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好かれること『2023.10.11』
気が付いたら、日付が変わっていた。
日付が変わる前と変わった後では、世界が違っていた。
日付が変わる前。
同期は私のことを心配してくれていた。
急に辞めたこと、辞めた理由、今何をしているか。
他人行儀だが、思い付く心配事はたくさんあっただろう。
だがそんなことより、同期が皆虚ろな目をして話を続けていて、むしろ心配されるべきなのは同期なのではないかと思った。
異動や退職で一気に人がいなくなって、社員が受け持つ仕事が増えていること。
私がいた時よりもずっと走り回っていること。
直属の上司が相談しにくい人に変わったこと。
そして、
私がいないことで愚痴を零す人がいなくなったこと。
私の同期は毎日あるハードルを何とかして乗り越えている状態だった。
私は入社前から脚本家になりたくて、脚本や創作の優先順位を何よりも高くしていた。
仕事に集中することが無く、同期の誰よりも仕事が出来ない。教えられることや責任を上手く避けていた。
でも現実は甘くない。
どんどん課せられる課題を乗り越えないと、私が仕事をしないことがバレてしまう。
だから私は、好かれることにした。
しっかり話を聞いて、間違える前に確認して、注意されたら謝って、ちょこまか雑用をこなす。
当たり前の事ではあったが、私は仕事が一人前に出来ない(やりたくない)分、一生懸命さとユーモアだけで乗り切ろうとしていたのだ。
今思えば相当ヤバい奴だ。
それでも半年間で積み上げたヤバさは、良い方向へと向かった。
他の人が怒られるミスを、私がやっても怒られない。
部署や担当を牛耳る人間に気に入られる。
社会人として働いて半年。
少なくとも私の周りは、「ずるいやつが効率良く生きられる」と気付いた。
これに気付けたのは、社会人になって働いたおかげだ。
こうして終始ふざけ倒していた私は、愚痴を一切言わない同期が弱音を吐けるまで話しかけ続けた。
「あんたいないと誰に愚痴言えばいいの」
私が異動する前日。
同期は、私にとっての最高の褒め言葉をくれた。
仕事の話なんて誰でもいつでも出来る。
でも愚痴や相談や、確実な私語は、信頼されているから。
だから大好きな同期には笑っていて欲しい。
眠たいね、今日も早く帰ろうぜと言っていたあの日みたいに。
助けてと言われる前に、彼女の心の扉をこじ開けに行こうと思う。
日付が変わった後。
記憶が無い。記憶はあるが、あっという間過ぎて、どうして長時間ここにいるのか分からなかった。
酔って街中を歩き回るのがさぞ楽しかったんだろう。でもその記憶も途切れ途切れ。
知らないうちにカラスやスズメが鳴く時間に変わっていた。
朝。明るい。
夜勤が多く夜中に帰る生活をしていた為か、朝の光は私が浴びるにしては多過ぎる。
バスの中で揺れる私とアルバイト情報雑誌。
あー、なんの時間だったんだこれ。
意味無かったな。
そう思ってしまえば後は早くて、写真アルバムやメッセージ履歴を消した。
日付が変わる時に一緒にいる人は、大切な人の方が良いんだと思う。
嫌いじゃない。
嫌いじゃないけど、もう会わないんだろうな。
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