いつかのたこ焼き
私が小学生の頃に、「まじかる☆タルるートくん」という漫画が流行った。
タルるートくんはアニメ化され、ゲーム化もされ
とにかく大人気だった。
私はタルるートくんが好きだった。
好きすぎた私は、人生で初めて漫画を買った。
忘れもしない、タルるートくん14巻である。
次に買ったのはちびまる子ちゃんで
そうして漫画の良さにハマった私は
漫画をどんどん買うようになっていく。
そのタルるートくんの漫画の主人公、タルは
とにかくたこ焼きが大好きだった。
作中にはたこ焼きを食べるシーンがたくさん出てくるし
通称まっつぁんという男性が作るたこ焼きは
本当に美味しそうで仕方ない。
タル含め漫画のキャラクター達は実に美味しそうにたこ焼きを食べるし
たこ焼きを魔法でたくさん増やして夢中で食べるシーンは夢があった。
嗚呼…
まっつぁんのたこ焼きを食べたい……
それは当時の読者やアニメファンの共通の願いだろう。
小学生の頃、近所のスーパーにはアイスや大判焼き等が売っているお店が併設されていて
親と買い物に行くと、何かしらを買ってくれた。
姉は必ずたこ焼きで、私は必ずフライドポテトだった。
私達姉妹は、日によって買う物を変えることはなかった。
タルるートくん放送前から姉はたこ焼き派だったので
タルるートくんは関係ないとは思うが
「やっぱり、まっつぁんのたこ焼きは憧れだよな。」と二人で言い合った。
その店のたこ焼きは、オレンジ色の正方形のような形の蓋付きの箱で販売されていた。
毎週私は姉とタるルートくんのアニメを見ていたし
ゲームも二人もしくは従兄弟きょうだいも含めた四人で
私達は行っていた。
そんな私が小学校五年生の頃、クラスの友達に不思議なお店?を聞いた。
そのお店では、たこ焼きと大判焼き(餡子)だけ売っているらしい。
比較的我が家から近かったので、自転車で友達と向かった。
住宅街にあるそのお店?は、看板がない平屋で
一見するとお店に見えない。
だから私もいまだに、店名は知らない。
ただ、窓に「たこ焼き、大判焼きあります」と書かれた紙が貼ってあった。
手書きである。
引き戸を開けると、だだっ広い空間が広がっており
一人で入るのはなかなかに勇気がいる。
奥の方にカウンターがあり、「あの~…たこ焼きありますか?」と尋ねると
どこからともなく、パックに入ったたこ焼きを出すのだ。
調理場も見当たらないし、調理場独特の匂いもない。
カウンターには、たこ焼きや大判焼きの見本や値札も書いていない。
レジもない。
「200円だよ。」
おばさん…というより、おばあさんだろうか?
その人に言われて、財布から200円を取り出して、たこ焼きを受け取った。
6個だか8個だか入っていて、この値段は安いと思った。
当時、スーパーで買っていたフライドポテトは160円、たこ焼きは280円だった。
夏祭りの屋台は多分、300~400円くらいだった気がする。
私はその安さに驚いた。
そのお店?は、だだっ広い空間があるくせに
椅子やテーブルは皆無で、飲食禁止だった。
だから私は友達と一緒にその場で食べたり、公園に移動して食べたりしていた。
青のりや紅ショウガがヤケに強調されていたそのたこ焼きは
スーパーとも出店とも違う見た目と味だった。
…今このnoteを書きながらふと思ったのが
もしかして冷凍たこ焼き(や大判焼き)を温めて販売していたり………して。
私が冷凍たこ焼きや冷凍大判焼きを買ったことがないので実際は分からないが
とにかく、あの店は胡散臭いというか、不思議だった。
それでも育ち盛り・食べ盛りの私や友達は
お腹を空かせてはそこに行った。
200円でたこ焼きはありがたい。
大判焼きは100円だった。やはりありがたい。
近所にコンビニができるのは数年後だったし
田舎に住んでいた私達は
食べ物に飢えていた。
スーパーにちょっとお菓子を買いに行く…というのも、なかなかにしにくかったし
そもそもスーパーがちょっと離れていた。
その店は気づいたら閉店していた。
3年も販売していなかった。
未だに建物は残っているが、そこを通るたびになんとも言えない気持ちになる。
キツネに化かされた気分というか
結局あそこはなんだったのだろうと不思議で仕方ない。
そんな私がやがて中学を卒業し、街中の高校に行くようになった。
すると、駅ビルには銀だこがあり、通学路にもたこ焼き屋さんが何軒もあった。
さすが都会、さすが県庁所在地である。
もはや手の届く範囲にたこ焼きはありふれていた。
学校帰りに制服で友達とたこ焼きを食べた。
銀だこはすごいと聞いていたが
なるほど確かにきれいな真ん丸で、外はカリッとして、中はジュワッとしてモニャモニャッとして
新食感であった。
船のような形の入れ物もお洒落で本格的だし
高校で銀だこデビューした私は
それはもうがっついていた。
銀だこデビューした後は他のたこ焼き屋さんも一通り寄り道し
味や値段をチェックしていた。
もはやたこ焼き奉行だ。
やがて高校を卒業し、大学に入学した。
大学に向かう途中、乗り換え駅には銀だこがあった。
だが、それだけだ。
高校のように通学路にたこ焼き屋は溢れていなくて、銀だこがあるだけだ。
だから私は高校を卒業してから
たこ焼きを食べる回数は段々と減っていった。
私が23歳の時だ。
私は当時付き合っていた恋人と、大阪に旅行に行った。
人生で初めての大阪である。
大阪といったらやはりたこ焼きだ。
大阪の街中にあるたこ焼きは、かつて憧れたまっつぁんのたこ焼き屋のように独立していて
今までの人生の中で一番まっつぁんのたこ焼き屋のような感じがした。
大阪のたこ焼きはなるほど、確かに美味しかった。
お店の方は私より年上の男性だったし
私はまっつぁんを思い出しながらたこ焼きを食べた。
夜は串揚げを食べた。
私は詳しく知らなかったが、大阪は串揚げが名物らしい。
彼オススメの串揚げ屋さんで食べたら、感動するほど美味しかった。
個人的にはたこ焼きよりも串揚げが美味しくて
大阪のたこ焼きの感動がやや薄れてしまったのが残念だ。
そんなこんなで私は社会人になった。
職場の近くにはたこ焼き屋さんがなくて、私は社会人になって更にたこ焼きを食べる機会をなくしていく。
そんな時に、私はタコパという単語を職場で初めて聞いた。
タコパ???
タコパとは、たこ焼きパーティーの略らしい。
話によると、利用者や同僚の家にはたこ焼き機が家にあるらしく、よくタコパをやるらしい。
色々話を聞いていくと
仕事関係者はたこ焼き機を持っていたり、タコパ経験者が何人かいたが
我が家で小さい頃から大活躍の流しそうめん機は誰も持っていなかった。
私はマイノリティ側だったのか…
秘かにガーン、となった。
と、同時に、タコパがしたくてたまらなくなった。
タコパはリア充な感じがしたし
こち亀でもやっていた。
私だってやりたい。
「じゃあうち来てくださいよー!タコパやりましょう!」
誘ってくれたのは同僚様である。
私は仕事帰りに同僚の家に遊びに行った。
年が近く、家も近い方だったので
私は彼女とプライベートでもたまに遊んでいた。
彼女の家には元気な子どもが三人いて
家の中は明るく賑やかで
それでいて子ども達は非常に手慣れた様子で
家の手伝いをしていた。
同僚とお子さんたちが次々にたこ焼きを焼いてくれて
食べて飲んでしゃべって
ガハハハと笑って
あっという間に時間が過ぎた。
手作りたこ焼きは美味しかった。
たこ焼きは案外お腹にすぐにたまって
思ったよりも食べられなかった。
幸せな満腹タイムだ。
私はたこ焼きを作ってもらったお礼に
お子さん三人分の宿題を見た。
餅は餅屋だ。
同僚が料理上手でたこ焼きを振る舞うなら、私は勉強で返そう。
同僚はあまり勉強が得意ではなかった。
私は家庭教師や塾講師の経験があり
小中学校までなら、勉強を教えるのが得意だった。
そんな中、彼氏の家にもたこ焼き機があると知り、第二回戦タコパになった。
こち亀のように遊びたかった私は
タコだけでなく
チーズやイチゴやチョコも入れた。
彼氏は実に手慣れた様子で油を引き、ひょいひょいとクルクルたこ焼きを回していく。
この前は、タコパというより、手作りたこ焼き振る舞われ会&カテキョータイムだったので
ようやくタコパ感が出てきた。
材料を買ったり、切る時からタコパは始まっているのだ。
私は初めてひっくり返しもやらせてもらった。
嬉しかったし、楽しかった。
私はタコパでひっくり返しもやりたかったのだ。
出来上がったたこ焼きにソースやマヨネーズをかけ、青のりをかけ
「今週も一週間、お疲れ様!」と乾杯をしてから
二人でたこ焼きをムシャムシャ食べる。
その日は金曜日だった。
たこ焼きはとても美味しかった。
お店より美味しく感じた。
「タコパは久々だよ。」
と彼が言う。
確かに一人ではなかなかやらないかもしれない。
テレビではMステがやっていた。
Mステを見ながらタコパをまったりやる時間も
隣で彼が笑う時間も
明日が休みという事実も
私は何よりも尊かった。
タコパは人の笑顔が集まる。
タコパをやってみて、タコパはコスパがいいことが分かった。
手軽で楽しくて美味しくて面白い。
タコパが気に入った私は、たびたび彼氏にリクエストしてタコパをした。
タコパはいつも楽しい思い出しかない。
たこ焼き機はドンキで安く売っていた。
材料も安いが、機械も安い。
私はそれを見ながら思った。
いつか結婚したら、家族でタコパをやりたいな、と。
同僚が退職し、彼氏とは別れ
私は再びタコパとは無縁になった。
たこ焼きがたまに恋しくなればお店で買った。
お店のたこ焼きも十分美味しい。
それでも私はまっつぁんのたこ焼きが恋しいし
あの日の彼がまっつぁんに重なる。
あぁそうか。
まっつぁんはたこ焼きに魂を込めていた。
大事な人の為にたこ焼きを作っていた。
だからタル達はあんなに美味しく食べていたのかもしれない。
あの日の彼とまっつぁんが重なるのはそういうことか。
あの日のたこ焼きが特別美味しかったのは
彼が私の好きな人で
彼が私のために作ってくれたからで
二人でキャッキャしながら作っていたから、か。
だからきっと
今の私はあの日以上のたこ焼きは作れない。
技術や材料があっても
私には他のものが足りないのだ。
結婚したらタコパをしたいと思う。
大切な旦那様と私と、もし生まれていたら子どもと
みんなでキャッキャしながらたこ焼きを作るんだ。
それはきっと、とてもとても楽しいだろう。
私はそんな日が来ることを夢見てる。
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