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【書評】東芝の悲劇


1.本書について

東芝は言わずとしれた、日本を代表する企業だ。戦前に端を発し、しろもの家電、半導体、インフラなど多岐にわたって日本経済をけん引してきた。土光、石坂、西室など、東芝出身の財界有力者は多い。そのような東芝が、2015年、おおよそ2000億円の粉飾決算が発覚した。その裏には、何があったのか、取材を通して、90年代終わりの西室体勢から崩壊までを描いた本である。本書は、社長の姿、日本をとりまく経済状況、官民関係の視点で読むことがおすすめされる。

2.本書の中身

2-1.社長

90年代終わりの西室体勢から始まり、田中体制までを描いている。要所、要所で垣間見えるのは、地位への固執である。人事権を利用し自らの派閥を作り、ものを言わせない体制をつくる。そして、社内での派閥争いに没頭する。それゆえに、ミスや損失が許されない社内文化ができたと作者は分析している。

2-2.日本をとりまく経済状況

この本には書かれていないのだが、90年代からの日本は、実質経済成長率をみると、1パーセント前後で推移している。本書でそれと呼応しているように描写されるのが、家電、パソコンの衰退である。そして、インフラといった重電部門に力を入れようと、ウェスチングハウスの買収に乗り出すのであるが、東日本大震災の原発事故などもあり、それが巨額の損失を招くことになる。東芝の衰退は、日本経済とともにある。

2-3.官民関係

経済産業省は原子力発電を輸出しようと、ウェスチングハウス買収時に東芝の背中を押した。また、東芝メモリー売却時においても、官制ファンドが関わっている。この大企業東芝と、行政の関係は官僚国家としての日本が未だその姿をとどめていないことが垣間見える。そして、時にはそれが裏目にでることもあるのである。

2-4.粉飾

主に粉飾の手口として使われたのは、「バイセル」と呼ばれる。決算直前になると、時価よりも高い価格で製造委託元部品を売りつけて、価格を水増し、決算後後に完成品を買い取り、水増し分を相殺して元の原価に戻すという手口である。他にも、のれん損失が発生したときに、損失計上しないなどが行われていた。こうしたことが積み重なり、2000億円にも上る粉飾が明らかになったと言われる。その粉飾を生み出したのは、上にあげた、社長、日本をとりまく経済状況、官民関係であるというのが本書の論旨である。

3.評論

本書は、粉飾や崩壊過程にある組織の内部を、そしてここの人物像を細部に至るまでドキュメンタリー的に、ジャーリスティック描いており、非常に臨場感が伝わってくる。ピラミット型の組織、そして外からの風のない組織は、旧日本軍にみられるように、その方向を間違えれば、危うくなることはわかる。一方、そのようななかで粉飾を生み出したのは、いったい何なのだろうか。本当にその社内文化なのだろうか、日本の経済状況だろうか、官民関係なのだろうか、確率論的に帰結されようか、恐らく複合的であろう。つまり本書は東芝という日本を代表する企業の痛ましい粉飾のその裏側の姿をしめしてくれるが、何がそれを生み出したのかということについては完全にはわからないのである。だから、この本を読んだ読者が「日本型組織が粉飾を生み出した。」とするのは、あまりにも短絡的だろう。本書は、良い作品であるのは言うまでもないが、読んだ後の読者は読み捉え方、そしてこの本を紹介するとき、注意する必要があるのである。

このようなことは、どこでも起こりうる。何も東芝に限ったこと、他人事ではないのである。そのような危機感を抱き、風吹く夜に桜の散り具合をふと気に留め、本書を閉じるのであった。

【参考文献】

本書を読み解くうえで、会計の知識が不確かであったため、細く資料として以下を用いた。


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