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探究学習インタビュー #01 -田園調布学園探究係-

インタビューまでの流れ

私立田園調布学園中等部・高等部は、2022年度から「探究」学習を全面導入しました。そのうち、中等部の探究学習は、弊社CURIO SCHOOLのデザイン思考をベースとした探究学習プログラムを導入しています。

今回は、この探究学習を導入、運営されている田園調布学園探究係の入先生・坂本先生・長岡先生に探究授業導入までの経緯や、導入された課題と成果、先生方と探究授業との関わり方などを伺いました。(インタビューアーは、弊社代表西山)

探究係の先生(左:坂本先生 中央:長岡先生 右:入先生)

探究学習導入までの経緯

Q.2022年度から始まった探究授業の導入きっかけや課題感、背景となる議論過程を教えてください。

入先生:「総合的な学習の時間」から「総合的な探究の時間」へ文部科学省の方針が変わっていく中で、坂本先生や長岡先生、その他何名かの先生方と議論をしながら、学校としての対応方法を検討していきました。「そもそも、学校としてどのような探究学習を進めたいか」といった話をしながら、最終的には自然科学・人文社会科学の2類型に探究学習テーマを分割しました。課題解決力とか課題設定力とかいろいろ言われているけど「生徒たちは、そもそもそういった経験していないよね」という話になり、テーマ別にそういった経験ができるプログラムをつくろうと。そのうち、自然科学系については、ある程度教員側でテーマ課題を設定して進められる手応えがありました。それに対して特に社会科学系の課題解決テーマについては、デザイン思考を用いることでよいカリキュラムができるのではないかと考えました。

坂本先生:私自身、2012年くらいからデザイン思考に対して興味がありました。この学校に来て2年目くらいのときに「デザイン思考の経営戦略」という本や工業デザイナーの方々の話を聞いて、面白そうだなと思って。でも、直感的に「デザインする」ことには、一定の御作法や考えるプロセスがあるはずで、発想が豊かだからとか天才的な発想だとか、そういった才能ベースの話ではないと思っていていました。たまたまこういった話をしたときに、校長先生経由でCURIOさんと知り合った、という流れだと思います。

入先生:まず全員で大事にすることを決めてルーブリック化した上で、具体的な探究学習の内容をどうするのか話し合っていきました。探究学習のイメージとしては、やはりスパイラルアップしていくものかと。そう言った意味で、探究学習の中にデザイン思考サイクルを取り入れることがよいのではという話になり、現在の形に落ち着きました。この話は2019年実施に向けて、2018年ごろから動いていました。

入英樹先生(副教頭・教務部長)

Q.土曜プログラムを中心に、探究学習の再編を進めていったということでしょうか?

入先生:土曜プログラムのうち「コアプログラム」と読んでいたものを再編しようという話になりました。その再編時に、高等部の授業に「探究」が導入される動きになりました。

長岡先生:最初は土曜プログラムって、年間通して15回くらい、生徒一人一人が好きな講座を選べるものをやってきました。ただ、単なるカルチャースクールになってしまう課題感があったので、その学年に応じた適切な内容を盛り込むために、半分半分にしたんですね。「マイプログラム」と「コアプログラム」っていうのにして、マイプログラムは従来通りに生徒が好きにカスタマイズする形、一方でコアプログラムは学年別に教員側が生徒に合ったものを設定する形にしました。その後、総合的な探究の時間という話が出てきたタイミングで、このコアプログラムも含めてもう一度見直してみようという話になりました。

坂本先生:コアプログラムを開始したのが2015年でした。マイプログラムだけ行っていたものを、マイプログラムとコアプログラムに分岐させたのが2015年で、コアプログラムを大幅に見直したのは2019年です。

入先生:3年周期で見直していましたね。

(ここで、入先生は公務のため中座)

Q.2019年から2021年の3年間は、どのようなことを進めていましたか?

坂本先生:これは私の主観ですが、生徒たちは「与えられたことはできるけど、自分たちから面白そうなことに飛び込んでいく」ことが苦手な傾向があります。ただ、例えば「この学年は内弁慶で」とか言われることがあるんですけど、でもそうさせてるのはやっぱり我々教員側の問題だと思っています。土曜プログラムで設定したデザイン思考プログラムでは、普段の学校授業と比較して自由に学校外部と繋がりながら学べる場は提供できたかなと思っています。デザイン思考に関する生徒たちの満足度も高いし、教員視点からも面白い場だったと思います。ただ、次の課題としては、そこで終わってしまうことかと。校内でいえば文化祭や体育祭、学校外とすれば何かのプロジェクトや大学受験の総合型選抜入試など、講座で学び取ったデザイン思考を活かして活躍してほしいという願いはありますね。それは、今まさに直面している課題なのですが。

長岡先生:私が見た感覚ですが、他学年のプログラムと比較して、高校1年生のデザイン思考プログラムは充実していると思いました。生徒自身がやりたいことやってる感、オリジナル感が強く感じられました。教員側が与えるものを、ただひたすら生徒がバリバリ解くのではなくて、一応、学習に関する枠はつくるけど、基本的には生徒たちが自分で課題を設定して進めていく。学習成果のプレゼンテーションについても、すごくきちんとしている印象を受けました。ポスター発表形式で行ったんですが、当然一般的な大学生や大学院生が行う発表クオリティには届かないのだけど、それに準ずるようなレベルでした。大学や大学院に進んだ時の学びの準備として、十分形になってるものだと思います。

坂本先生:確かに、土曜プログラムのデザイン思考講座は「知的に楽しい」という場が担保された気がします。他学年の講座と比較してもそうですし、生徒の参加ハードルも低かったと思います。やはり、土曜日に学校にわざわざ来るのは、生徒的に腰が重いので。

長岡先生:ハードル高いんですよ。土曜日って。

坂本先生:基本ネガティブというか、消極的なところからのスタートになってしまうけど、比較的楽しそうに講座を受けていましたね。よく覚えているのは、講座を受けた生徒が「最初の講座紹介だと、もっとカッチリした難しいものだとデザイン思考は思っていたけど、手を動かしながら、とても楽しく学べた」と感想を言ってくれて。そこからも、その意味でも生徒たちにとって、知的満足度は高かったと思います。

Q.その後の展開ですが、2022年度導入から探究学習でのデザイン思考導入へ向けて、どのような議論がなされましたか?

長岡先生:2021年度は1年間、ずーっとずーっと話し合ってきました。入先生がコアプログラムをもう一回再編し、その内容を探究授業時間に振り分けて行く発想をもたれていました。また、先ほど坂本先生が話していたように、これまでの土曜プログラムでの実践が行事や学外活動などの恒常的な取り組みに繋がっていないところを、課題感としてもっていました。探究授業を再編することによって、授業から始まって授業外へ染み渡ることができるようにしようと考えました。そのためには、全体としてどのような授業を実施して行事につなげるのかという、学校全体の教育指導観としてのルーブリックが必要だからと、それを担当教員で検討し続けました。

坂本先生:2021年度の前半は、ほぼその言葉づくりに時間をかけました。そもそも学校の探究学習として「何を大事にするか」というレベルを考えました。どのようなコンテンツをつくるかという前に、やはりイズムと言うか、「我々にとって探究学習」を考える時間をとりました。めっちゃ時間かかっちゃったね。

長岡先生:めっちゃ時間かかった。

坂本先生:ただ、迷ったときの決め方というか、コンテンツ1つにとっても誰にお願いするのか、どのようなコンテンツを採用するのか、その決め方を決めるという感じですね。私は、課題を解決することは、自分を知ることにつながり、そして他者理解へ発展することだと考えています。一方で、課題設定や問題提起も大事にしたい思いがありました。その課題解決と課題設定の両者を大切にして育みたいと考えていました。ただ、デザイン思考プロセスにある、何か困ってることを、手を動かしながらいろいろ作り、考えて試してまた改善していくっていう営みは、ある種普遍的だと思っています。それは中等部の生徒にこそ、学んでもらいたいことだと考えました。うちの生徒に限らないとは思いますが、中学受験を経験して、なんとなく「与えられた答えからはみ出さない」という殻は破って欲しい。中等部のうちにデザイン思考を学んでおけば、高校生になったらもっと尖っていくだろうな、とおもいました。

長岡先生:高校1年生だと、ちょっと遅いかなっていう感覚がありましたよね。6年一貫教育だから、中等部でデザイン思考を学ぶことで、自分の学習に活かしやすいのではないかと考えました。

西山:高校一年生だとちょっと遅いかも、という感覚になったのは、どういうことなのでしょうか?

坂本先生:高校1年生のコアプログラムを進めていく中で、僕の中ではもっと早く受講してもいいなと思える様になったんですよね。仮に中等部のうちにデザイン思考を知ることができれば、大学受験まで時間が限られている高校1年生よりも学校内や社会で実装できるチャンスが多くなるし、もっと拡大して中等部3年間でデザイン思考をじっくり進めてそれに慣れてもいいのではないかと。

長岡先生:高校1年生から始めるのだと、ちょっと期間が短いんですよね。

坂本先生:高校3年生になるともう大学受験、進路選択になってしまうので。別に、受験勉強でデザイン思考を使うか使わないかという話ではなく、学んだデザイン思考を実際に使っていくチャンスに恵まれないことが課題かと思います。

西山:能力ではなく、試せる期間の問題として、中学生のうちがいいだろうということでしょうか。

坂本先生:そうです。僕はデザイン思考講座の紹介でよく話すのですが、学校内で企画を進めるときって、生徒であっても教員であっても、ものすごくしっかり作り込んでからではないと、なかなか先に進めないというか、話を来てもらえない、話を通してもらえないことが多いと思います。教員からのフィードバックには、重箱の隅つつくようなものが多く「表現が違う」「漢字が間違ってる」「うちの学校っぽくない」とかいうマウント取りが多い気がします。「だからお前の企画はダメだー!出直してこいー!」みたいな。提案者としては中身の話をしたいのに。そうではなく、単に面白そうだと思ったら応援する流れになるといいなと。例えば「AをA'に変えたらもっとうまくいくかも?」や「それってやってみないと分からないからやってみよう」という声掛けで、まずはやれる範囲でちょっと試してみようという意識づけを、教員も生徒ももてればいいかなと思います。そういったマインドを、できれば中等部の時から意識づけていけば、きっと教員も変わっていく気がしています。生徒から変わることができれば、職員室内でも「あーだこーだ言ってないで、ちょってやってみよう。うまくいかなかったら直せばいいじゃない。安全面だけ気をつけて。」という組織のマインド改革ができるのではないかと思っています。

長岡先生:ほんと、おっしゃる通りです。

西山:この取り組みは、生徒だけではなく、教員も一緒に行うべきということですね。生徒が変わって、教員も変わる。どちらが先という話ではないかもしれませんが。

坂本先生:そうなんですよ。やりながらだなと思うんですけど。

坂本登先生(教務部探究係)

探究学習導入後の課題と成果

Q.2022年度に探究学習を導入をしてみて感じる課題感はありますか?

坂本先生:他の先生方の巻き込みですね。学校における古くて新しい問題ですね。まだ先生方としては土曜プログラムの延長線上で考えている気がしていて、外部講師の方を招いて教員はアテンドしたり、生徒との間に入ったりという仕事のまま、教員の立ち位置も変わっていない状態だと思います。でも、先生方の日常業務はやっぱり忙しく、そこまで手が回らない状況であるのは、そうなのだろうなと。しかし、ずっと5年も10年も探究学習を外部講師頼みのスタイルでやるわけにはいかないわけで…ということは、主任の長岡先生が都度都度言ってくれているんですけど、まだ実感がないっていうか。 

長岡先生:私もそうなんですけど、まだまだ「探究学習における教員の関わり方」については腑に落ちてないんですよね。これは教員全体、中等部だけではなく高等部もそうだと思います。教員視点からすれば「結局、この学習は何なのか?」「私たち教員は、一体何をすればいいんだろうか?」「生徒はこれをやってどう変わるんだろうか?」ということが体感しきれていない。まぁ、まだ1学期しかやっていないので、これらのことについては、今後明らかになっていくのでしょうけど、まだまだ「この学習は何に向かって進んでいるのかよくわかっていない」っていうことが、教員全体で共有されている感じですね。

坂本先生:確かに、そうかもしれません。学校の勉強だと、例えば模試の結果一つにしても答えや成果ははっきりわかるので、そう意味では学習行為に対する効果が可視化されやすい。特に教員視点からすれば、今までこういった効果を可視化されづらいことをあまりやってきていないから、非常にわかりづらいかと思います。「これって意味あるの問題」になりがちかと。

長岡先生:そうそう。

坂本先生:探究学習の授業を見た教員から出がちな「この時間意味あるの問題」の一つとして、チームワークでプロジェクトを進めている時、教員から見るとおしゃべりにしか見えないことがあります。それはチームで対話を継続して議論を重ねている一つのプロセスなのだけど、教員からしたら「これをコンパクトにして次のことに割いた方が効率よくない?」という問いが出がちになる気がしています。あとは、デザイン思考の中身を理解した教員がファシリテーションを行うことに関しては、デザイン思考の知識を生徒に伝えること以上に「どのような姿勢で生徒と向き合っていくか」が問われると思います。これから探究学習を担当して生徒のプロジェクトをファシリテーションする教員たちが、そういったところに意識を向けられるかが、次の課題かと思います。

長岡先生:あとは、教員自身も何かの達成感が必要だとは思います。例えば「ファシリテーションうまくいったぜ」や「生徒のプロジェクトを進めることができたぜ」みたいな感じのものが。それがないと、なんかこう、モチベーションが上がらないんだろうなぁ、とは感じます。

西山:確かに、目に見えた成果がほしいですね。

長岡先生:これはとても矛盾した考え方でして、そもそも教員の仕事が教育である以上、目的は「生徒の人格の完成」を支援することですよね。そうである以上、それが目に見える形になるのは何年後かわからないじゃないですか。1年後である可能性はむしろ低くて、5年後、10年後、もしかすると20年後先の可能性もあるわけですよね。

坂本先生:それは、教員みんなも頭ではわかっているんだよね。

長岡先生:頭ではわかっているはずですが、でも目先にどうしても「大学受験」という関門がありまして…。中学高校の教員である以上、多かれ少なかれ大学受験や偏差値は意識せざるを得ないと思うんですよ。

坂本先生:学校の先生は、現行の教育システムに、あまりはみ出さずに進んできた人たちが多い傾向はあるかもですね。私の主観ですが。

長岡先生:何度も言いますけど、自分たち教員が生徒に教えたことがどのような場面で役に立つのか、いつ花開くのかはわからない。もしかしたら20代かもしれないし、40代か50代かもしれない。そういったことは頭ではわかっていますが、常に迫り来る目先の結果にどうしたら結びつけられるのか、それを軸にして日常の指導や生活を進めてしまいがちだと思います。だから、この探究学習やデザイン思考というものに対して「一体、これを行って意味があるのだろうか」と疑念を抱いてしまう感覚があります。

西山:すごい矛盾ですね。

長岡先生:めっちゃ矛盾ですよ。けど、この前、現在26歳前後の卒業生が学校に遊びに来た時に、この探究学習やデザイン思考を中等部で開始したことを彼女たちに話したら「私たちも、それが本当は在学中にやりたかった!」って言ったんです。現在、社会人中堅になりつつある彼女たちは、一般的な教科学習を真面目に進め、大学受験もなんとか乗り切り、就職活動して現在の職業についています。今の職場では、意外と多く回答が定まってない、そもそも問いや答えがわからないテーマが与えられるらしいです。例えば最近で言うと「AIにどの業務をどのように託せば、仕事のクオリティが上がるのか考えて」という課題があると。当然、上司もわからないらしいんですね。そういったテーマが出された時に、彼女たちは「すごく楽しい」と思うそうです。すごく楽しいと同時に、そういう未知のテーマ課題に対する自分の免疫というか思考力が備わってないことを、日々とても痛感するそうです。だから、この探究学習やツールであるデザイン思考について話が進んだときに、彼女たちからは「必要なのはそれですよ!」みたいに言われました。私は、なるほどなぁと思ってしまって…。まさに大学受験の「その先」ですよね。このエピソードは、すごく考えさせられたというか…だから、現状の学生たちは何も武器が無い状態で社会に出るんですよね。

西山:確かに、現場に入って初めて学ぶことが多い状況ではありますね。

Q.2022年度から探究学習をスタートさせましたが、この1学期間の成果はどのようなものでしょうか?

坂本先生:中等部3年生の探究学習「学校内における困りごと解決デザインプロジェクト」の延長戦に一定の参加者が出てきてくれてことが、一つ大きな成果だと思います。

これは私の感覚ですが「薄皮を剥ぐよう」に探究学習の時間は、今までタブーとされていたような自身の内面や困りごとについて、自由に話していいんだという時間になりつつある気がしています。これが進むことで、教員と生徒との間で、もっと自由にNGワード無しで本質的な話ができる雰囲気になる気がしています。今までのように「先生に気を遣って、これは言っちゃダメだよね」ということを無くし、「私たちはこう考えますが、先生はこれについてどう思いますか?」ということが少しずつ言えるようになってきているというか、その壁が薄く低くなっている気がするかなと思います。

西山:以前は、そのような教員と生徒が自由に議論できる雰囲気ではなかったんですか?

坂本先生:僕個人の感覚としては、全然なかったと思いますね、やっぱり、教員も生徒も正解を求めてしまいます。うちの学校の生徒は、基本いい子であるというというか、普通にしていれば優等生と言われる子たちだと思います。だから大人の顔を見て「これはちょっとまずいよね」ということをあえて提案してきませんし、その空気を読む力は強い人たちだなと感じています。

長岡先生:これからじわりじわりと、生徒たちの変化が目で見てわかるものとして出てくると、多くの先生たちに対しても説得力が増すし、達成感もお互い得られるのではと思います。

坂本先生:総合型選抜入試も増えているしね。いわゆる、一般入試じゃ無いスタイル。

西山:今の中2、中3の子たちは総合型選抜入試を受ける子が多くなりそうですね。ただ、しかしそこで活かすレベルになるためには、自身の探究を開始してから2、3年の蓄積が必要ですね。

坂本先生:そうですね。試行錯誤しつつ、本当に自分が面白いと思ったものを見つける作業が必要だと思いますね。

長岡先生:現実的な観点から話すと、大学受験に総合選抜型入試で挑もうとした場合、高校3年間での活動履歴が問われます。だから、中学生のうちにデザイン思考を学んだ上で、高校生になってから自主的に活用すればよいかと思います。どちらにせよ、時間はかかりますね。

西山:ある意味、中等部では基礎体力を積んでいる段階ですよね。

長岡先生:そうですね。今はトレーニングを積んでいる段階ですね。それをどのように生かすかが、問われてきますね。

Q.中等部と高等部での探究学習は、どのように接続が図られていますか?

長岡先生:中等部の探究学習が自分の身の回りの社会環境に対するアプローチ方法を学ぶことであるのに対して、高等部の探究学習は中等部で学んだ方法をベースに自分ごとのテーマを深めていく段階にあたります。視点を自身の内面に向けつつ、自分はどのようなことが好きなのか、どのようなことが得意なのか、といった風に深掘りしつつ自身でしかできないテーマを見つけていきます。卒業後の進路選択にも活かすことができる探究学習にしています。今年度の高等部探究学習では、まず「自分はこのようなことに没頭します」という企画書を1学期かけて作成して発表します。そして2学期以降は、本当に生徒一人ひとりがバラバラに動いていく予定です。ただ、今年度の高等部1、2年生は、デザイン思考を全く学んでいない人たちなので、正直、どのようなプロジェクトになっていくのか不安はあります。だからこそ、現在中等部の探究学習で行っているデザイン思考をしっかり学んだ生徒たちが高等部の探究学習へ移行できれば、一人ひとりのプロジェクトプロセスの中で自然にスキルを使う子たちが出てきるのではないかと期待しています。高等部の探究学習では、ある一定の明確な手法を提示しないので、生徒一人ひとりがまさに手探りな感じで進めていく状態です。だからなおさら、デザイン思考が探究学習プロセスを進めていく、一つの「型」としてハマっているのであれば、おそらく生徒は自然に活かして行動するのではないかと思います。

西山:デザイン思考が中等部3年間で身についているのであれば、自然と使っていくのではないかと思いますね。

長岡敬佑先生(教務部探究係主任)

先生方と探究学習との関わり

Q.先生方の立場から見た時に、どのような状態になれば「探究学習を進めた達成感」が感じられますか?

長岡先生:とても瑣末なことですが「授業中に寝る子が、寝なくなった」とか(笑)もちろん、教員自身の指導能力の問題である可能性は高いですが。なんでしょう…生徒の雰囲気というか、どのような状態でも主体的に動く生徒が増えるというか、学校全体での行動変容が認識されたときでしょうか。それはもちろん、探究学習の時間に限った話ではなく、一般教科の授業であったり、行事であったり、ホームルーム活動であったり。一般的に教員は、生徒一人ひとりの行動変化には敏感だと思います。先生方との話の中で「あの子、最近変わったよねー」という話がよく出るんです。そういう話題がこの探究学習を境にして、どんどん増えれば嬉しいですね。もちろん、数値化はして把握することは難しいと思います。ただ、数値化すべきものとは思いませんが。

坂本先生:やはり僕は、文化祭である「なでしこ祭」の中身が少しずつ変化していくことを期待したいです。出し物を考えていく中で「ターゲットを決めて、インサイトちゃんと考えて…来場者は何が目的で、何がしたくて学校に遊びに来るんだろうか…?」という検討が自然にかつ真剣にできる雰囲気が最高だなと。別に、デザイン思考という言葉を使わなくても、そのような議論を生徒たちが自発的に行っている様子が、例えばホームルーム活動で見られるようになれば、担任の先生たちの雰囲気も少しずつ変わっていくと思います。あとは、先生たち自身がそういう体験ができる場が必要だろうと思っていて。 

長岡先生:先生方がデザイン思考を学ぶということ?

坂本先生:そうそう。夏の職員研修もそれが目的の一つなんだけどね。やはり、教員が面白がっていることには、自然と生徒もついてきますし。探究学習は教員が生徒に命じて無理やりやらせるものでは絶対になく、歯車の大小みたいなのが噛み合って自然に進んでいく話だと思うので。

長岡先生:1学期CURIOさんが授業されるのを見て感じたことですが、デザイン思考って、ある意味で当たり前の営みですよね。

西山:そうです。すごい斬新な理論とかでは無いです。

長岡先生:CURIOスタッフの方々が、毎回毎回、興味深いテーマと綺麗なスライドで授業を展開されるので、生徒たちはとても新しいこと体験してると感じているかもしれないし、もしかすると先生方もそう考えているかもしれません。ただ、冷静になってデザイン思考プロセスをよく掘り下げて検討していくと、このプロセス自体は普段から知らず知らずのうちに、自然と自分たちが当たり前のように行っていることですよね。先ほどの文化祭の話でも、どのような展示をするのか、どのような発表しようかと考えた時に、そもそも「どのようなことを行ったらお客さんは喜んでくれるのか」という、デザイン思考で言うところのインサイトに関わる話を、一応自然には考えていますよね。だから、わざわざ「デザイン思考」といってプロセスを学び、自分たちのプロジェクトを可視化、言語化して検討することは、プロジェクトのクオリティを上げていく営みだと思います。だからそういう意味では、今までと比較して、何か劇的に手法が変わるわけではないかと。ただ、プロジェクトプロセスのクオリティに意識的になって、それが底上げされればよいなと思います。例えば、教員の仕事の根幹である「教材づくり」だとか、まさにデザイン思考プロジェクトでしかないというか、日々「どのような教材が生徒にとって使いやすいのか」や「どのような方法であれば、生徒の学力をうまく引き上げられるのか」と、そのような事ばかり考えてるはずですから。だからこそ、なんとか日々の実践とデザイン思考の話を結びつけてほしいです。

坂本先生:自分たちの普段の行動と、デザイン思考の考え方を結びつけてほしいよね。

長岡先生:そうそう。

坂本先生:今現在であっても、教員であれ生徒であれ、デザイン思考的な考え方を全く行っていないのではなく、ただし「問題解決の営みを全体的なプロセスとして把握できていますか?」と「問題解決の営みの回転速度を上げられていますか?」といういうことだとは思います。

長岡先生:そうそう。教員視点からしても、デザイン思考を学んで実践することは、結局、自分の教科指導に寄与するものだと思います。この点については、まだまだ理解されていな方が多い気がしますね。 

西山:デザイン思考って、名前は大袈裟ですけど、目の前の人の困りごとを見つけて解決のために形あるものをつくって試していく、当たり前のことを言っているだけです。だからみなさん何かのことはやっているはずです。だけど、それをプロセスとして認識しているかどうかであると思います。

Q.探究係以外の先生方でも、このような探究学習の取り組みに興味は持っている方はいるのでしょうか?

長岡先生:夏季休業中にデザイン思考とファシリテーションに関する教員研修を行うのですが、そこに参加される予定の先生は、まだ一切探究学習に触れたことがないような先生がいますね。

坂本先生:参加される先生には、中等部の探究授業に直接関わっていない教員もいます。

長岡先生:比較的、若手の先生が多いですね。

坂本先生:今の社会は「みんなにとっていい」ものを生み出すことの重要性より、まずは「半径5m以内にいる誰かを幸せにする」行動の方が大切だと思います。現代社会では、多くのモノがもう溢れ過ぎていて、物質的には大体解決されてしまっている。でもその先にある「自分にとってこれはいいものなのだろうか」を考えるデザイン思考のアプローチを、僕は気にっています。「ターゲットにピタッと当てる」という。そうすると、似たような困りごとを抱えている人は意外と多いし、特定の1人のために生み出したものを、少しだけアレンジするだけで、少しずつ裾野は広がっていくはずで。これは私の体感値ですが、なんとなく若手教員の方が、この「N=1を大切にしたい」という感じをもってる気がします。我々くらいから上の世代になってしまうと、この「選択肢が溢れていて多様なものに対応しなければいけない社会の辛さ」というものを経験していない気がしています。

長岡先生:私自身の体感としては、学校の半分くらいの先生が、この取り組みに興味をもってくれている気がします。

西山:組織の多くが変化に前向きであることであれば、未来は明るいですね。

坂本先生:積極的に新しいことを行おう、変化を受けれて自身も変化していこうという意気込みは、とても大切にしていきたいです。

今後の展開

Q.田園調布学園の探究係として、今後どのようなプランをお考えですか。

長岡先生:まずはデザイン思考のよさを生徒に理解してもらいつつ、普段の学校生活で自発的に使いやすいような環境整備を進めていきます。並行して、自分も含めてより多くの教員がデザイン思考とそのプロジェクトをファシリテーションできるスキルを身につけていきます。ただ、教員側のスキル向上を一気に行うことは難しいと思っています。ですので「デザイン思考を学んでみたい」「ファシリテーション技術を身につけたい」という、教員集団を先導してくれるような先生たち数名が、まず進めていけるようにすることが現実的だと思っています。先導する先生たちが、その他の先生たちとコミュニケーション取りつつ、探究学習やデザイン思考、ファシリテーションなどへの理解が浸透していけばいいかなと。その先で「生徒たちが少しずつ、でも確かに変わってきたね」みたいな日常的会話のやりとりが、先生たち同士で行われるようになるのが、私の目標です。今年の1年間は準備期間という位置づけで、改めて来年から、教員主導でうまく進めていければ良いかなと思っています。

坂本先生:やる気がある教員であれば、いつでも探究学習を学習したり参加したりできるという、敷居は低くしておきたいです。ただ、話で出ているとおり全ての教員が探究学習の指導をマスターすることは難しいと思うので「エバンジェリスト」みたいな教員が何人かがいて、彼らが探究学習に関する情報や実践を拡散していく形が理想系だと思います。探究係として、そういった先生たちが自由に活動できる「権利」や「権限」を保障できたらと思います。私個人の感覚では、デザイン思考の考え方を使うことで人生は豊かになるし、地球上全ての人を対象にするのは難しいですが、自身の周囲の人たちも幸せにできると思っています。「まず一回それ試してみよう」とか「それがうまくいかなかったらすぐ直してみようよ」とかいう声が、少しずつ生徒から聞こえてきたら嬉しいです。今、私の中での一番の目標は文化祭のレベルが上がることですが、普段の学校生活、友達との関わり方、掃除の時間、それぞれの機会を活かしながら少しずつ根付いていけばいいですね。同じ話の繰り返しになりますが、まず少数の教員から巻き込んでいき行動変容が起きれば、生徒もきっと乗ってくるだろうし、それで生徒がまた乗ってくれば、じゃあ自分たちも負けてられないな…と、ぐるぐるとした高めあいのサイクルができればよいなと思います。

長岡先生:教員が教員を変容させるのではなく、多分、生徒に教員を変容させてもらうことには、なりそうですね。

坂本先生と長岡先生

(インタビュー・文章:西山・大門)

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