ふたつの『平家物語』
小林秀雄には1948(昭和23)年の『私の人生観』をはさんだ、二つの『平家物語』がある。戦火が深まりつつある1942(昭和17)年に発表した『平家物語』と、戦後15年が過ぎて高度成長期真っ只中の1960(昭和35)年に発表した『平家物語』だ。前者はこれまでに触れた『当麻』や『西行』などと合わせて同年に単行本『無常という事』に収録された。後者は1964(昭和39)年に大ヒットとなった『考えるヒント』の一つである。
戦中・戦後と18年という時間を経た2つの批評は、まったく趣が異