかしながら、GDPが二倍三倍と成長しても国民の幸福度が何年も横ばいであったことから、欧米では新しい幸福の概念として、

持続的幸福 (ウェルビーイング)

という考えが生まれてきました。
刹那的な欲求を満たすのではなく、持続的な、肉体的、精神的、社会的充足が幸福につながるという考え方です。

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ポジティブ心理学とは

この、持続的幸福を実現する領域横断的かつ実践的な学問がポジティブ心理学です。ポジティブ心理学ではPERMAと呼ばれる5つの要素が持続的幸福を高めるとしています

Positive Emotion :ポジティブ感情 (嬉しい、楽しい、感動など)
Engagement :没頭、フロー体験
Relationship :関係性
Meaning :意味・意義
Accomplishment :達成

前向きに自分の行動に意味を見出し、没頭し、達成し、周囲と良い関係性を築く、と置き換えてもよいかもしれません。

今回は割愛しますが、この理論を提唱したM・セリグマン氏は自著において多くの研究事例を提示しており、実際に教育機関や米国陸軍等で幸福度向上の成果をあげています。(一方心理学全体で見ると、再現性への問題の提起もされてもいます。参考 : Go Ando 氏の心理学の再現性に関するツイート)

このため現在では多くの研究者がM・セリグマン氏の理論をベースに研究を行っており、日本国内ではドミニク・チェン氏慶応SFCの前野先生等、これらの研究を踏まえた上で日本の風土に合った幸福論の構築を模索しています。

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自発性は幸福の入り口

このPERMA理論、つきつめると

ポジティブな感情になって自発的に何かにのめりこみ、目標を達成したり、コミュニティへ貢献できると幸福になる

と言うことが出来ます。
以前ご紹介した「DIY Society」の記事で、
DIYが街にとって重要でも、個人の幸せにつながるかは別問題では?
という疑問があることを申し上げましたが、PERMAの理論に従うと、
生活者がDIYで暮らしをアップデートすることは街だけでなく個人の幸福にも意味があるということが言えそうです。

そういう考えると、自発性は幸福の入り口とも言えそうです。
没頭することも関係性を結ぶことも、それらを支援するサービスやプロダクトが世の中には多く存在していますが、そこに至る最初の一歩はその人の自発的な行動に依存します。自発性を高めることがその先の持続的幸福へつながり、自発性の高まりが街の持続的更新の動力源となると考えられるのではないでしょうか?

セリグマン氏は、その最初の一歩をポジティブ志向にするためのカウンセリングによって実現しようとしました。人の個性をいくつかのキャラクターに分類し、そのキャラクターがもつ強みに応じたカウンセリングを行い、その人には能力があること、社会から必要とされていることを感じさせ、「私ならできる」という気持ちを持たせることで自発性を高めたのです。

カウンセリングはとても有効な手段です。
しかしながら単純に都市に住むすべての人にカウンセリングを行う、ということは企業活動としては現実的ではありません。持続可能な企業活動を行いながら、うまく生活者の自発性を高める仕組みを作る必要があります。

それをどのように実行するかは、また次回以降、デンソーの都市に関連する活動領域をご紹介しながらお話しさせていただければと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


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