夜のコリアンタウン

夜の生野コリアンタウン~スンドゥブチゲの赤~

駅を降りると、焼き肉の香ばしいにおいが鼻に届いた。鶴橋に来た。すぐに実感がわいてきた。夜、7時。夜に二回目の生野コリアンタウンを訪問するのである。

前回行ったときは、昼時だった。昼時の生野コリアンタウンでTWICEやBTSの様相を呈した人々に押しつぶされながら、なんとかビビンバを食べ、ホットクをつまんで帰った思い出がある。昼時の様子と、雑多を肌感覚で理解した。また来たい。人の多さに圧倒されながらも、どこか異文化と特殊性を感じるコリアンタウンにまた来たいと思ったのであった。

そして、僕はもう一度生野コリアンタウンに行くことができる機会をえた。その日は、日程的に夜しか空いていなかったので夜に行くことにした。夜のコリアンタウンもまた違って面白いのかもしれない。僕が想像したのは、夜店が光を照らし、ならぶ賑やかな市場のような光景であった。

JR鶴橋駅の中央改札口を出た。マップを見ながら、生野コリアンタウンを目指す。途中、通る駅裏や高架付近に立ち並ぶ店は相変わらずのにぎやかさである。焼き肉の臭いが鼻をさす。ここに来ただけでも、ここをじっくり回っておいしいものを食べるだけでも十分に思える。ところどころ聞こえる韓国語、そして日本語と入り混じった声が聞こえる。この特殊性が僕を興奮させる。なにか違う場所に来たようなわくわく感と、共同体というものが如実に伝わってきて知的好奇心をくすぐるのだ。

生野コリアンタウンに向かうときに、すれ違うのは、TWICEやBTSである(もちろん本物ではない)。彼らは仲睦ましそうに、男女何れにせよ赤唇を煌々と光らせている。そのようなおそらく駅へと向かう彼ら、彼女たちとすれ違うぼくは顔にはニキビが多くあり、どこかそれらの人々とは異なる思いを持って生野コリアンタウンに向かっている。

生野コリアンタウンに向かうにつれ、静けさは増していく。あれ、もしや。周辺店も軒並みシャッターが下りているので、鈍い勘でも気が付くのである。ついに、コリアンタウンの入り口。マップが案内を終了して、しばらく歩くと、「コリアンタウン」。という看板があった。そのさきを見てみると、そう、静けさに包まれている。あの夜の市場の想像は想像にすぎなかった。

街灯の明かりだけで、人は地元の人と思われる人がぽつり、ぽつり、といるだけ。ほとんどの店はしまっている。もちろん、TWICEもBTSもいない。
僕はせっかくきたから、折り返すのもなんであると思い歩いてみる。今日は歩いていても片手になにか飲み物か食べ物をもったTWICEやBTSに押しつぶされることはない。だから蛇行して歩いている。途中地元の人と思われる人たちとすれ違うが、彼らは僕を気に留めることもないのである。だから、僕は一人、夜のコリアンタウンを歩くことができる。誰も何も気にすることなく。途中、コンドームの自動販売機があり、今時珍しいと思い写真に収めたりもする。TWICEやBTSの前では絶対に撮ることのできない写真だ。

何となく、ほとんどの店が開いていなくてもそこはどこか異文化で特殊性をもっているように思われた。そして、共同体の臭いが如実にする。もちろん僕の思い込みもあるだろうけれど、思い込めただけでも十分だ。

ところどころ空いている店は、人が少ないので入ってゆっくりみることができる。店の選択肢は少ないほうが逆に楽しめるのかもしれない。僕は、あまり興味はないけれど、韓国のパックやコスメなどの店などにも目を通すのであった。しかし、すごく面白く感じた。僕はじっくりとみているのだ。ハンドクリームのハングルの説明まで、事細かに。とにかく夜のコリアンタウンはその細部まで、じっくりと観察することができる。どこかその特殊性に惹かれている僕は夜に行った方が向いているのかもしれない。

せっかくだから、夕飯を食べて行こうと思い、どこか店に入ることにした。店をみているとどこもすいているのでどこでも入ることができる。結局僕は韓国料理が食べたいと思い、店頭においしそうなサンプルが並んでいるその時近くにあった韓国料理店に入ることにしたのであった。

僕はスンドゥブチゲを食べたことがなく、ずっと食べたいと思っていたのでその店でスンドゥブチゲを頼んだ。最初にナムルとキムチが出てきた。ああ、おいしい。韓国料理は大好きだ。これはメインと一緒に食べるものなのか。しかし、その美味しさに小皿に入ったそれらをメインが来る前に平らげてしまった。あれは、お通しだったのだろか。

最初に出てきたものを食べ終え、先ほど撮った夜のコリアンタウンの写真を眺めて待っていると石窯に入ったスンドゥブチゲが来た。赤い。とにかく赤い。そして、銀の器に入ったご飯。ああこれでやっと食べられる。

まだぐつぐつといっている、赤い、赤い、スンドゥブチゲをスプーンですくって勢いよく食べた。熱い、辛い、そしてうまい。これがスンドゥブチゲか。しばらくすると、体内の血行が促進されるのがわかる。気持ちいい。スンドゥブチゲは情熱的な料理だ。僕は一人だったので、うまいなどと声を発することはない。しかし、一口食べたと同時に僕は血がみなぎった静かなる情熱家となった。

次々とスプーンをチゲに、ごはんにと運ぶ。とにかく熱い、とにかく辛い、そして海鮮の風味のあるスープはとにかくおいしい。来てよかった。食べながら、心底そう思った。そして、身体が暖かくなったからかどこか安心した気持ちになった。

結局、僕はスプーンを運ぶ手を休めずに食べた。食べ終わるころには汗だくになっていたのだった。

店をでて、再び夜の生野コリアンタウン。また来よう。今度も夜に。僕はJR鶴橋駅へと歩んだ。帰り道、高架下の大音量でk-popが流れるおしゃれなかき氷の店(パッピンスと言ったかな?)に寄ろうとする。「お兄ちゃん。今日は、もう終わりだよ。」「あ、そうですか。」

僕はどうやらTWICEやBTSにはなれないようだ。しかし、食べたかったな。かパッピンス。それはまた今後にお預けということで。再来する理由ができたのだ。喜ぶまでだ。

        スンドゥブチゲの赤は僕の心にとどまっていた。

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