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鮭おにぎりと海 #77

<前回のストーリー>

しばらくすると、ご飯と一緒に魔法のランプのような入れ物に入ったカレーが運ばれてきた。ご飯の上には、少しだけチーズが乗っていた。

「相変わらず神木さんはカレーが好きなんですね。」

「おう、そうだな。海外旅していた時も、カレーがあったらその土地土地のカレーを食べて回っていたよ。」

「どこが一番美味しかったですか?」

「うーん、、一番と言われると難しい。でも、やっぱり東南アジアだろうなあ。どの国も香辛料の使い方がやたらめったら上手いんだ。中でも特にネパールのカレーが不思議と美味かったなあ。」

「ネパールですか?」

「意外だろう?なぜだか知らんが、ネパールでもカレーは有名らしい。毎日のようにカレーとモモっていう餃子みたいな食い物を食べてたよ。それとネパールでは記念にと思って、ヒマラヤ山脈でトレッキングをやったんだがこれがまたしんどくてなあ。凍えるような寒さだし、道は急勾配だし。」

「ヒマラヤって、あのヒマラヤですか?あの世界一高い山がある場所ですよね?」

「そうそう、エベレストがある場所よ。まあでも、さすがに今回はエベレストには登らなかったわ。いや、登ろうとしたんだが現地のガイドに聞いたら初心者はやめておいた方がいいって必死な形相で止めるもんだからさ。ちょっとひよっちまったよ。」

「そうでしたか、ちょっと残念ですね。」

「うん、それでもだいたい1週間程度はエベレスト以外のヒマラヤの山々を登り続けたかなあ。結構過酷な登山道でさ、歩いている間いくら食べてもすぐに腹が減るわ喉が渇くわ。最後まで登り切った時に、頂上から眺めた景色の美しさと、飯の美味さが忘れられないわけよ。」

「わあ、話を聞いているだけでも浪漫って感じがしますね。」

「そうだろう?それとな、トレッキングをする前に町の長老が近づいてきていうんだよ。お前は、神様の存在を信じるか、って。」

「神様、ですか?」

「そう、神様。その長老も観光客相手のビジネスをしているせいか、片言ながらも英語が話せるようでよ。それに対して、俺は日本にも八百万の神様というのがいて至る所に拝める場所があるんだ、という話をした。」

心なしか、「神様」は誇らしげな様子だ。

「それって、あんまり答えになっていないですよね?」

わたしはちょっとクスリと笑ってしまった。その答えがなんだか、「神様」らしいなと思って。

「うん、まあ正直いうと俺はそこまで神様の存在を信じているわけではないんだ。よくさ、困った時に限って『神様、お願いします!』とか言ったりするだろう?俺もどちらかというとそうしたご都合主義みたいなものの考え方をしていたから、神様の存在については半信半疑だったわけよ。南海ちゃんは、神様を信じてたりするの?」

「うーん、どうですかね。わたしも微妙かも。わたしの家庭自体、どこの宗教にも属しているわけではないですし。ただ、わたしの母方の祖父母は、漁業で生計を立てていたこともあって、『海には海神(わだつみ)という神様がいるんだ』と言って、よく家の祭壇にお祈りしていたのを見かけたことがありますが。」

「まあ、そんなもんだろうな。基本日本のそれなりに発展している街に住んでいたら、そうした存在に触れる機会もないしな。」

「はい、そうですよね。」

「うん。で、元の話に戻るよ。少なくともヒマラヤに登る前、長老から聞かれた時は神様の存在なんて信じていなかったわけなんだけどさ。」

「その流れからすると、ヒマラヤを登っていた時に、神様から何かお告げがあったんですか?」

「まあまあ急ぐなって。大筋はそうなんだけどさ。」

そう言って、「神様」はカレーの最後の一口を口に入れた。そしてお水を一口口に含み、その後の次の言葉を続けるのだった。

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