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「監察医」って何をする人?

テレビドラマに「監察医○○」という番組があり、解剖して事件を解決に導くという姿が映し出されていましたが・・・見たことありますか?

ドラマでは、監察医が転落現場などにも臨場し犯罪を解決するような内容のものもありましたね。
でも、実際のところ監察医といわれる監察医務院に所属する医師の仕事としてはちょっと違うのです。
ということで、今回は「監察医制度」に書きます。


|監察医は解剖医?

監察医制度は、死体検案、死因の究明、統計が究極の目的なのだ。
そしてその目的達成のために行われるのが「行政解剖」であり、「司法解剖」を行うことを目的とする医師ではないのだ。

|制度の根拠法令

監察医制度の法的な根拠となるのが「死体解剖保存法」という法律。
この第8条に規定されている。

第八条 政令で定める地を管轄する都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、これに検案をさせ、又は検案によつても死因の判明しない場合には解剖させることができる。但し、変死体又は変死の疑がある死体については、刑事訴訟法第二百二十九条の規定による検視があつた後でなければ、検案又は解剖させることができない。
2 前項の規定による検案又は解剖は、刑事訴訟法の規定による検証又は鑑定のための解剖を妨げるものではない。

死体改墓保存法第8条

つまり、本来kの監察医制度は、
・ 都道府県知事が設置
・ 伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の
 明らかでない死体について、その死因を明らかにする
・ 検案させ、又は死因の判明しない場合には解剖させる
・ 変死体等は検視が優先される

ということになる。
また、第2項にあるように刑事訴訟法に基づく解剖も妨げない旨を規定している。

|解剖は「行政解剖」

監察医による解剖も行われるが、その目的は行政目的、つまり犯罪性のない死体における死因の究明のために行う解剖であり、テレビドラマのように犯罪性のある死体を犯罪捜査の一環として行ういわゆる「司法解剖」とは異なるのだ!

監察医は、犯罪性はない死体で、伝染病や中毒による死、または災害による死が疑われる場合も検案・解剖を行ないその死因を明らかにし、また、公衆衛生の向上を図っている。

|「司法解剖」は?

司法解剖は、犯罪の疑いのある死体を解剖するもので、刑事訴訟法を根拠とし犯罪捜査のために行われるもので、監察医の業務ではない。

このあたりは後日書くことにするが、「司法解剖」
 刑事訴訟法第168条1項に基づく「鑑定人による死体の解剖」
であり、同法第229条「検視」に基づいて刑事事件の捜査を目的に行われるものである。
法律上は裁判所から「鑑定処分許可状」の発行を受ければ、遺族の同意が得られなくても職権で強制的に行うことが可能である。

|「監察医務院」とは

監察医が所属するのが「監察医務院」という組織。
東京都には「監察医務院」、大阪府には「大阪府監察医事務所」という独立した組織と独立した建物が存在する。
また、兵庫県には「兵庫県監察医務室」が設けられており事務を行っている。

なお、制度上、現在も監察医を置いているのは
 東京23区、大阪市、神戸市
の三カ所である。

※監察医制度は、1947年の人口上位7都市(東京23区・大阪市・京都市・名古屋市・横浜市・神戸市・福岡市)において導入されたが、現在は、東京23区・大阪市・神戸市の3都市で制度が存在する。他の地域は財政難等で実質的に廃止。

|監察医制度の所管は

監察医制度は、警察が所管するわけではない。
ドラマなどではなんとなく警察と密接不可分な関係で、都道府県警察に所属するようなイメージを持ちやすいが、実は違うのだ

中央省庁としては「厚生労働省」が、関係法律やその事務を所管する。
これは「医師」、「死因究明」、「死亡統計」など監察医制度の法令からも明らか。
法令上は「都道府県知事が設置する」とされている。

|どんな仕事をするのか、役割は?

 ○ 監察医制度の意義

人が死亡すると、その人に帰属していた財産をはじめとする諸権利が法律的に失われ、一方で、人の死により相続の開始、保険金・賠償金の支払いなどの新たな権利等が遺族等に発生することになる。

このため、その人の死因の確定が重要となる。
監察医により検案が行われ死因等が究明されること、例えば、自他殺の別、業務上の死か否か、死亡日時などを確定することで関係者間のいろいろな権利も適正に行われることになり、強いては社会秩序の維持を図るという役割を担うことになる。

また、犯罪の疑いや死体の検案の時点では犯罪の疑いがない場合でも、行政解剖をした結果、他殺の疑いがでてきて、犯罪捜査の糸口となることもあり、事件と認識させるという役割をも担っている。

 ○ 公衆衛生の役割

原因不明の突然死や家庭内での高齢者の事故死、その他伝染病による死などが発生していることから、こうした死亡原因を科学的に究明することにより疾病の予防や事故死の発生防止など公衆衛生上の対策の充実を図るという役割を有している。

 ○ 統計の作成

死因統計の価値を高め、国民の健康・福祉に関する行政の重要な基礎資料として根拠が明確な死因統計を作成するという役割を担う。

|監察医制度のある地域における死体取扱の流れ

病院で治療中や医師の観察中の死などの場合には死因が明らかな場合には監察医が検案を行うことはないが、自宅で亡くなっていたなどで犯罪性のない死体については監察医による死体検案が行われることになる。
その流れとしては次のとおり。

 ① 警察への届出

病院等で医師の管理の下で患者が死亡し死因が明らかな場合を除いて、自宅で朝起きたら死亡していた、庭先で倒れて死亡していた、災害で死亡したなど、いわゆる死体として発見された場合には、救急隊、家族、家族などから警察に届出がなされる。

 ② 検視官による検視

警察の検死官による犯罪性の有無に関する「検視」が行われる。
犯罪性がある場合には、刑事訴訟法に基づく司法解剖等が行われ事件捜査が開始されるが、犯罪性の疑いのない死体であると判断した場合には、監察医務院に「検案要請」を行うことになる。

なお、警察に死亡(死体発見)連絡があった際に、警察官が臨場するのと合わせて監察医務院に通報する場合もある。

 ③ 監察医の検案

要請を受け監察医務院から派遣された監察医が死体検案を行う。
検案場所は、死亡の存在場所(死体発見場所など)や警察の死体安置室が一般的。

 ④ 死因が特定できなかった場合の行政解剖

検案の結果死因が判明しない場合には、行政解剖を行うことになるが、解剖は監察医務院にて行うため死体は監察医務院に搬送されることになる。

 ⑤ 死体検案調書(死体検案書)等の発行

その結果に基づき、死体検案調書、死体検案書(死亡診断書)を作成することになる。

死因が確定した場合は、死体は遺族に引き渡されることになるが、行政解剖の対象となった場合には、場合によっては1~2日間程度引き渡しが遅れる場合がある。
※死体検案書は別記事 ↓

 ⑥ その他
検案によって死体に犯罪性があると判断された場合には、死体は司法解剖に回されることになる。

|監察医務制度のない地域での扱い

監察医制度が置かれていない地域では、警察から依頼を受けた一般の医師(これを「嘱託医」という)により死体検案、検死が行われている。

<参考>
監察医制度の概要について⇒ https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0312-8c_0055.pdf

東京都監察医務院⇒ 

大阪府監察医事務所⇒

兵庫県監察医務室⇒


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