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からだ以上の心が溢れ出して

 しばらくして、ようやく読み終えたことに気づいた。真夏の砂漠に置き去りにされたように渇いていた。文化も神もよくわからないし、きっと知ろうとする探求、の心、がたぶん少ないからなかなか掬い取ろうなんでしないと思う。思うけど、こういうのを読むとああいいなあと思う。つまり人間的に魅力的な人間で、真っ白な種になって泥に埋まっていくイメージの、息の詰まるほどの美しさ、が最後にずっと込み上げてきてえらく現実から離れていた気分だ。や、そうだよ。始まりからそうだった。エロ小説を書くのが一番かきやすいのも、認められやすいのも、よくわかる。よくわかるけどそこから現実の描写のあとの紙の海にもぐったあとの、本物の現実、の落差に梅干しの種をいつまでもしゃぶるみたいな卑しさがある。

 主人公はかわいそうなのだろうか。
 重度障害者女性として、種をそだてあげることのできない体から、ありえないほど心が溢れ出す。彼女が現実と引いたその一線、両親の安室から、ネットの海に放流されるぎらつく生命が、渦をつくる。るつぼ。わたしも、その生に巻き込まれたひとりだろう。

いつかのための今を生きられるすべての人へ。

“私の身体は生きるために壊れてきた”
「ハンチバック」/市川沙央

23.0705.

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