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発熱途上

熱が出て、ぼーっとしている。
からだはだるくて、あたまが重い。目をすこし動かすだけで、じん、と痛みが澱のように沈む。

涼しい風が入ってくる。
間接照明の灯色が睫毛に影をつくる。喉が渇いた。からだを起こしているのがつらくて、やっぱり体調が悪いのだと思う。薬を飲み込むのが苦手だ。けれどがんばって飲んだ。

目に入った睫毛を他人がとってあげている図はなんだかグロテスクだと思う。
昔、そろばんの先生が大学生ほどの息子さんの目に指を突っ込んでいたのを思い出す。先生は字が綺麗で、いつだって巻き髪にヒールを履いていて、こんな田舎にふさわしくないくらい美人だった。大きな黒子がおでこにある喫茶店の店主が夫だった。二人ともとてもやさしかった。
よくカルピスをもらっていた。
そんな先生のネイルした指が若い男の眼球をまさぐる様がなんだか嫌だった。至近距離で、じっとして、早くとって、なんて言い合って。
ただ、親子仲が良かっただけだろう。実際先生は娘さんの方ともとても仲良しだったのを覚えている。

間接照明の光の中にいると、月にいるみたいだ。ひたいの奥の方が鈍く痛む。白く四角い部屋でわたしがひろがっている。透明な夜だ。
内の波が引かなくて、かなしくないのに外まで潤ってくる。

なにか、あたたかいものでも食べよう。
それから、ぐっすり眠ろう。
明日の自分に、健康を託して。

23.1004

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