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すこしのあいだでいい

死にたくはないんだけど死にたくなって、意味もなくビンタしてみたりベッドから落ちてみたりする。雪が葉に積もるときくらいの優しさと重さと頑固さで生きてるのにどうして美しくなれない。からだが重すぎて、心が浮かばない。まったく何も映さないテレビの黒いけど透明な画面に顔が伸びていて、ずっと平面で生きてるみたい。地下鉄みたいな下半身が閉じきらなくて、まただれかにあまえてしまう。ずっとこんなふうなのかな、なんて酔いの回った台詞を吐いて、それはぶどうを房から丁寧に外していくようになめらかに吐いて、途端にかなしくなった。
靴下を履いていない足先が冷たい。
ゆびだけこんなにクルクル動かして、一体何も生み出せない。
海を巻き上げる風の、一部になって空を飛びたい。すこしのあいだでいい。ペットボトルの中身になって空になりたい。すこしのあいだでいい。

ちからいっぱい泣くことなんてせず、たらりりっとこぼれるだけこぼして、なんかそんなに大丈夫みたい。からだの線がくっきりしなくて、たぶん夜と月もそんなかんじ。冬の匂いがする。
秋が終わっていないのに冬の匂いがする。

鳥籠で文鳥がガサゴソうごいていてかわいい。生命をまるごとかわいいと思うことが初めてで怖いところもある、だとしてもかわいい。毎日新鮮に鳥の可愛さに驚いてしまう。それとは別にぜんしんが水風船みたいにもったりと沈む。

支えて欲しい感情が、浮かんで消える。
積み木みたいな海ならばわたしでもたやすく壊せた。
今ではもう、のみこまれてしまった。


23.1006

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