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VTuberにとっての2Dと3D

ソフトウェアとしての2Dと3Dの違い

 YouTubeへの動画投稿から始まったバーチャルYouTuber文化は、性別や国籍を問わず広がり続けている。生身のYouTuber同様に企業とのタイアップを引き受けるだけでなく、企業の広報活動の一環として専属VTuberがデビューするなど、商業分野においても躍進の止まらない界隈だ。
 そんな彼らにとって大切な要素のひとつが、キャラクターとして振舞うための肉体たるCGアバターである。演者の体や顔の動きをトレースし、表情や身振り手振りを再現することによって、感情や意図を視聴者に伝えるのがアバターの役割となっている。また、ファンアートをはじめとするファン活動においても、アバターの容姿や演者のよく取る挙動はキャラクターイメージを伝える上で重要な存在となっている。

 配信や動画の中でCGアバターを動かすためには、専用のアプリケーションを利用する必要がある。事務所が独自に供給するものも含めると種類は多岐に渡るが、大まかに『2Dアバター』と『3Dアバター』に二分される。この二者のもっとも大きな違いは、扱うCGモデルの種類が異なる点である。

 2Dアバターを動かすソフトは、平面のイラストをベースに作成されたCGモデルを読み込む方式となっている。このモデルは、見た目には一枚の絵のようだが、実際には複数の層(レイヤー)が積み重なって構成されている。関節をパーツに分け、それぞれに操るための紐や棒をつけた紙人形をイメージしてもらうとわかりやすいだろう。
 これをカメラから取得した演者の映像とリンクさせ、画面上で動かすのである。一般的なアニメーションの場合は手や足もダイナミックに動くが、バストアップで配信画面に映す頻度が多いVTuberの場合には、胴体の向きや角度と手足の挙動をリンクさせて狭い範囲を揺らすことが多い。普段カメラの視野に収まる範囲を基準として、映らない部位に違和感の少ない動きをさせる技術はVTuber独特のものと言えるだろう。

 一方、3Dアバターを動かすソフトでは、立体化されたCGモデルを演者が装着したセンサーや多視点のカメラ映像によって得た情報とリンクさせる方式が採られている。顔の表情だけでなく、指先や足先などの細かい部位を演者の動きとモデルの動きを合わせることで、物を手に取るなどの表現も可能となる。
 映画など映像表現の界隈で用いられてきた技術がベースであり、ライブイベントなどでは積極的に使用されている。また、近年はVRコンテンツやモーションで遊ぶ家庭用ゲームの登場によって、VTuberが遊ぶ様子を反映して画面に出すといった使い方もされている。

 2Dアバターと3Dアバターとの間には様々な違いがあり、またそれぞれに長所と短所が存在している。いずれかひとつで事足りるわけではなく、用途に合わせて使い分けるのが理想と言える。
 今回は2Dと3Dとでどのような良さがあるのか、どういった用途に活かしていけばVTuberとして魅力的なのかについて語っていく。なお僕はそちらの技術者ではないため知識的に不十分な点もある。より正確な情報を求める場合は、ソフトウェアの説明書やアバターを嗜む有志の運営しているWikiなどを参考にして学んでほしい。

低刺激の2D、インパクトの3D

 まず大きな違いとして挙げられるのは、配信画面・動画のワンシーンにおけるインパクトや刺激力の差だろう。

 造形や色彩に奇をてらったものでない限り、2Dのアバターはリスナーの視覚に対して刺激の少ない存在である。画面のセンターに大きく配置する場合は注目が集まるが、画面端に小さく表示している時はそこまで気を取られることがない。ゲーム画面がメインの実況配信などでは、ほぼ添え物のようになっていることが多い。
 「目立たないということは、キャラクターとしてデメリットになるのではないか」と思った方は少なからずいるだろう。しかしながら、配信というコンテンツにおいてはむしろ有利に働く場合があるのだ。
 たとえば、ゲームを実況するにあたって配信者が見てほしいのは、プレイの巧みさや劇中の魅力あるストーリーである。配信者の声が挟まるにせよ、リスナーに対してはできればゲーム画面に集中してくれる方が望ましい。
 しかし、アバターの動きが派手で視覚を引き寄せてしまうと、メインに据えたコンテンツに意識を向け続けることが難しくなってしまう。最悪の場合リスナーに「こいつは余計なことをしてゲームをつまらなくする」という印象を与えてしまいかねない。
 つまるところ、ゲームそのものを楽しんでもらうには、個性はあっても目立たない方が良いのである。そういった点で、2Dアバターの動きの少なさは効果的に作用すると言えるだろう。

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