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ビロードの掟 第12夜

【中編小説】
このお話は、全部で43話ある中の十三番目の物語です。

◆前回の物語

第三章 もう一人の彼女(3)

 凛太郎はその日のことを今でも回想する。確かあれは満月がいやに大きく見えた夜のことだった。

 ピコンと携帯がなり、見ると優里からの返信だった。

 続けピコンピコンと立て続けにメッセージが送られてくる音がする。スマートフォンのロックを解除し、次いでLINEを開いた。彼女からの返信の中身を確認する。しかしそこには残念ながら凛太郎が期待したような言葉は連ねられていなかった。

『相田さん、こんばんは』

『突然のご連絡申し訳ありません』

 凛太郎の想定とは異なる人物からのメッセージにたじろぐ。「申し訳ありません」という言葉の後には、確かに申し訳なさそうにしている人のアイコンが一緒に追加されている。

『私、優奈と申します。優里の妹です』

『折り入ってお話ししたいことがありますので、近々お会いできないでしょうか?』

 その返信を読んで、頭の中が混乱した。優里の妹?どうして彼女が優里アカウントから僕に連絡をしてきたのだろうか。確かに昔優里と付き合っていた時、彼女の口から自分とよく似た姉妹がいるの、という話を聞いたことがあった。

 それにしても何の用だろう?そもそも優里はどこにいってしまったのだろうか?その文面から必死に状況を推理しようと思ったが、浮かび上がってくる解は一つもなかった。この状況でできることは、彼女に実際に会って話をすることしかないと凛太郎は判断した。

『はじめまして。ご連絡ありがとうございます』

『優里の妹さんなんですね』

『私も彼女のことについてお聞きしたいことがあります。急で大変申し訳ございませんが、今週の日曜日などいかがでしょうか?』

 しばらく優奈からの返信を待っていると、10分ほどで返信が返ってきた。

『今週の日曜日ですね。承知しました。私としてもとても都合が良いです。場所はどこら辺がきやすいですか?』

 凛太郎はしばらくの間逡巡した。確か優里は東京寄りの神奈川生まれで、そこから大学に通っていたはずだ。そこから行きやすい場所を考え、すぐに返信する。

『それでは渋谷のアーネストというカフェでいかがでしょうか?駅から5分ほどでそう遠くない場所にあります。駅で待ち合わせてから一緒に向かいましょうか』

『あ、その場所知ってます。承知しました。お店で直接待ち合わせする形で問題ありません。時間は13時でいかがでしょうか』

『問題ありません。それではアーネストへ13時に伺わせていただきます』

『ちなみに何か当日、あなたを見つけるにあたって目印のようなものを教えてもらえませんか?』

『その心配は必要ありません。おそらく一目で私だとわかるかと思います』

 最後の文章を読んで凛太郎はどういうことだろうとその真意を測りかねた。とりあえず当日待ち合わせの場所へ行けば、きっとその意味がわかるはずだ。その週はどうしても折りあるごとに日曜日のことを考えてしまい、仕事になかなか集中できなかった。

*

 待ち合わせ当日になり、指定した時間から10分ほど前に凛太郎は店の前に着いた。店内をざっとみたが、それらしき人は見つからない。秋の季節に移行しつつあるが、外はまだ蒸し暑かった。

 先に中で入っているのも常識知らずのような気がしたので、外で待っていることにした。土から出てくる時期を間違えた蝉の声が微かに聞こえてくる。真夏の時期に比べるとだいぶ柔らかな風がそよそよと吹いていた。

 その時ふわりと目の前に現れた女性がいた。その女性の姿と顔を見て思わずドキリとしてしまう。風にたなびく深紅の膝丈ワンピース。ビー玉のようなコロコロとした目。

 それはあの日の夜に見た優里の姿そのものだった。おまけに顔もそっくりだった。いや、そっくりのレベルではない。凛太郎の前に立った女性はまさしく自分がかつて恋した女性と瓜二つだったのだ。

 突然の出来事に、凛太郎は二の句を継ぐことができなかった。彼女は優里で、これは何かのドッキリなのか。

<第13夜へ続く>

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