樋口実沙

🇮🇳2023年より1年間インドを中心にスパイスの生産から流通を学ぶためフィールドワークを…

樋口実沙

🇮🇳2023年より1年間インドを中心にスパイスの生産から流通を学ぶためフィールドワークを遂行 🌴バリ島と日本を拠点にリジェネラティブな未来を創るNGO Earth Company所属 🍽best 50のサステナブル・レストラン賞を評価するSRAの日本支部のプロジェクト・エキスパート

最近の記事

「天国への道」の先!伝説の川が育むクミン

インドのスパイスの主要産地として重要な役割を持つグジャラート州。ここへはコリアンダーシードの収穫を追ってやってきましたが、実はインド国内シェアの約70%を占めるとも言われる、「塩」の産地でもあります。グジャラート州の北西部、パキスタンとの国境に近くにある「カッチ湿原」は、東西250km,南北150kmにおよぶ広大な塩性の湿地。雨期には海水で覆われてしまうのですが、乾期には塩の大地が広がるという、なんともダイナミックな変貌を見せる場所なのです。 前回の記事でご紹介した米国のス

    • スパイス農家が主役になる日

      インドで「シードスパイス」の収穫シーズンが始まる頃、私はその主要産地であるグジャラート州ラージコートに滞在していました。マハトマ・ガンディーのゆかりの地ということもあり、街の至る所に彼のシンボルが見えます。全てのお札にガンディーの顔があるほど、インドにおいてガンディーは最も尊敬される偉人の一人ですが、グジャラートの人たちにとっては尚更かもしれません。もちろん、私も彼を敬愛する一人です。 けれども、観光はそこそこに、スパイスのリサーチを進めなくてはいけません。ラージコートから

      • 日焼けが嫌いな、グリーンコリアンダー

        2月に入り「シードスパイス」と言われる種のスパイスの収穫のシーズンが幕を開けました!インドは西部のグジャラート州とラジャスタン州、マディヤ・プラデーシュ州の一部の地域が主要産地とされています。そのシードスパイスの中でもメジャーなものは、コリアンダーシード(以下コリアンダー)、クミンシード、フェンネルシード、マスタードシード、メティーシードなど。これらのスパイスが4月にかけて収穫の最盛期を迎えます。 ターメリックの収穫の調査のために滞在していた、マハーラーシュトラ州のサングリ

        • あなたのターメリックは、旬のターメリックですか?

          前回はインドで広く流通している、カシミリチリという唐辛子のリサーチのために、カルナータカ州の「ビャダギ」という街に滞在していました。さて、次の目的地はというと、そこから北へ300kmほど、マハーラーシュトラ州の「サングリ」という街です。そこで今旬を迎えた、ターメリックの収穫から加工のプロセスを見るというのが、今回のミッションです。 真夜中の3時にホテルを出発し、駅のホームに着くと、そこそこの人が電車を待っていました。バンガロールやマイソールに向かう電車のアナウンスが響く中、

        「天国への道」の先!伝説の川が育むクミン

          辛くない?!カシミリチリの謎

          2024年1月19日、スパイスの生産と流通のフィールドワークの旅を始めて丸1年が経ちました。思い返せば1年前は何の当てもなく、とにかく行くだけ行ってみようとインドはケララ州のカルダモンの産地を尋ねました。そこから1年足らずで、まさかこんなに沢山のサプライヤーや農家の人たちと出会い、繋がりを持つことができるとは想像もしていませんでした。 そんな記念すべき日、私はニューデリーにあるFAO(国際連合食糧農業機関)が主催するカンファレンスに参加していました。コリアンダーの産地で偶然

          辛くない?!カシミリチリの謎

          発酵とキングチリの出会う場所

          前回、北東インドのメガラヤ州で「幻のターメリック」こと「ラカドンターメリック」の原産地(詳しくはこちら)を訪ね、農家のコミュニティを支援しモディ首相にも表彰されたトリニティさんのお宅に農泊した時のこと。夕食中にトリニティさんから次の旅先を聞かれたので、私は、 「キングチリを見に、ナガランドに行ってみたい」 と答えました。ナガランドというと何だかテーマパークみたいですが、北東インドのセブンシスターズと言われる7つの州の一つで、ミャンマーと国境を接しています。そこは、世界一辛

          発酵とキングチリの出会う場所

          「幻のターメリック」を産んだ大地と人々

          西ベンガル州の州都シリグリは、北東インドの玄関。これから向かう「セブンシスターズ」と呼ばれる7つの州は、「インドの隠された宝石」と言われ、未開発の豊かな自然と独自の文化に富んでいることもあり、今インドにおいて注目されている地域の一つです。 私はシリグリから夜行バスに乗り、アッサム州を横断しバングラデシュと国境を有するメガラヤ州の「シロン」にやってきました。到着したのはクリスマスイブ。キリスト教徒が多いため、街は楽しいお祝いムードですが、タクシーはつかまらない、ホテルもほぼ満

          「幻のターメリック」を産んだ大地と人々

          オーガニックスパイスの宝庫、ヒマラヤ造山帯

          2023年も残りわずかとなってきましたが、スパイスの旅はまだまだ続きます! 12月中旬、World Spice Congress 2023(世界スパイス会議)で出会った、オーガニックスパイスのサプライヤー「ARICHA」の代表のヴィシャルさんとコルカタで再会しました。ARICHAのオーガニックスパイスは日本でも販売されていることもあり、どんな農家さんがどのように育てているのか、どんなサプライチェーンになっているのか、ぜひお話を伺いたいと思っていました。 英領期のベンガル地

          オーガニックスパイスの宝庫、ヒマラヤ造山帯

          種まき編|アジア最大のコリアンダーシードの産地にて

          11月下旬、インドに戻ってきて5日目。ハイデラバードのアグリテック企業の取り組みを視察した後、私はマディヤ・プラデーシュ州(以下MP州)の州都ボパールを経由して、グナという都市を目指しました。 「ボパール」といえば、1984年に米国の化学企業大手ユニオンカーバイドによる史上最悪の化学工場事故で有名になってしまった都市です。長期的には最大2万5000人が亡くなったといわれていて、現在も後遺症に苦しむ人がいるそうです。私は広島出身で祖父が原爆の被爆者ということもあり、境遇に共感

          種まき編|アジア最大のコリアンダーシードの産地にて

          スパイスの課題を解決するアグリテック

          2023年スパイスの旅を始めてから10ヶ月目に突入。お仕事の機会をいただき、インドネシアに3週間ほど滞在していた間noteの更新が途絶えてしまっていましたが、スパイスのフィールドワークを再開するべく、インドのハイデラバードにやってきました。 11月のハイデラバードは朝は肌寒いものの、日中は30度を超える暑さ。雨季も明けて乾燥しているので比較的過ごしやすくはありますが、炎天下を歩いていると体力を消耗します。 今回の滞在の目的は、9月にインドで開催されたWorld Spice

          スパイスの課題を解決するアグリテック

          「真のシナモン」のポテンシャル

          引き続き、スリランカからシナモンについてお届けします! 前回の記事では、スリランカが原産のセイロンシナモンのことを「真のシナモン」としてお伝えしてきました。しかし、世界のシナモンマーケットにおいては、中国・インド・インドネシア・ベトナムなどで生産される「カシア」と呼ばれるシナモンが、全体の8割を占めているとも言われています。 ピリッとした風味と強い香りが特徴のカシアに対して、セイロンシナモンは甘い風味とマイルドな香りが特徴です。さらに違いとして近年注目されているのは、 肝

          「真のシナモン」のポテンシャル

          「真のシナモン」を求めて

          あっという間に10月になり、日本は秋の味覚が楽しめる季節になってきたでしょうか?雨季が続くインドでのスパイスのリサーチは、ビザの期間を温存するために9月末で一旦お休み。所変わってインドのお隣の国、スリランカにやってきました。 突然ですが、スリランカのスパイスといえば、最初に何が思い浮かびますか? 恐らく、これを読んでいるほとんどの人が「シナモン」と答えるのではないでしょうか。それほどまでに、「セイロンシナモン」というブランドが一般の人にまで普及している今日。ではスリランカ

          「真のシナモン」を求めて

          インド最大のターメリック産地の市場から(後編)

          World Spice Congress(世界スパイス会議)で出会った「S. R. International」のネイバルさんのアレンジで、ムンバイから夜行列車で12時間。前回に続いて、ターメリックの公設市場・マンディがあるナンデードの旅の後編をお届けします! *前編はこちらから これまでクミンや唐辛子などのマンディを訪問した際には、膨大な量のスパイスと数百人もの取引業社や農家が集まっていましたが、この日は「ガネーシュ・チャトゥルティ」というヒンドゥー教のお祭りの真っ只中。

          インド最大のターメリック産地の市場から(後編)

          インド最大のターメリック産地の市場から(前編)

          9月15日から17日にかけて、インドのムンバイで開催されたWorld Spice Congress(世界スパイス会議)。怒涛の3日間が終了した翌日、展示ブースをまわっていた際に声をかけてくれた「S. R. International」のネイバルさんが、「ぜひうちのオフィスに遊びにきて!」と言ってくれたので、早速翌日にナヴィムンバイのオフィスにお邪魔することにしました。 ナヴィムンバイは、新ボンベイとも言われるムンバイの衛星都市。工業地帯もあり、ムンバイをベースにしている企業

          インド最大のターメリック産地の市場から(前編)

          世界スパイス会議レポ〜スパイスの旅後半戦スタート!

          いよいよ2023年スパイスの後半戦がスタートしました! 実はその前、7月から8月にかけて日本に一時帰国し、前半戦でリサーチした「スパイスの持続可能性」について、日本の企業や専門家に情報提供をさせていただいたり、イベントやラジオ、Podcastでお届けしてきました。そこで得た情報やフィードバックにより、よりスパイスへの解像度が高めることができました。 特に、B2Cで販売されているスパイスは、スパイスの輸入量のほんの一部に過ぎず、逆に多くを占めるB2Bの場合でも、生産国から直

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          技能実習生が育つベトナムの胡椒農園

          2000年以降から力を入れ始めたにも関わらず、世界一の胡椒の生産国となったベトナム。私は今年のスパイスの旅の前半戦最後に、ベトナム胡椒のメジャーな産地の一つ、ダクラク省の省都、バンメトートに向かいました。 ダクラク省はベトナムの中部高原に位置し、カンボジアと国境を接しています。王朝時代からフランス植民地時代を通じて、エデ族をはじめとした山岳民族の地だったそうですが、ベトナム戦争終結後にマジョリティのキン族が移住し、今でも時折民族間の衝突が起こるのだそうです。実際に、私が訪問

          技能実習生が育つベトナムの胡椒農園