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エガオが笑う時 間話 とある少女の視点(5)

 エガオ様と再会したのはそれから半月後のことだった。
 停戦条約が結ばれて教会に下りてくる支援金が大幅と言うほどではないが少なくなった。3食は食べれるものの大所帯を養うのは少な過ぎる。
 私は、再び斡旋所に通いながらひもじい思いをしている弟達に甘いものを食べさせてやりたいと思い、王都でも評判の良いキッチン馬車にお菓子を買いに行った。
 私は、心臓が止まりそうになる。
 エガオ様がそこにいた。
 しかし、私はそこにいた女の子がエガオ様だと一瞬で認識出来なかった。
 それほどに彼女は変わっていた。
 大きな三つ編みにしていた金髪は丁寧に結い上げられて輝いていた、元々綺麗な顔には丹念に化粧が施され煌びやかに、薄桃色ピンクの鎧下垂れは可愛らしく、しかもスカートになっている。白いエプロンの括り付けられた板金鎧プレートメイルと大鉈を背負ってなかったらとても気づかなかった。
 そして彼女は笑顔こそ浮かべてないものの楽しそうに同じ年くらいの女の子達や淑女と話していた。
 あまりに見なれない、しかし眩しい光景。
 私としか作れていなかったはずの光景。
 私の心にチクンッと何かが刺さる。
 私は、エガオ様が彼女達から離れて料理を運ぼうとしている時に意を決して「エガオ様?」と声を掛けた。
 エガオ様は、とても驚いた顔をしていた。
 エガオ様は、私を円卓の一つに案内してくれてオレンジジュースを出してくれた。
 この店の店長の奢りだと言う。
 私は、エガオ様にとても綺麗になってびっくりしたことを告げると恥ずかしそうに顔を赤く染める。
 こんな仕草今まで見たことない。
 私は、一体何があったのかと訊くと鳥の巣のような髪をした店長が出てきて「この店で働いてるんだよ」と教えてくれた。
 働く?
 エガオ様が?
 私は、驚きつつもここに来ればまたエガオ様に会えるのだと嬉しくなった。
 私は、注文と聞かれたのでお菓子を買いたいと告げ、メドレーで貯めたお金を店長さんに見せると「これじゃあ足りない」と言われた。
 がっかりしたがそれはそれで仕方ないのかな?と思った。
「そんな言い方しなくても!」
 エガオ様が突然怒り出した。
 私は、驚いた。
 エガオ様が感情をむき出して怒る姿なんて初めて見た。
 しかも男の人と言い合いをするなんて。
 しかし、それは少しの間のこと。
 店長さんが予算内でお菓子を作ってくれることになった。
 店長さんは、私の想いをしっかりと考え、聞いてくれてたのだ。
 エガオ様は、驚き、優しく声をかける店長に頬を赤く染めて頭を下げる。
 笑顔こそ浮かべてないが頬が緩んでいる。
 えっ?これってまさか?
 私は、エガオ様にわざと言ってみる。
「エガオ様、良い方と出会えて良かってですね」
 私が言うと彼女は言葉の意味が分からないとばかりに眉を顰める。
「あれっ?彼氏さんじゃないんですか?」
 その瞬間、顔が破裂するのではないかと言うほど真っ赤になる。
 あーっそう言うことなんだ。
 私は、思わず納得し、拳を握りしめた。
 この国は、私から両親だけじゃなく、エガオ様まで奪うんだ。
 大好きなエガオ様まで・・・。
 私の中に黒い沸々としたものが煮えたぎった。

「決意は決まりましたか?」
 黒いフードを被った男の質問に私は頷く。
 メドレーを辞めた直後に彼は私の側に寄ってきてずっと言葉を囁いてきた。
 何でも私には他の獣人にはない特別な才能があり、彼はそれを開花させることが出来るらしい。
 彼の周りには騎士崩れと呼ばれる元王国の騎士や帝国を負われた騎士達もいる。
 皆、王国の第二王子と帝国のお姫様に大切なものを奪われた人達だ。
 私のように。
 フードの男は、私に絶えず言い続けた。
 自分たちから大切なものを奪った王国と帝国を滅ぼそうと。
 私がいればそれが出来る、と。
 私は、ずっとそれを拒否し続けた。
 確かに私は王国を恨んでいた。
 騎士の娘だからだと体裁を整えながらも全てを奪った王国を恨んでいた。
 しかし、それでも王国を滅ぼすなんて間違っている。
 両親を侮辱し、良くしてくれるシスターや弟達を裏切る行為だ、思っていた。
 でも、今日、そのタガは外れてしまった。
 こんな国、滅んでしまえばいい。
 私から全てを奪ったこんな国、滅んでしまえばいい。
 私は、フードの男を見る。
「一つ約束して」
「何だね?」
「この国は滅ぼしてもいい。でも、私の大切な人の命は奪わないで」
 私の願いに対し、男はフードの奥で小さく笑う。
「・・・約束しよう」
 男の袖が捲れ上がり、魔印と呼ばれる刺青タトゥーが青く光る。
 彼の手が私の首筋を触り、青い光が首に絡みつく。
「エガオ様・・」
 私は、小さくその名を呟いた。
 遠くで両親とエガオ様が泣いているような気がした。
 
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