映画「君の名は。」を一緒に見ると結ばれるらしい。
今、鬼滅の刃の映画が大ヒットしている。
私も見に行った。
今年はコロナウィルスの影響で暗いニュースばかりだが
久々に明るい話題だ。
映画は満員であり、リピーター率が高く
日本映画興行収入ランキングで、あっという間に五位まで登りつめた。
一位の「千と千尋の神隠し」や四位で社会現象にまでなった「君の名は。」は
やたらと比較されるのが現状だ。
私は四年前、映画「君の名は。」を三回見に行った。
一つの映画を三回も見に行くのは初めてだった。
最初は一人で見に行き
三回目は家族で見に行った。
そして二回目はデートで見に行った。
当時、「君の名は。」をカップルで見に行くと結婚できるという噂があったが
私と彼はそのジンクスにあやかれず
離れ離れになってしまった。
あれは、私がアラサーの頃だ。
私は男友達経由で、友達の友達から連絡が入った。
友達の友達…私からしたら、知人レベルの仲だった。
「ともかさん、お願い!合コンセッティングして!俺彼女ほしい!」
私は知人Aにいきなり頼まれた。
私「合コンとはいっても………私の周りの友達は結婚しているかみんな彼氏がいるよ。彼氏いない友達はみんな遠方だし、合コンセッティングできるほど、フリーの友達いないよ。」
A「そこをなんとか!お願い!」
私「うーん………まぁ一人、フリーの子いるけど、恋愛体質じゃないんだよね…。」
A「その子でいい!その子でいいから、とりあえず紹介して!!」
私「まぁ………一応聞いてみるけど、あんまり期待しないでね。」
私は知人に押しに押された。
私はAではなく、男友達に恩があった。
色々お世話になっていた。
だからAのためではなく
男友達の友達だから、まぁ協力するか。
それくらいのノリだった。
女友達もどうせ断るだろう、と私は思っていた。
恋愛に興味がないタイプなのだ。
私は女友達BにAの特徴を話し、恋愛目的の紹介だけど、無理強いはしないと伝えた。
B「Aさん、個性的だね!面白そう(笑)連絡先交換していいよ。」
Bちゃんは、まさかのいい食いつきだった。
意外だった…………Bちゃんとは付き合いが長いが
恋愛体質ではないし
みんなでわいわいガールズトークをしていても
自分の恋愛話は一切しない子だった。
かつて、二人で会った時に一度だけ恋愛話を打ち明けられたが
「グループの子には絶対言わないで。騒がれたくない。」と念押しするほど
Bちゃんは恋愛でキャイキャイするタイプではなかった。
私は約束を守り、Bちゃんの恋愛話は共通の友達に言わなかったし
Aのことも、共通の友達には言わなかった。
Aは狂喜乱舞した。
私に「ありがとう!ありがとう!ありがとう!」と連呼し
「まぁ二人とも大人だから、後はご自由に。ただ、Bちゃんは私の大事な友達だから、傷つけたり泣かせたら許さないから。その時は口出しするからね。」
と、私はAに言った。
Aは「うんうんうん、分かった!分かった!」と、有頂天だった。
そんなわけで、Bちゃんはあまり恋愛話をしたくないタイプだし
私は特にその後どうなったか、あえては聞かなかった。
野暮だと思ったのだ。
だが、AにBちゃんを紹介したことで、私はAと連絡する回数が激増した。
恋の相談をされたのである。
A「●●って聞いたら失礼かな?●時にLINEしたら未読でさ……まだ返事来ないんだ。どう思う?」
Aは人見知りしないし、社交的なタイプだと私は思っていたが
想像以上に恋愛偏差値が低かった。
純粋だったのだ。
私「C(共通の男友達。モテる。)に聞けばいいじゃん。私は紹介しただけで中立でありたいのよ。どちらかといえば、Bちゃん寄りの立場だし。」
A「だって……女心なら、ともかさん詳しいじゃん。Bちゃんとも仲良いしさ。」
私は、う~む、となった。
BちゃんがAと連絡先交換も意外だったが
AがBちゃんを気に入るのもまた意外だった。
AはBちゃんがタイプではないと思っていたのだ。
私とCは、Aのことで連絡を取り合った。
どうやらAはCにもあれこれ恋愛相談をしているらしい。
「全くもう……世話が焼けるわ。」
私達は二人でそう言い合った。
話を聞くと、Aは連絡がマメな情熱派だが
Bちゃんは淡泊らしかった。
もともと、Bちゃんは私ともあまり連絡はしない。LINEや電話が好きなタイプではないのだ。
やり取りを続けて、Aはいまいち手応えを感じないようだった。
私「もともと連絡マメな子じゃないしねぇ……まぁ一度食事でも誘いなよ。会ってみたらまた違うかもよ?」
A「二人は緊張するから、ともかさんも来てよ。」
私「ハァ?なんで私が。二人で会いなよ。」
A「お願い!お願い!」
私「……んじゃ、Bちゃんに聞いてみるよ。」
Bちゃんに連絡をすると、Bちゃんも二人は緊張するという。
食事会は、A、B、Cと私の四人ですることになった。
なんでこんなことに。
仕事が終わった後、私は洋服を着替え、居酒屋に向かった。
四人の都合がいい日時や場所を聞き、セッティングしたのは私とCだ。
全く…世話が焼ける。
私とCはコミュ力が高く、ベラベラ話したし
なるべくAやBちゃんにも話を振ったが
AもBちゃんも緊張していて、あまり話さなかった。
Bちゃんは内向的だからともかく
Aは普段コミュ力が高いのに
恋愛が絡む女性を前にすると、こんなに話せなくなるのは意外だった。
私含め、共通の知り合い女性とは普通に話せていたのだ。
食事会は二時間でお開きになった。
この四人で集まることはもうないだろうとも私は思った。
私「C………お疲れ様。」
C「全くアイツは世話が焼ける。」
私「面倒見がいいところがCらしいよ。」
私とCはそんなことを話した。
AとBちゃんは自然消滅した。
Bちゃんは「Aが嫌いではないけど、気になりもしない。」という
恋愛ではよくあるあるパターンであり
私はそのBちゃんの気持ちを胸に秘めた。
私からAにあえて言うことではない。
AはAで連絡をしたり、会った時の感触で
Bちゃんのことは諦めモードになった。
こればかりは仕方ない。
人の気持ちや恋愛ばかりは私にもどうしようもない。
話はこれで終わりだろう。
私はもう、地元にフリーの友達がいなかった。
そう、思っていた。
だが、人生とは思いがけない方向に動き出すことがある。
Bちゃんの件がきっかけで、私とAは急速に仲良くなった。
毎日LINEをしたり、時折電話をする仲になった。
波長が合ったのである。
そして私は、やがてAから告白された。
私もAが好きだった。
恋愛的な意味で、少し気になる存在の異性へと変わっていた。
だが、私には彼氏がいた。
そして彼氏がいることは、Aも知っている。
その彼氏が浮気をしたことも結婚願望がないことも、Aは知っている。
私は彼氏が好きだったが、結婚を意識するとなると彼氏との付き合いは見直す必要があった。
実際彼氏から「俺には結婚願望ないから、結婚したかったら他の人と付き合った方がいい。」とも言われていた。
私はアラサーであり
結婚願望もあり
子どももほしかった。
本家を継ぎたかった。
恋愛に生きる自分と、結婚を見据えなければいけない自分が、私の内部には必ず混在した。
「彼氏はともかさんを大事にしてないじゃん。ねぇ、俺の彼女になってよ。俺と結婚前提で付き合おうよ。子ども、俺大好きだよ。家族みんなで楽しく過ごそうよ。
ともかさんとなら、明るい家庭が築けると思う。」
Aからの告白は、確かに嬉しかった。
嬉しかったのだ。
Aの手を取れば、幸せになれるのかもしれない。
だが、Aは長男で家を継ぐ立場にあった。
私がAと付き合うなら、私はAの家にいかなければいけない。
私は婿養子派だ。
お互いに結婚適齢期だ。
軽々しく、付き合うなんて言えない。
それに何より、私には彼氏がいる。
Aと向き合うからには、彼氏と別れ、連絡先を消すべきだ。
だが、私は彼氏に対して、今の時点ではそこまで非情にはなれなかった。
私「私もAが好きだけど、彼氏と別れてAと今すぐ付き合う………とはできない。結婚も絡んでくるし、もしAと付き合うなら、今のままじゃ中途半端でよくない。二股はしたくない。
だから、………ごめんなさい。」
A「俺は諦め悪いからね。もうともかさんに本気だから。ともかさんを大事にしない彼氏なら、容赦しないから。
俺を選んでよかった、とこれから思わせてやるよ。」
Aは強気だった。
ガンガン私を攻めて、口説いてきた。
私は自分に自信がない。
彼氏は浮気もしている。
口説かれて悪い気はしなかったし
実際、Aと話すと楽しかった。
Bちゃんに対してあんなに消極的だったのは本当だったのだろうかというくらい
Aは私に積極的に攻めた。
私は迷った。
迷いに迷った。
夜眠れないくらい
毎日毎日どうするべきか迷った。
…答えは出なかった。
A「一緒にご飯行こうよ。美味しいお店知ってる。」
私「彼氏と別れてない以上、告白した人と二人では行けない。」
A「じゃあカラオケ!Cも一緒ならいいでしょ?みんなでカラオケ行こう。三人でもいいよ、ともかさんに会いたい。
俺の歌聞いて。ともかさんの歌も聞きたい。」
私「まぁ、三人なら……。」
Aが私に惚れていることも、私が告白されたことも、Cは知らなかった。
表面的には、共通の友達同士でのカラオケだ。
私達は三人ともカラオケが大好きだった。
CもAも歌が上手かった。
Cとはカラオケに行くのは初めてじゃないし
AとCの二人はカラオケに行っていたらしいが
私はAの歌を聴くのは初めてだし
私の歌をAが聴くのも初めてだった。
Aは倖田來未の「you」を入れた。
私とAが倖田來未の曲で一番好きな曲が「you」だった。
Aは私の目を見て歌った。
私はパッと目をそらした。
ドキドキした。
まずい。
どうしよう。
私は戸惑った。
婚約破棄をし、婚活をしている中で一番ときめいたのがAだった。
彼氏と別れ、家を継ぐことを諦め、私はAの手を取るべき時が来たのか。
私は三人でのカラオケで、更に悩みに悩んだ。
Cは、カラオケで私達の関係性の変化に気づき
AをCは呼び出した。
C「お前……ともかさん、好きなのか?」
A「あぁ。好きだよ。本気だから。」
C「お前………俺の前でよくもそんな口が聞けたな。ふざけるなよ。」
カラオケ後、私が一人悩みに悩んでいる中、二人にそんなやりとりがあったことを、私は後日知ることになる。
私は後日、Cから呼び出された。
大事な話がある、と。
カラオケで二人の様子を見ていて、二人の間に何かがあったと察したこと。
Aに問いつめたら、気持ちを白状したこと。
Aは色々私が知らない面があり、オススメできる人ではないこと。
そして…
「……俺だってまだ、ともかさんを好きなんだよ。」
Cはそんな言葉を口にした。
私が元彼と婚約破棄したての数年前、「前から好きだったけど、婚約者がいたから諦めていた。付き合ってほしい。」と私はCから告白された。
だが、私にはその時、既に彼氏がいた。
確かにCとは仲がよかったが
やはりCも家を継ぐべき人で
私は結婚前提の付き合いとなると
二の足を踏んでしまった。
そして何より、私は絶対的に彼氏が好きだった。
まだこの時は、彼氏に結婚願望がないことも浮気癖があることも
私は知らなかったのだ。
Cを振ってからも、私達は共通の友達と共に仲良く遊ぶ仲だったし
Cには彼女ができたし(後に別れたが)
まさかCがまだ私を想っているとは全く気づかなかった。
Cが私を好きで告白したことも
フラれたことも
まだ好きなことも
Aには伝えてあったらしい。
その上で、Aは私を好きになり、Cにそれを告げた。
C「俺はともかさんが好きだし、彼氏と仲良くやって幸せならそれでいいって自分に言い聞かせた。
でも、彼氏は浮気癖があって結婚願望なくて、かといってともかさんを手放しはしない。ともかさんは傷ついてばかりだ。
俺は許せない。
それでもともかさんが彼氏を好きで一緒にいる道を選んでいるから、仕方ないって思ってた。友達としてともかさんのそばにいよう、と。
なのに、…………俺は何年もそうしていたのに、Aは!俺の気持ちを知りながら!アイツは!アイツは!」
私「…………………。」
C「俺ら、絶縁したから。」
私「ちょっと、待ってよ。」
C「無理だ。同じ人好きになって、二人とも付き合いたいって願っている以上、友達なんてできないだろう。」
私「……………。」
C「とにかく、俺はまだ好きだから。俺と付き合ったら、絶対幸せにする。俺が守る。浮気なんかしない。泣かせない。
でも、ともかさんが誰を選んでも、俺は応援する。
もう一度、よく考えてみてほしい。」
私「……………。」
……………ますます、眠れなくなった。
私はどうしたらいいのだろうか。
いくら好きとはいえ
浮気癖がある、結婚願望がない彼氏とこのまま付き合い続けるべきなのか。
トキメキを感じるAか、一緒にいて落ち着くCと付き合う道を選んだ方がよいのか。
ただ、そうなると、婿養子派の私の願いは叶わない。
だが、いや、しかし………
私は?
肝心な私の気持ちは?
私は誰と一番いたいの?
私はどんな未来が望みなの?
私は考えて考えて考えて
考え抜いた。
答えが出ないまま、時だけが過ぎた。
そんな時に、Aから電話があった。
夜遅くの電話に、嫌な予感しかなかった。
諸事情により、Aは急遽遠くにいくことになったらしい。
私は急な別れに大泣きし、Aは笑っていた。
A「そんなに泣かないで。笑って。」
私「だって……」
A「もう一度言うよ。俺の彼女になってくれない?」
私「……………………ごめんなさい。私はAとは付き合えない。私は家を捨てられない。」
A「俺もだよ。俺も、ともかさんちに婿入りは無理だ。家を守らなきゃいけない。」
私「………うん。」
A「ともかさんは彼氏が好きなんだよ。分かってる。浮気されようがなんだろうがそばにいるのは、好きだからだ。」
私「………ダメな彼氏だって分かってるし、手放せない私は本当にバカだと思う。」
A「俺が言えるのは一つだけ。どうか幸せになってください。」
私は泣き続けた。
何にこんなに泣けるかが分からない。
ただ、私は自分で自分が心底情けなかった。
浮気癖がある結婚願望がない彼氏との未来なんて明るいわけないのに
どうしてそれでも私は
AやCや婚活で知り合った人を振り
彼氏との付き合い継続を願うのか。
自分で自分が嫌になった。
早く彼氏を嫌いになって手放せたらどんなに楽だろうと
何度何度願ったか
分からない。
Aが遠くに行く前に、私はAと映画「君の名は。」を見に行った。
二人で行ったから、デートになる。
まぁいいや、と思った。
これが彼氏にバレて別れてもいいや、と思った。
彼氏は私以外の女性を抱いているのだし
男友達と遊ぶのは彼氏から禁じられていない。
私が勝手に異性と二人で会うのを避けていただけだ。
私だって映画くらい構わないじゃないか。
私は開き直りさえしていた。
いっそこのデートで心変わりをしてほしかった。
彼氏との不毛な恋愛にケリをつけたかった。
だが、ジンクスとは異なり、映画「君の名は。」を二人で見ても
私の心は変わらなかった。
彼氏と別れるという選択をしようとは思えなかった。
A「今日は彼氏いるのに…映画付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ。今日のことを俺は忘れない。」
私「私も楽しかったよ。遠くに行っても、元気でね。」
A「ともかさんも、元気でね。幸せになってください。その笑顔、忘れないでね…………って、すーぐ泣くんだから(笑)」
私「気持ちに応えられなくてごめんね。好きになってくれてありがとう。
さようなら。」
私はその日の夜、電話帳からAを削除した。
Aからも連絡は、その後来なかった。
それから3年後、私は偶然Aと再会した。
私は街で思いがけずにAの姿を見掛け、慌てて駆けだしてしまった。
A「元気そうで安心した。」
私「Aも元気そうで安心した。」
A「キレイになったね。」
私「……ありがとう。Aもかっこよくなったよ。最近はどう?」
A「仕事に燃えてる。恋愛はサッパリ。」
私「同じく(笑)相変わらず結婚できないまんまだわ。」
その時、浮気癖がある彼氏とはもう別れていたが
だからじゃあAと付き合おうとは私はならなかった。
Aも私には何も言わなかった。
立ち話を少しして、私達は別れた。
もしも何かが違っていたら、また異なる未来だったのだろう。
だけど私は自分の選択にも人生にも後悔は一つもない。
恋愛にしくじり続け、私は30代になった。
親はまだ諦めるなと言うが
結婚できる気は、全くしない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?