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エゴイスト/高山真

今公開かれている映画「エゴイスト」を見ようと思ったのは
なんといっても目をひくポスターだったからだと思う。

 
真っ青な布に
裸で絡み合いながらキスをする姿をとらえたそれは
私の心までとらえた。

 
更に主演が鈴木亮平さんということもよかった。
ドラマ「テセウスの船」で知ってから
私は鈴木亮平さんの演技が好きだった。

 
映画を見てガーンとした衝撃を受け
エゴイストの世界から逃れられなかった私は 
パンフレットを買うだけでは飽き足らず
ネットでエゴイストの情報を調べた。

 
そして私は
この映画が高山真さんの自伝的小説が原作だと知り
小説も買った。

 
 
浩輔は14歳の時に病で母を亡くした。
入退院も何度も繰り返していたらしい。

幼少期からオカマ、おとこおんなと蔑まれ
母親も馬鹿にされ
いじめを長年受けていた浩輔は
高校卒業後に上京した。

 
大学卒業後は雑誌の編集の仕事をしたり、友達にも恵まれた浩輔は、ある日病気の母親を支えるパーソナルトレーナーの龍太に出会う。

浩輔は自分と龍太を重ね、失われた実母への想いのまま、ある行動をするようになった。

 
ストーリーはそんな内容だ。

 
映画のポスターから一見すると男性同士の恋愛がテーマのように思うが
今作は喪失者の再生の物語であったり
人との繋がり、家族愛をテーマにしたもののように思う。

 
映画では濃厚でリアルな性的描写が前半に多くあるが
原作では性的描写はほとんどない。

 
心の葛藤や亡き母へ出来なかったことへの悔いやそれによる衝動的な行動が惜しみなく描かれており
読み応えがある。

 
文章はとても読みやすく、人をひきこまされる書き方で
私は三時間ほど一気読みしてしまった。

 
経済的に恵まれていた浩輔は 
離婚し、母一人子一人の生活の中、病気の母を高校中退してまで支える龍太に対し
最初は食べ物の差し入れをしていた。

 
浩輔も自分が龍太と同じ立場だったらそうするだろうし
何より
自分は小さい頃に病弱な母に何もできなかったという負い目が強く
同じような境遇の龍太を通して母親に何かをすることで
過去の自分を許そうとしたのだろう。

「ごめんなさい」

この作品には色々な人のごめんなさいが描かれている。

  
龍太はとてもキレイで心も美しく
浩輔はすぐに惹かれたし
龍太は龍太で浩輔の顔や中身に惹かれていく。

 
やがて龍太から別れを告げられ
その理由が売りをやっているからだと分かった浩輔は
自分が毎月10万円渡すから
専属の客になってくれと交渉し
二人は再び恋人になる。

 
浩輔と龍太は恋人であり
仕事の繋がりもあり
精神的兄弟のような
そんな関係だ。

 
売りの仕事を辞めた龍太はかなりに肉体労働でお金を稼ぐようになり
日に日に疲れ、浩輔とのデート中にも寝てしまうことが増えた。

ヤングケアラーで高校中退では仕事も限られてくるだろう。

 
そんな中、浩輔と龍太と龍太の母と三人で会うこともあり
浩輔は母親に触れた。
そして実母との思い出や思いを思い出していく。

車を買おう、と思ったのも
父親が母親の通院時に車で送っていた記憶がそうさせたのだろう。

 
三人で楽しく過ごしていた浩輔だったが
龍太が急死してしまう。

 
悲しみと絶望のどん底の中
浩輔と龍太母がまるで本当の家族のように寄り添いつつ
お金の援助で繋がった関係という負い目が浩輔にあった。

 
「愛がなんなのか分からない。」と言う浩輔に 
「受け取った私達が愛と思うならそれは愛よ。」みたいに龍太母が返すシーンがあるのだが
この言葉に浩輔はどれだけ救われたのだろうか。

 
龍太の母が余命僅かな時
浩輔がかける言葉の数々は涙なくして読めない。

 
 
映画を見た時
少しよく分からなかった部分もあったが
パンフレットや原作を読むことにより
一つ一つパーツがはまるような感覚になった。

 
原作にはないが
映画で浩輔(鈴木亮平さん)が歌うシーンは圧巻である。

 
また、手にハンドクリームを塗るシーンや動画を撮るシーンは微笑ましく、愛を感じる。

 
龍太母にお金を渡すシーンの浩輔(鈴木亮平さん)がまたリアルで、間とか表情とかが秀一だった。

あと、龍太と恋人になりたての頃と仲間といる時のギャップというか演じわけがまた素晴らしかった。

 
鈴木亮平さんの演技は非常に素晴らしく
原作を読むと自然に鈴木亮平さんの姿が浮かぶほどだった。

 
文庫版の巻末には鈴木亮平さんのあとがきが載っていて、「高山真様。あなたを探す旅を通して私は、すでにあなたを他人とは思えないほど敬愛している。」と書かれている。

 
鈴木亮平さんはこの映画のオファーが来てから
高山真さんのお墓参りに行き
家族や友達に会い
原作だけでなく、高山真さんの作品やSNSに目を通したとか。
ゲイの方がオススメする映画も見たという。

そのあくなき探究心と仕事に対するストイックさは
鈴木亮平さんの右に出るものはいない気がする。

 
高山真さんを知る方は鈴木亮平さんの演じる浩輔を見て「高山がいる。」と感じたらしい。

役者冥利に尽きるだろう。


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