鮭おにぎりと海 #6
<前回のストーリー>
「キミ、ネッシーってこの世に実在すると思うかね?」
突然目の前に現れた胸板の厚くて巨大な物体は、聴き慣れない言葉を僕に浴びせかけた。周囲からその異様な存在感により”神様”と影で呼ばれるようになった神木蔵之介との出会いはその珍妙な言葉から始まったのだ。その時の神様は、ちょうど本来であれば卒業の年である4年目の大学生活をスタートしたばかりの頃だった。彼は結果的に、大学に6年間居座ることになる。
後から聞いてみると、神様は僕の自信なさげな様子から新入生だと勘違いしたらしい。そこで思わず、といった体で自分が所属する旅サークルに引き入れるつもりで声をかけたらしい。ちなみに、僕はそのとき大学2年生で大学に入ってようやく環境に慣れ始めたくらいのタイミングだった。
その後も、彼は学食やすれ違うときに声をかけてくるようになった。僕の基本的なスタンスとしては、くるもの拒まずといった感じなので声をかけられたら普通に応答する。そのうち、彼は僕のことを「なまいきくん」と呼ぶようになった。
僕の名前は戸田生粋(せいすい)という名前だ。なんとなく"神様"と顔見知りのようになったときに流れで自分の名前と漢字を言ったら、「おお!なまいきくんか!」と嬉しそうに僕の肩をバシバシと叩いてきてその痛みに耐えているうちに訂正することがバカらしくなってきて、なんとなく訂正しそびれてしまった。ちなみに僕自身は面と向かって彼のことを"神様"とは呼びにくくて、単純に神(じん)さんと呼んでいる。
あるとき、神様から呼び止められた。いつものようにどうでも良い絡みをしてくるかと思いきや、何やら真剣な表情で「なまいきくん、今日空いているかね?」と言われ、何やら断れない雰囲気を醸し出していたのでそのままコクリとうなづくと、そのまま手を引っ張られ気づいたら大学から程近い駅にある居酒屋チェーン店にたどり着いた
どうやら合コンだったらしく、ひとり頭数が足りなくて急遽駆り出されたということらしい。正直僕はそうした場は苦手だったが、神様が奢ってくれるという手前、なんとか自分の役割を果たそうと必死になった。神様は神様で僕のことをいじる役に徹することによって、その場を盛り上げているようだった。そして僕は気づけば、神様の部屋で朝を迎えることになった。
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酒は、正直昔から強い方ではない。
入学すぐに参加したテニスサークルの新入生歓迎会も、あまりにもコールが激しいものだから途中で逃げ出してしまったほどだ。みんな何であんなにもコールが好きなのだろう。何となく、彼らはコールを叫びそして浴びるように酒を飲むことによって、もしかしたら現実から逃げ出したかったのではないのだろうか、とはたとあの時のことを思い出して冷静に分析した。
また学部の飲み会も定期的に行われた。大学生活お決まりというか何というか、結局お酒でフヨフヨした頭を抱えて彼らは関係性を深めて行った。男も女の子もお酒を飲んで染めた赤い頬のまま、気になる異性の隣へさりげなく座り、そのまま他愛もない会話を繰り返す。
僕にはその光景が羨ましかったし、これぞ大学生活のあるべき姿なのだと思っていた。だけど、どうしても僕はその場に馴染むことができなかったし、大学生の勲章ともいうべき”彼女”という存在を得られることができないまま結局その飲み会を後にした。
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話をもとに戻そう。
慣れない合コンで頑張ったせいか、神様の部屋で眠った次の日僕は強烈な頭痛に悩まされることになった。神様が住んでいるアパートは大学からほど近く、そして近くには美味しいうどん屋さんがあった。神様の部屋に泊まった日に食べにいったラーメンの味は今でも忘れることができない。
結局、その日の出来事をきっかけにして何とはなしに神様とたびたび学食で昼ごはんを食べるようになった。その前の授業がたまたま一緒だったということも一因ではあるけれど。何だか神様はその見た目とは裏腹に、どこか冷めた目を持っている人だった。それが何となく、僕がこの人と付き合うようになった理由かも知れない。僕は神様といることによって、何となく自分が許されたような気になっていたのである。
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