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ビジネスを発明する上で大切なこと <実行編>

早いもので、社会人として働き始めて10年が経ちました。新卒で入社したソフトバンクでは、新規事業チームの一員として、ロボット事業の立ち上げや、新規事業の企画、マーケティング戦略の立案などを経験。そこから対岸となるクリエイティブの業界に身を移した後も、ソニーをはじめとする様々な企業の新規事業を支援させていただく機会に恵まれました。

新規事業とクリエイティブ、その両面を行き来しながら事業のデザインを考え続け、昨年たどり着いたのが、ビジネスインベンションファーム・I&COです。

「新たなビジネスやプロダクトの発明を通じて未来をデザインする。」

入社後1年が経った今、I&COが掲げるこの言葉と改めて向き合い、ビジネスを発明する上で欠かせない要素や大切だと思うことを、これまでの経験をもとに書き起こしてみることにしました。

まずはビジネスアイデアを<企画>する側面について触れてみた前回。その続編となる今回は、様々な課題や障壁を乗り越え、企画を実現へと至らせる<実行>の側面にスポットを当ててみたいと思います。

1.  実行の肝となる推進体制づくり

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事業の企画を実行フェーズへと移していく際、真っ先に重要となるのが、実行へと進めていくプロセス、推進体制です。まずはその中心を担う、プロジェクトリーダーについて。

社内にしがらみが少なく、リーダーシップをいかんなく発揮できるフレッシュな専任リーダーと、社内の逆風から彼/彼女をかばう、経営層による旗振りや支援が重要というのはよく言われることですが、ここで忘れてはいけないのが、現場で彼/彼女をすぐそばで支える女房役の存在です。リーダーがフレッシュであればあるほど、社内政治やコネクション面が弱くなりがち。その弱みを補完し、地盤固めをしっかり行い、リーダーの進行をサポートする社内事情に詳しい仲間がそばいるかどうかが非常に重要となります。この女房役は専任リーダーの上司が務める場合もありますし、同僚、あるいは部下が担う場合もあります。プロジェクトリーダーが決まり、事が動き出して次にぶつかる壁が、キーマンの巻き込み。ここでの根回しやトップダウンの力を活用するためにも、社内に幅を利かせられる女房役の存在や、先述した経営層による支援
が欠かせません。

また、誰がプロジェクトのオーナーシップを持つのか。専任リーダーの選定そのものも大切です。アイデアを出すだけでは不十分で、そのアイデアを実行にまでどう持っていくか、推進体制や責任の所在を早めに握っておかないと、後々、役割分担や責任の押し付け合いで大変なことになりがちです。特に昨今増えている共創系の新規事業などでは、プロジェクトに関わるステークホルダーが多い中、どの企業・部署の誰がリーダーシップを発揮し、引っ張っていくのかが不明瞭なまま事が進みがちなので、特に気をつける必要があると思います。

このように、企業のこれからを考えて始める新規事業ですが、その推進を妨げる要因は、世の中よりも社内に潜んでいることのほうが多く、プロジェクトをしっかりと推進していくためには、それを前提とした戦略的な体制づくりが重要です。

2.  実行フェーズでしてはいけない3つのこと

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プロジェクトが実行フェーズに移ると、様々な組織論理が事業推進の邪魔をしてきます。ここでは、それらを3つの「してはいけないこと」として簡単にまとめてみました。

1.  メンバーをいきなり増やす
人の数が増えるほどマンパワーが増すように見えて安心するかもしれませんが、初期段階では機動力の大幅な低下を招きうるので避けるべきです。まず必要なことだけにスコープを絞り、対人間の調整コストをなるべくかけず、主体的に動ける最小限のコアメンバーのみによるタスクフォース的なチーム編成が鍵となります。「組織」というより「部隊」という言葉が適切かもしれません。過度な役割分担もこのタイミングでは不要。必要なことなら何でも率先して手を動かせる人材で部隊を構築すべきでしょう。

2.  既存事業と同じように扱う
これまでの常識ではできなかったことをするからこその新規事業ですが、大企業ほど、既存事業の制約を同様に課し、それが足かせになる場合が多くあります。例えば、ブランドガイドラインの遵守や重厚長大な決裁承認プロセスなどで、新規事業にあるべき柔軟性や迅速性が失われてしまい、思うようなトライアンドエラーができなくなります。リスクの排除やオペレーションの明確化のために生まれたこうした制度が、仮説検証がすべての新規事業においてまったく機能しないのは明らかです。制度面だけでなく、数字や評価の面でも同じことが言えます。安定した収益を上げている既存事業と単純に比較されてしまうと、手も足も出なくなるのが新規事業。一見すると、新規事業を育てるより、既存事業をテコ入れするほうが増収の幅が大きく見えてしまいます。そうした尺度から解放し、収益減少が見込まれる既存事業の衰退を救う芽を守り、育てていく、新規事業ならではの評価軸が必要です。

3.  メンバー構成や組織体制を頻繁に変更する
トライアンドエラーによる経験の蓄積〜活用こそが新規事業チームの資産となります。メンバー構成や組織体制の変更は、こうした貴重なノウハウやナレッジの喪失につながります。失敗が前提の新規事業には、プロジェクトがうまくいっていない際も結論を焦らず、じっくり腰を据えて見極める辛抱強さが欠かせません。仮説検証の毎日で身につく経験則は、業務引継書で簡単に書き示せるものではありません。感覚値的な肌感を養ったメンバーの存在はとても大切です。

さらに極論にはなりますが、「新規事業をやったことがない人のアドバイスは真に受けなくてよい」とも言えるかもしれません。理由は先述した通り、既存事業の成長維持と新規事業の立ち上げとでは、必要な筋肉や知識ノウハウがまるで違うため、肌感や経験則が当てにならないことが多いからです。そうではなく、逆に失敗談でもいいので語れる新規事業経験者をチームに入れておくべきでしょう。社外パートナーでも同じことが言えます。既存のマス商材の大規模販促支援と新規事業の成長拡大支援では、まるでアプローチが違います。いくら有名でも、その実績がマス商材に偏っているパートナーではなく、新規事業の泥臭さや難しさをちゃんと理解しているパートナーの選定が重要です。

3.  プロジェクトの明暗を分ける「選択と集中」

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新規事業の経験が少ないリーダーが陥りがちなのが、この「選択と集中」のバランス取りの失敗です。再三述べてきたとおり、仮説検証が中心となる新規事業では、「やりたいこと」「試してみたいこと」も当然多くなりがち。あらゆる可能性をタッピング検証するのはとても大事なことですが、予算や人的リソースが限られる新規事業では、このバランスや舵取りを一歩間違えると、たちまちとてつもない負荷がチームにのしかかってしまいます。

一度そのようなブラックな状態に突入すると、仮説の検証など、まず第一にやるべきことすら手がつけられなくなってしまいます。
様々な施策をトライアル的に手広く開始したまではいいものの、そのオペレーション面で負荷がかかりすぎ、PDCAのP(計画)とD(実行)のみでリソースがいっぱいいっぱいで、C(評価)とA(改善)がないがしろになってしまう本末転倒な状態です。

このように、可能性の検証はとても大切だからこそ、そこでの選択と集中に気を配り、リソースの舵取りをうまくしていけるかがリーダーには求められると言えるでしょう。

4.  プロジェクト加速の鍵となるパートナーとの共創

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社外パートナーとの共創、協業をうまくデザインすることも、新規事業のプロジェクト推進には欠かせません。必要な機能を持った企業とパートナーシップを組めるだけで検討が一気に進む場合もありますし、逆にパートナー探しがボトルネックとなり、プロジェクトが停滞することもあり得ます。

特に昨今求められるような、これからの時代に適したビジネスモデルともなると、一社だけで完結できるものは少なく、むしろ外部との共創、協業によるこれまでにないイノベーションこそが、その鍵となることも多いでしょう。単なるモノ売りからの脱却、コトビジネスや○aaS化、サブスクビジネスなどへの収益モデルの転換、新たなビジネスプラットフォームの構築など、抜本的な事業形態の改革においては、パートナーとの共創、協業が欠かせません。

また先述の通り、新規事業をゼロから立ち上げるには、社内の壁がとても厚く、目に見えない大きなコストが至るところに隠されています。
成熟した既存事業がキャッシュを生み出してくれているうちは、ゼロから社内で立ち上げるのではなく、有力なスタートアップと手を組み(極論買収し)、お互いの利点を活かし合う共創ビジネスに持ち込むほうが早く、成功確率を上げられるとも言われています。

5.  結局、最後に重要なのは「人」

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社外パートナーとの共創とも絡む最後のトピックが「人」。すなわち、人材の確保です。どんなに優れた企画や事業プランであっても、それを推進〜拡大していけるスキルとマインドを持つ人が集まらなければ、事業計画書に描いたような未来はやってきません。そうした意味でも、新規事業に親和性の高いスキルとマインドを持つ希少人材を社内からかき集めるのではなく、もともとそうした風土を持つスタートアップと手を組むほうが効率的というのは理にかなっているように見えます。実際、そうした実例は枚挙にいとまがありません。(一方、大企業のロジックをそのまま押し付け、スタートアップ側が疲弊するのもよくあることですが。)

とはいえ、テックジャイアントによるスタートアップ買収ならまだしも、自社でそうしたアプローチを実現するのは難しいというのが多くの企業の実情とは思います。僕自身もここに大きな課題を感じています。具体的に言うと、スキル面では人材採用、マインド面ではインナーブランディングの課題です。本質的で価値のあるビジネスインベンションには、それを担える人材の確保と、新規事業を社内に実装していける組織風土改革が欠かせません。しかしながら、それらは並大抵の努力では成し遂げられない、成熟〜後退期にある多くの日本企業が直面している難しいテーマでもあるからです。

人材育成が遅れている中、広義のデザイン人材や、エンジニアの確保が様々な企業で大きな課題となっています。新規事業の実現にはこれらのスキルセットが不可欠となる時代です。そうした人材を社外に求めることもできるとは思いますが、将来的にある程度の内製化を見込めていないと、事業としてのスピーディーな成長が成し遂げられない場合も多いでしょう。これからの時代のビジネスに必要な優れたカスタマーエクスペリエンスや、それを下支えするテクノロジーは、外注のみで実現しきれるものではありません。

インナーブランディングによる組織課題解決や社員のマインド改革も重要です。国内の中堅〜大企業の多くが、戦前〜戦後に生まれ、高度経済成長とともにその規模を拡大し、とうの昔に成熟期を迎えています。一方、テック系スタートアップによる既存ビジネスモデルの破壊や国内市場の縮小によって後退期に突入し、同じような組織課題、経営課題に直面している企業も多いのではないでしょうか。長期にわたり成熟し、柔軟性を失ったビジネスモデルのオペレーションに日々どっぷりと浸かりきった社員のスキルやマインドのまま、こうしたスタートアップに立ち向かうというのは当然ながら難しく、新規事業の創造と人材確保、組織風土改革をセットで進めなければならない困難な状況が生まれているように感じています。

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さて、改めて書き出してみると、泥臭さがあふれる話になりました。新規事業というと、企画やビジネスモデルそのものが華々しく取り上げられがちですが、その実現においては、実行プロセスにこそ障壁が多く、重要であるという事実を再認識させられる内容となったように思います。

僕たちはビジネスインベンションファームとして、こうした実行面での課題からも目を反らすことなく、むしろそうした側面も踏まえた上で、企業の本質的な課題解決につながるご提案を心がけなければいけないと考える、いいきっかけにもなりました。今回改めて書き留めたとおり、企業が抱える課題は大きく、困難なものばかりですが、I&COでの仕事を通じて、そうした企業の次なる事業づくり(Invent Next Ways)に少しでも貢献していければと思います。



<このnoteを書いた人>
Daiki Kanayama(Twitter @Daiki_Kanayama
1988年生。大阪大学経済学部を卒業。在学中にインド・ムンバイ現地企業でのマーケティングを経験。ソフトバンクに新卒入社後、新事業部門に配属。電力事業や海外事業戦略など、様々な新規事業の企画、事業推進に従事。創業メンバーとしてロボット事業の立ち上げを経験後、専任となりマーケティング全般を担当。2017年からは事業会社を支える側に身を移し、ソニー新規事業のマーケティング業務を1年間常駐支援。その他、著名企業のCI戦略、SDGsプロジェクトの企画開発などに従事。現在はビジネスインベンションファーム・I&COの一員として、大手企業の新規事業、ブランディング、商品サービスの企画開発に携わる傍ら、個人としてスタートアップの支援も行なっている。

受賞・入賞歴に、Clio Awards、Young Cannes Lions / Spikes、Metro Ad Creative Award、朝日広告賞、グッドデザイン賞など。

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