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知っているようで知らない「ナツメグ・メース」の世界|#55-57

カレーよりハンバーグに使われるイメージが強い「ナツメグ・メース」。
知っているようで知らないナツメグ・メースを自由研究した結果を発表します。


基礎情報

\基礎情報は、音声でも聴けます/

そもそも、「ナツメグ」と「メース」って、1つの種子なんです。

右〉ナツメグ:木の種子の仁(中心部)を乾燥させたもの
左〉メース:木の実の中にある種子を覆う仮種皮の部分を乾燥させたもの

右側の仁(ナツメグ)には覆われてた跡がついている


・名称
英語ナツメグ( Nutmeg )
ヒンディー語:ジャイファル( जायफल )
日本語:ニクズク( 肉荳蔲 )

・学名
Myristica fragrans(ミリスティカ・フレグランス)

・属性
ニクズク科ニクズク属の樹木(熱帯性常緑高木)

・原産地
インドネシア東部のモルッカ諸島(さらに細かくバンダ諸島)
ちなみにクローブもモルッカ諸島原産と言われていてスパイス諸島と言われたりもするようです。

・生育環境
成長が遅く種蒔きから開花までに7~8年かかる。
雌雄異株なので、スパイスを採ろうと思ったら雌(メス)の木と雄(オス)の木が必要なので、自宅で栽培するのは難しい。

・食べ方
1:ナツメグ(仁)= スパイス
2:メース(仮種皮)= スパイス
3:果実 = お菓子(ヤシの蜜と混ぜて天日乾燥する)


ナツメグ・メースの歴史

\歴史回は音声でも聴けます/

● ナツメグの誕生

原産地は、インドネシアのモルッカ諸島の中のBanda islands「バンダ諸島」。別名「Spice Islands」と呼ばれている。

Wikipediaより引用

バンダ諸島は本当に小さくて、諸島の総面積172 km²。八王子市の186 km²より小さな場所で、世界中に流通するナツメグを生産していた。

● 考古学・歴史上の記録

  • 紀元前15世紀:インドネシアの遺跡から、壺の中にナツメグが残っていた。

  • 紀元前10世紀:インドのバラモン教の聖典に記載がある。

  • 紀元前3世紀~紀元後3世紀:イラン・イラク周辺にあったパルティア王国宮廷で使われた「王様の香料」のリストの中に、高価で珍しい香料としてクローブと一緒に登場する。

  • 3~4世紀:中国にナツメグが届く(果肉の砂糖漬けらしい)

  • 6世紀:アラブの商人によってヨーロッパ(東ローマ帝国の首都コンスタンティノープル)に「インドのくるみ」という名前で持ち込まれる。

  • 9世紀:ギリシャの文献に登場。

  • 12世紀:フランスの文献に登場。

  • 14世紀:イギリスの文献で登場。ヨーロッパで感染病のペストが広まったとき、感染病予防になるとされ、ブラックペッパー、クローブと共にナツメグも価値が高騰していく。

● 大航海時代

アフリカをぐるっと廻る東側航路で、ポルトガルが秘密のモルッカ諸島に到達してしまい、スペイン、オランダ、イギリスが「Spice Islands」を独占しようと戦争を始めてしまう!

● ニューヨーク < ナツメグ

17世紀、オランダは思い切った決断をする。
当時オランダ領だったニューヨーク(当時はニューネーデルランド)をバンダ諸島の一部と交換したのだ。
オランダは、バンダ諸島を含むモルッカ諸島のスパイスを使って莫大な利益を手に入れ、ニューアムステルダムは、イギリス領ニューヨークという名前に変わり現代の世界経済の中心に発展していく。

●独占が崩れる

18世紀中頃、とあるフランス人宣教師がこっそりナツメグを盗み、フランス植民地で栽培をはじめてしまい、オランダが厳重に独占していたナツメグ市場が崩壊。
その後、マレーシア、スリランカ、インド、カリブ海のグレナダなど世界各地で栽培されるようになり、あっという間に価値が下落、庶民でも買えるようになった。

●まとめ

これまで番組で話してきた、シナモン、コリアンダー、クミン、はユーラシア大陸原産。スパイスには世界に拡散していく歴史が多いが、ナツメグはその逆で、はるか東の果てのバンダ諸島でしか作られていなかった秘密のスパイスだった。


経済学

\経済回は音声でも聴けます/

1つの種子からできているので生産国はナツメグ・メースともに同一なものの、輸出入の割合が全然違うのが興味深い。

生産国(ナツメグ・メース)

1位 インドネシア
2位 インド
3位 グアテマラ
4位 ネパール
5位 スリランカ
6位 ラオス
7位 ブータン
8位 タンザニア
9位 グレナダ
10位 ホンジュラス


・ ナツメグ

・メース

生産国は強いけど、やっぱり横流しで儲けている代理店的な国があるよね。

現在の需要供給で言うと、南インドのケララ州で2年連続の洪水が起きたせいで、生産量30%減。2021年は1.4倍の価格に高騰。
これも環境破壊ですね。(地球温暖化が進むとカレーが高くなる)

ちなみに製薬業界向けにケララのナツメグは買付が多いそうで、2021年の生産量で食用の輸出規制がかかるかもって感じだったらしい。


調理方法

・ヨーロッパの伝統料理
ジャガイモ、ほうれん草の料理や肉加工品、スープ、ソース、焼き菓子、プリン、ライスプディングにもよく使われる。

・オランダ料理
芽キャベツ、カリフラワー、インゲン豆などの野菜料理に。飲み物では、伝統的にサイダー、ワイン、エッグノッグの材料として使われる。

・スコットランド
ハギス(ソーセージ)の材料として使われる。

・イタリア料理
トルテリーニなどの肉入り団子、伝統的なミートローフ、パンプキンパイ、焼きドングリカボチャなど、冬のカボチャのレシピによく使われる。

・カリブ海
ブッシュワッカー、ペインキラー、バルバドス・ラムパンチなどの飲み物にナツメグを一振り。


実験:ナツメグ・メースをふんだんに使ったカレーは美味しいのか?

実験用カレーのレシピ (4人分)

ナツメグ(パウダー) --- 小さじ1
メース(テンパリング)--- 3つかみ
コリアンダー --- 大さじ1、
ターメリック --- 小さじ0.5
チリ --- 小さじ0.5
クミン --- 小さじ0.5

玉ねぎ --- 1個(300g)
生姜すりおろし --- 小さじ1
ニンニクすりおろし --- 小さじ1
トマトピューレ(6倍濃縮) --- 大さじ1

【 食べた感想 】
・味と香りが別々に認識される。
・芳香剤いれたような衝撃的な味。
・花の臭いが強い。
・メースのホールを噛むとぐわぁっとなる。
・メースは少なければおいしいかも。

実験結果まとめ

ナツメグ・メースは香りが強いので入れすぎない方がいいし、実験以外では食べなくてもいい。


参考note

我々のカレーフレンズで、2023年中は海外のスパイス農家を巡る旅に出ている樋口実沙さんがネイティブスパイス情報を発信しています。加工前のスパイス、栽培の様子など面白い情報がてんこもり!

「NYと交換された島|ナツメグのルーツを辿る」より引用

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