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ビジネスを発明する上で大切なこと <企画編>

「新たなビジネスやプロダクトの発明を通じて未来をデザインする。」

ビジネスインベンションファームを標榜するI&COのウェブサイトには、このような言葉が掲げられています。では、ビジネスを発明する上で欠かせない要素とはいったい何なのでしょうか。

社会人として働き始めて10年。新卒で入社した事業会社では新規事業チームの一員として、事業の立ち上げやマーケティングコミュニケーションの仕事を経験しました。そこから対岸となるクリエイティブの業界に身を移した後も、企業の新規事業を支援させていただく機会に恵まれました。新規事業とクリエイティブ、その両面を行き来しながら事業のデザインを考え続け、昨年たどり着いたのが、先述したビジネスインベンションファーム・I&COです。

そこで、入社後1年が経った今、ビジネスを発明する上で大切だと思うことを、これまでの経験をもとに自分なりに書き起こしてみたいと思いました。ひと口にビジネスの発明と言っても、コアとなるビジネスアイデアを<企画>する側面と、様々な課題や障壁を乗り越え、実現へと至らせる<実行>の側面の、大きく2つの面が存在すると考えています。今回はその<企画編>ということで、事業の企画と向き合う上で重要だと思うことを改めて考えてみました。


1.  事業としてのサステナビリティ

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まずはじめに挙げたいのが、事業としてのサステナビリティです。このご時世、サステナビリティと聞くと、ビジネスを通じた環境への負荷をなるべく軽減することのように思われるかもしれませんが、ここで言いたいのはそのことではありません(それはそれで重要ではありますが)。ここでのサステナビリティとは、事業そのものの持続可能性。つまり、事業として長く続けていける設計がなされているか、という観点です。

今回、ビジネスを考える上でのアイデアと、他のアイデアとの違いは何かと考えたときにまっさきに思い出したのが、事業会社の社員として、広告クリエイティブ業界の方々のプレゼンを聞いているときに感じた違和感でした。今は状況もかなり変わってきてはいますが、ひと昔前までの広告クリエイティブ業界では、いかに認知を獲得し、話題化させ、商品購入などの目的に結びつけるか、そのための最大瞬間風速を作るアイデアが求められ続けていました。そうした企画の筋肉を身にまとったクリエイターたちのアイデアはとてもユニークでおもしろいものばかりなのですが、当時クライアント側の人間として提案を聞いていた僕は、「これは◯◯さん(事業部の意志決定者)には刺さらなそうだな」という、直感めいたものを感じることが多かったのです。その経験を振り返りながら、違和感の正体を考えたときに思い当たったのが、先ほど挙げた「事業としてのサステナビリティ」の有無でした。

当然ながら、ビジネスは続けていくことが前提です。続けることに意義があると言えるかもしれません。初期投資の回収も、利益の拡大も、続けることが大前提。さらに、じっくり腰を据えて取り組み続けてきたプロセス自体、やがて大きなブランドとしての財産になる。そうした中長期的な視点が欠かせないのがビジネスの世界です。一方で、クリエイターが考える企画は、最初こそいいものの、数年スパンで見た場合、すぐに失速してしまい、二の矢、三の矢と、コストとリソースを次々につぎ込まなければならない、消耗戦のような状況に追い込まれてしまうものがほとんどでした。企画がサステナブルではないのです。

このフロー型かストック型か、というアイデアの質の違いが、事業の企画を考える上で重要な要素のひとつだと僕は思います。続けられるかどうか、 プロモーションの域を抜け出せるかどうか。話題になったものの、すぐ忘れ去られる、飽きられて終わり、では事業として成立しません。「新規事業は3年で芽が出て、最低5年はかかる」なんて言葉もありますが、最初は儲からないのが当たり前で、しっかり続けていくことが重要。ビジネス番組で報じられるような新規ビジネスを最短距離で立ち上げたい、とつい考えてしまいがちですが、すぐ頭に浮かぶような事業やサービス、プロジェクトも、そのほとんどが、赤字からスタートし、何年もかけてようやく今の地位を築いたものばかりです。かねてより優れたサービスであったUberEatsやOisixがコロナ禍で一気に加速・浸透したように、こうしたからヒットした、ではなく、ヒットしたのはこうし続けてきたから、というのが成功しているビジネスやサービスの実態に近いのではないでしょうか。狙って当てるなんて無理だという前提に立ち、いろんなトライをし続けないといけない。打席に立ち続けることが重要で、そのためのデザインがなされているかどうかが大きな鍵となるような気がしています。

これは余談ですが、国内での先駆け的なソーシャルプロジェクトのひとつである「TOYOTA SOCIAL FES」の企画に携わった方が、「こうした取り組みは消費の対象になったら終わりなので、あえてバズらないように、ちょうどいいローカル規模な盛り上がりを維持しながら長く続けていけるプロジェクトに設計した」と語っていました。(2011年からスタート。現在はコロナのため休止中。)

持続可能性を伴ったアイデアを考えるのはとても難しいことですが、その丁寧な設計こそが、ビジネスの発明には求められている気がします。


2.  一歩目のデザイン

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I&COには「Building Practical Futures」という言葉があり、その意味するところを「手を伸ばせば届きうる実践的な未来の創造」 と訳しています。

Why Practical Futures?
未来の創造に必要なのは、ただ理想を語るだけでなく、それを実行に移していく実現力。様々な企業とともに新たなプロダクトやサービスをデザインし、実践的な未来をつくっていくことが私たちの使命です。

この「実践的な未来」という言葉を僕はとても気に入っています。そして、それを僕なりの言葉で置き換えたのが、この章のタイトルである「一歩目のデザイン」です。

何事も、まずやってみないことには何も始まりません。長く続けれるかどうか以前の問題です。理想を追いすぎると頭でっかちになってしまい、具体的な一歩をなかなか踏み出せなくなります。始めてみた結果として見えてくる世界や可能性だってあります。いきなり壮大な物語を描くのではなく、この一歩目の足の踏み場をどう用意するか。低すぎても高すぎてもダメなその足場をうまく設計する力こそ、ビジネスの発明を支援する仕事には求められていると思います。

企画のプレゼンにおいても、将来的な理想やビジョンを語った上で、まずはここから始めてみましょう、という落とし所をちゃんと作っておく。よっぽどの会社でない限り、まだ何もしていない状況でいきなり大きなリスクを取ることはできません。アイデアの大きさだけに囚われず、一歩目と十歩目を同時に考える。そうしたある種の緻密さも必要なのだと思います。

一方、前の章と矛盾するようなことを言いますが、その一歩目は決して地味なものであってはいけないとも思います。新規事業の最初のトライにおいては、大抵の場合、設定された数字を達成することはできません。最初から軌道に乗せること自体が難しいのもありますが、事業化の承認を得るために、計画をアグレッシブな数字で作りがちなのもあるでしょう。いずれにせよ、数字には届かない可能性が高い。そんな状況下で、上層部に「いける」「しばらく様子を見てみよう」といかに思ってもらえるか。数字以外の面での「期待感」「ワクワク」をどう作るか。ここに、クリエイティブの役割があるような気がしています。

いいか悪いかという理性的なロジックだけでなく、好きか嫌いかという感性的な価値こそが、「期待感」「ワクワク」のトリガーになる。I&COのMaximのひとつに「ロジックよりマジック」という言葉がありますが、このマジックが一歩目のデザインに施されているかどうか。それこそが、次なる二歩目の行く末を左右するのではないでしょうか。


3.  「Why」があるか

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企画編の最後は、「Why」があるか。なぜ、何のためにこの事業をするのか。単に儲かるから、便利になるから、おもしろいから、だけではない、大義やビジョンがその企画にあるか、という観点です。

企画が得意な人は、アイデアを考えること自体が好きな場合が多いと思います。人とは違う、おもしろいアイデアを思いつくことが楽しくて仕方がない。その際に陥りがちなのが「Why」の欠落です。「こんなアイデアを思いつきました!」まではいいものの、「では、その事業を自分でやりたいと思いますか?」と聞かれると、たちまち答えに詰まってしまう。最初の話に戻りますが、ビジネスは一過性のものではありません。一度話題になって終わり、ではなく、ずっと背負い続けていかなければならないものです。僕自身も自分で考えた企画を眺めながら、企画としては成立しているし、誰かがやってくれるならいいけど、自分が時間と労力を費やしてまで実現にこぎつけたいかというと、そこまで強い思い入れはないな、と感じることがよくあります。

何が何でもこれを実現したいという強い想いと信念がないと、企画に推進力が生まれません。安っぽい表現かもしれませんが、企画に魂がこもらないのです。生きた企画は人の胸を打ち、ひとりでに歩き出すことさえありますが、魂のない抜け殻のような企画は、必ずどこかで倒れるか、フェードアウトしてしまいます。繰り返しになりますが、「Why」は事業企画の肝であり、魂そのものだと思います。

確固たる「Why」が根底に備わっていることで、事業には2つの強みが生まれます。ひとつは、そのビジョンのもとに人々が共感し、集まってきてくれること。取り組みを大きく力強く進めていくためには、この「人を巻き込む力」が欠かせません。そしてもうひとつが、ビジネスモデルは真似できるが、価値観や信念まではコピーできないということ。事業がうまくいけば必ず似たような商品やサービスが現れるものですが、志までは再現が不可能です。似せて作ってみたところで、ハリボテであることはいつかバレてしまう。競合がすぐに現れ、レッドオーシャン化、価格競争となりがちな現代において、「Why」はブランド価値を高め、差別化を図る上での重要な武器となるでしょう。

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さて、今回は「ビジネスを発明する上で大切なこと <企画編>」ということで、ビジネスにおける企画と他の様々な企画との違いを、自分なりの観点から3つ挙げてみました。もちろん、人によって見解の違いや、要素として不足しているところも多々あるとは思いますが、改めて自分なりに考えてみたことで、自身の企画のあり方を見つめ直すいい機会になりました。

次回は<実行編>ということで、企画の実現に向けて進めていく上で重要となるポイントを、今回同様、これまでの経験と向き合いながら考えてみたいと思います。


<このnoteを書いた人>
Daiki Kanayama(Twitter @Daiki_Kanayama
1988年生。大阪大学経済学部を卒業。在学中にインド・ムンバイ現地企業でのマーケティングを経験。ソフトバンクに新卒入社後、新事業部門に配属。電力事業や海外事業戦略など、様々な新規事業の企画、事業推進に従事。創業メンバーとしてロボット事業の立ち上げを経験後、専任となりマーケティング全般を担当。2017年からは事業会社を支える側に身を移し、ソニー新規事業のマーケティング業務を1年間常駐支援。その他、著名企業のCI戦略、SDGsプロジェクトの企画開発などに従事。現在はビジネスインベンションファーム・I&COの一員として、大手企業の新規事業、ブランディング、商品サービスの企画開発に携わる傍ら、個人としてスタートアップの支援も行なっている。

受賞・入賞歴に、Clio Awards、Young Cannes Lions / Spikes、Metro Ad Creative Award、朝日広告賞、グッドデザイン賞など。

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