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インド最大のターメリック産地の市場から(後編)

World Spice Congress(世界スパイス会議)で出会った「S. R. International」のネイバルさんのアレンジで、ムンバイから夜行列車で12時間。前回に続いて、ターメリックの公設市場・マンディがあるナンデードの旅の後編をお届けします!
*前編はこちらから

これまでクミンや唐辛子などのマンディを訪問した際には、膨大な量のスパイスと数百人もの取引業社や農家が集まっていましたが、この日は「ガネーシュ・チャトゥルティ」というヒンドゥー教のお祭りの真っ只中。収穫のピークから5ヶ月程度経っていることもあり、ターメリックを出品する農家もバイヤーもまばらでした。

閑散としていたかと思えば、APMC(農作物市場委員会)のスタッフがやっきて、ターメリックのオークション開始が伝えられると、周りからゾロゾロと人々が集まってきました。バイヤーはターメリックをカットして断面を見たり香りを嗅ぎながら、クオリティに応じた値段をコールしていきます。

ターメリックのオークションの様子

「ほら、断面がオレンジでしょう。これはクルクミンの含有量が低い証拠で、低価格で取引されるんだ。こっちは中心だけが黄色くて外側にかけて色が暗くなっている。クルクミンはターメリックの中心に多く含まれる傾向があるからね。そんな中でも、特に中心だけが黄色いものもクオリティが低いとされている。」

と、ネイバルさんの取引先のターメリックサプライヤーであるジャイプラカシュさんが、オークションの合間に説明してくれました。彼はインド料理好きなら必ず知っているスパイスブランド、MDHが主要取引先というやり手です。左手には常にスパイス用のカッターを持ち、必ず断面をチェックしています。

クオリティが低いとされるターメリック。断面がオレンジや黒ずんだ色をしていて、香りも弱い
一方でこちらは断面が黄色くクオリティが高いターメリック

さまざまなクオリティや状態のターメリックが取引されている側で、出品しにきた農家の一人、ジャーニキラームさんに、お話を伺うことができました。

「私はバンガアンという、ここナンデードから近い地域でターメリックの生産をしています。今年は水不足で収穫量が減ってしまうでしょうね。農業用のため池を持っている農家は限られているし、対処ができないんです。農薬は土壌と作物を守るために最小限使っていますね。この周辺にもオーガニック農家もいるけれど、全体からすると1%程度でしょう。収穫時期は3月で、全体のうち10%、特に良い状態のターメリックを球根のために残しておきます。6月になったらそれをまた作付けして、次のシーズンのターメリックができるというサイクルです。」

そんな話をしているうちに、周りに人だかりが。特に水不足の話をしている時には、みんな深刻な表情をしていました。生産コストは球根がない場合1エーカー(サッカーグラウンド1つ分)あたり80,000ルピー(15万円弱)、球根がある場合で50,000ルピー(9万円程度)かかるそうです。インドの水準ではかなりの投資額になるので、収穫量が減った時のダメージは大きいかもしれません。また、ターメリック農家は基本的にずっと同じ土地での連作をしているそうで、連作障害による不作については特に言及していませんでした。(これについては、もう少し調べてみたいと思います!)

インタビューに答えてくれたターメリック農家のジャーニキラームさん

忙しいネイバルさんは、その日の夜行列車でムンバイに帰って行きました。もう一日ナンデードに滞在をすることにした私は、ホテルの近くの小さな市場で出会った少年に教えてもらい、ナンデードから車で30分ほどのところにあるターメリックの産地、パスラッドに向かうことに。地元の人に聞きながら、途中まで乗り合いのオートリキシャで向かったものの、途中から乗り換えるように言われ、車通りの少ない脇道でポカンとしていました。そこへターバン姿のシク教徒の親子が車で通りかかり、

「どこに向かうんだい?この先にグルドワラ(シク教徒の寺院)があって、私たちはそこに行くんだけど、近くなら乗せていくよ。」

と言って、私を子どもさんと一緒に助手席に乗せてくれました。せっかくシク教徒の聖地に来たので、グルドワラも見学させてもらいましたが、その建築とゴーダバリー川の景観はあまりに美しく、ため息が出るほどでした。さらにプラサード(参拝者に振舞われるお供物の食事)をいただいていると、脇のキッチンでコリアンダーシードを手作業で選別する女性が。黄金寺院と呼ばれるグルドワラの映画のシーンでもあったので、キッチンで調理をする光景は想像ができるかもしれませんが、ここはさらに何かありそうです。

シク教徒の寺院グルドワラ。ナンデード
グルドワラに連れて行ってくれたシク教徒の皆さん

そこへ寺院のオーナーである「ババ」がやってきて、プラサードの材料の多くが、寺院のコミュニティが運営する農場で生産されているのだと教えてくれました。しかも、コミュニティに所属しているのはシク教徒だけでなく、ヒンドゥー教徒もいるのだとか。寺院の裏の農場を見せてもらうと、裸足で庭を駆け回り、牛や馬に触れ、エサを与えている子どもたちの姿が。「サステナビリティ」という言葉を知らなくとも、体現している人たちが世界にはまだまだいるな、と感じさせられました。

グルドワラの敷地内にある農場

さらにババの計らいで、彼のセキュリティに近くのターメリック農園を案内してもらえることになりました。すると青々とした元気なターメリックが育つ畑がある一方で、黄色く変色した葉っぱが多い畑も。

「葉っぱが黄色く変色しているのは、水不足が原因なんです。近くにパイプラインがあってそこから水を引いているけれど、それすら枯渇していますから。」

と、ババのセキュリティが話してくれました。

「農園に行きたい」と言うと、多くの関係者が「収穫はまだ先だし、今行っても何も見るものは無いよ」と説得してくるのですが、これがまさに「今見るべきもの」だったのです。

その日の夜、予約していた寝台バスでムンバイに戻る道すがら、道路脇にあるターメリックらしき畑を横切るたびに、「ここのターメリックは元気だろうか」と気がかりでした。グルドワラでのサステナブルな暮らしと、葉っぱが黄色く変色してしまったターメリック畑のことを何度も思い返しながら、バスの揺れに身を委ね眠りにつきました。

こちらは状態の良いターメリック畑。葉っぱが青々としています
一方で、葉っぱが黄色く変色してしまったターメリック畑も

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