見出し画像

鮭おにぎりと海 #9

<前回のストーリー>

蒸し暑さの中でも、流す汗は不思議と気持ち悪さを感じなかった。

俺が所属している旅サークルの同期が、毎日のようにカレーばかりを食べていた。その時、俺はそいつをさも新人類のように見ていた。しかしいざ自分がインドにきてカレーを食べるようになるとその気持ちが不思議と分かるようになってしまったのだ。

♣︎

カレーには不思議な中毒性があった。

日本でよく食べられるような黒に近い茶色いカレー。食卓や給食に並ぶと、割と毎回楽しみに食べていた。だが一方で、毎日食べられるかというと甚だ疑問だった。何より、食べすぎるとひどく胃がもたれる。

ところが、インドでカレーを食べるようになってからその価値観はひどく一変してしまったのだ。不思議と朝昼晩と食べても全く飽きる事がない。そして現地の人たちは、毎回カレーの中に入れる具を変えていつも食べているのだ。カレーと一口に言っても、毎回毎回その味には新しい発見がいつもある。

カレーには一定の辛さはもちろんあるのだが、それと一緒に食べ終わると不思議な活力が芽生えてくるのだ。もしかしたらカレーには、どこか麻薬のようにいつまでも常習性が失われない効果がmもしかしたらスパイスの中にあるのかもしれない。それくらい俺にとったらインドのカレーは刺激的だったのだ。

♣︎

インドには大体2週間ほど滞在した。その間毎日カレーを食べていたせいで、不思議と自分の体からはカレーの匂いがしているような気さえしてくる。インド人たちから日本人とは違うすごく独特的な匂いがグワっと漂ってくるのだが、もしかしたらその匂いが自分からも発せられているのではないかと気が気ではなかった。でもそれは一方で、外国人としての自分が現地に馴染んでいる証のような気もしてほんのちょっぴり嬉しかった。

時間がある限り、いろんな場所を旅した。

まずはデリーに降り立った後、その後西へ西へとバスを使って移動した。ピンク色の街と呼ばれるジャイプール、青色の街と呼ばれるジョードプル 、山と湖に囲まれた街プシュカル、タージマハルのあるアーグラ、ガンジス川のある聖地バラナシ。どこもかしこも、それぞれ個性があり、不思議な吸引力をもっていた。

圧倒的な人のエネルギーの塊がそこにはあった。言葉で全てを語る事ができないほど、そこには人の強い生きる力が渦巻いていた。俺はその気に当てられて、途中体調を崩してしまった時もあったのだが、次の日にはけろっと直っていたりする。

その時、俺は自分がこれから生きる道にことについて思いを巡らせていた。あと半年もすれば就職活動が本格的に始まる。俺はきっとその流れに飲み込まれて、周囲と同じように確実な未来を手に入れようともがくだろう。でも本当にそれでいいのだろうか?このまま、周りと同じようにしてその渦巻く奔流に飲み込まれてしまっていいのだろうか。

こんな悶々とした気持ちで就職活動をしても良いものだろうか。茶色い濁流が流れるガンジス川で、俺はその時もう少し大学に居座ることを決めたのだ。俺にはまだまだ知らない事がたくさんある。しっかり真偽を見極める目を養いたかった。

インドから帰国した後はそれにも増してバイトに精を出した。それまで働いていた三角家だけではなく、居酒屋でも働くようになった。そうしてまずは自分が再び旅をするための準備を始めたのである。そして気がつけば大学4年の春を迎えていた。9月から休学して、海外へ行く準備も整いつつあった。

この記事が参加している募集

習慣にしていること

末筆ながら、応援いただけますと嬉しいです。いただいたご支援に関しましては、新たな本や映画を見たり次の旅の準備に備えるために使いたいと思います。