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バンクーバーから学ぶ寛容な社会とは?

男性が「僕の ”夫” は〇〇で…」と言ったり、女性が「私の ”ガールフレンド” が…」と切り出す会話がごく日常的に交わされる街、バンクーバー。何を隠そう、この地はカナダ西部でLGBT(性的少数者)の人口が最も多く、マイノリティの人々が住みやすい街として世界的に評価されている。

カナダは国自体が難民や移民にも寛大なことから、世界中から移住者が集まるのだが、なかでもバンクーバーは「自分がアウトサイダー」だということを感じにくい場所である。カナダで生まれ育ったカナディアンはもちろん、何十年も前に他国から移住しカナダ国籍を取得した者、最近になってカナダ永住を目指し移住してきた者など、多人種かつ多種多様なバックグラウンドを抱えた人々が共に暮らしているのだ。

様々な価値観がせめぎ合う日常の中で、もはやすべての物事に寛大でないと生きては暮らせない。いわばサバイバル的に人々に身についた「他人を排斥せず認める」能力というのは外から来た者からすれば神々しく見えたりもする。ここでバンクーバーの人々の親切さに触れた筆者の実体験をご紹介させていただきたい。

誰でも参加OK!「ESL Cafe」との出会い

バンクーバー滞在中、ある日本人の友人から地域のコミュニティの存在を教えてもらった。それは 「St. Paul's Anglican Church」というキリスト教会が開いている「ESL Cafe」だった。この教会はバンクーバーの中心部ダウンタウンに位置しており、辺りは閑静な住宅街が広がる。キリスト教なので毎週日曜日に礼拝があったり、クリスマスなど宗教行事を祝うイベントあるのはもちろんだが、それだけではない地域住民に向けた様々な催しが開かれている。

St. Paul's Anglican Church のHPよりイベントのお知らせ

「ESL Cafe」もその催しの一つで、英語を学ぶ機会を無料で提供してくれるというものだ。キリスト教徒である必要は一切なく誰でも参加可能だ。ただ、学ぶといっても講師がいたり、学校のようにクラスがあるわけではない。”Cafe” という名前が付いているように、英語学習者だけでなく、近所に住むリタイアした英語ネイティブのお年寄りなども集まり、世間話を楽しむ場なのである。ただ単に顔見知りになった人々とお茶を飲みながらお話をするだけ。初めて訪れた人にもみんなウェルカムで、気さくに話かけてくれるので、気まずい思いをすることもない。和気あいあいとした雰囲気で平和な世界だ。

クリスマス礼拝時の教会の様子。キリスト教徒ではない筆者も暖かく出迎えられた

地域のコミュニティに参加する利点

”Cafe” と銘打っているだけあり、英語ネイティブも会話を楽しみたくて教会にくる。彼らが学校のように文法や単語の間違いを指摘することはない。それじゃあ勉強にならないじゃないか、と思われるだろうか?しかし「英語で雑談」をすることが英語初心者にとってどれだけ難しいことか、学校や英会話教室で学んだことがある方は分かるのではないだろうか?教室で知識をどれだけ詰め込んでも、いざネイティブと会話をしようとなると言葉が出てこないーーこれは特に ”日本式海外留学” でも陥りやすい落とし穴だ。

海外留学を販売する旅行代理店はまず客に「じゃあ学校はどこにしますか?」と語学学校を勧める。あたかも当然のように、英語力をつけたいならまずは学校に行かないと始まりませんよと言ってくるが、それは代理店が学校から紹介のお礼として莫大な金額の仲介料をもらうためである。そもそも旅行会社のビジネスとはそういったコミッション(手数料)がなければ成立しないのだが、それでも留学の学校紹介料は特に高額だと元旅行会社勤務の筆者も驚いたほどだ。

ぜひ学校を選ぶ際には旅行業者の言うがままになるのではなく、自分でも情報収集をして本当にためになる学校を選んでいただきたい。

話がそれてしまったが、その教会の「ESL Cafe」は学校の授業のように間違いを指摘されることはないとはいえ、教会にやってくるお年寄りはみんな親切なので、難しい単語に首をかしげていたら「こういう意味で…」と嫌な顔を一切せず丁寧に説明をしてくれる。また、私たち非ネイティブが話についていけているか、話の途中で確認してくれたり、聞き取りやすいように普段よりもスピードを落としてはっきりと発音してくれる人もいる。移民の多いバンクーバーでは人々の英語のレベルも様々なので、わかりやすく話すということが染み付いていることが大きいだろう。

よそからやってきた外国人にとって、ローカルなコミュニティに受け入れてもらえただけでも有難いのに、おまけにとんでもなく親切にされたとなると、筆者は思わず涙がこみ上げてきそうになるくらいだった。

外からきた者にも親切な理由


しかし、なぜ彼らはここまで優しいのか?その理由の一つに、この教会があるのはバンクーバーで最もLGBTの人々が住んでいるウエスト・エンドというエリアのため、他の場所よりいっそう多様性への理解が深い人々が多いことが考えられる。教会周辺を歩いていると、同性同士で手をつないでいるカップルや、ドラァグクイーンのような奇抜なファッションの人を見かけたりもする。とにかくフリーダム!他人の自由を禁ずるものは、この地では生きていく資格もないのだ。ここが、できるだけ個性を出さず周りと馴染む方が良いとされてきた日本の文化との大きな違いだろう。

LGBT文化をたたえる「プライドパレード」の日には教会前で無料でドリンクを配布した


教会では、どんな人種でも、たとえ英語が話せなくても、シャイでもコミュニケーションが下手でも、何人たりとも拒否しない。LGBTの人々がお祈りしたり礼拝に来ることを未だに禁じているキリスト教会もあるそうだが、ここはキリスト教が説く”寛容性” をまさに体現した教会である。例えば、カナダでは同性婚が認められているので、教会の信者であるゲイのカップルが結婚をした時には、日曜礼拝のあとにみんなでケーキを食べてお祝いしたこともあった。

分け隔てなく人々を気にかける牧師の存在

「ESL Cafe」が外から来た者にも居心地が良いものである一番の要因は、なんといっても、この取り組みの主催者である牧師さんの人柄あってのものだ。スペイン出身の彼は日本にも住んでいたことがあったり、世界各国を転々としていたようだが、バンクーバーに定住しこの教会で勤務している。
いつもニコニコしていて親しみやすい雰囲気で、必ず参加者一人一人に声をかける。内容は分からないが深刻な表情で誰かの相談にのっていた時もあった。また、独り身のお年寄りに対しては「調子はどうか」などと気遣ったり、ESL Cafeや礼拝に顔を見せないときには、心配して電話やメールなどで連絡を取ったりすることもあるようだった。聖職に就く者であれば当たり前かもしれないが、まさに人徳者という言葉がふさわしい人だ。

そんな牧師さんの行動が影響しているのか、教会の信者やESL Cafeの参加者同士でも「○○さんはコロナにかかったみたいでしばらく教会に来れそうにないよ」とか「彼女は海外旅行に行ってるみたいだよ」といった情報交換をしているのもよく見かけた。バンクーバーの一番の繁華街エリア、つまり都市部に位置する教会にも関わらず、地域のコミュニティの絆が強固であることに筆者は驚いた。日本の、特に都会ではこういった横のつながりがほとんどゼロに等しいと思う。自分が年を取って、独り身になってしまった時のことを考えてほしい。この教会のような心地良い居場所があれば、孤独感を感じることもないだろう。

さらに、St. Paul's Anglican Church と同じ系列の教会では、日曜礼拝のあと参列者に無料で軽食が振舞われた。顔見知りと談笑する人々の様子がほほえましかった。普段は一人で暮らしていても、ここに来れば誰かと会話を楽しむことができる。地域住民には心強い存在だ。日本においても、このような地域のコミュニティが一般的になってほしいものだ。

北米らしくコーヒーとパンケーキ、ソーセージの組み合わせ

まとめ:日本が学ぶべきところ

バンクーバーではすべての人々が平等に扱われるが、日本はもともと島国で、鎖国体制が長かったこともありよそ者にとても厳しい。技能実習生としてベトナムやインドネシアといった東南アジアの国々から日本の人手不足を補うため若者たちが移民としてやってくるのはよく知られた話だが、彼らがいつまでたっても”外国人”として扱われてしまう現実はいっこうに変わらない。差別の結果、いじめや暴行の被害まで出ているという(以下参考記事)。

また、過ちに対しても厳しすぎると思う。一度、重大なミスを起こせば周りから遁世しろと言われんばかりの同調圧力がかかる。自分がマイノリティになったり、過ちを犯したときに迫害されたらどんな気持ちになるか、他人の気持ちを察することができる日本人なら考えられるはずだ。もっと他人に寛容な社会になってほしいものだと切に願う。

St. Paul's Anglican Churchへのアクセス

バンクーバー ダウンタウンのBurrard駅から歩いて15分。虹色の横断歩道があることで有名なDavie Streetから一本入った通りに位置しています。
毎週金曜17:00からESL Cafeが開かれています。ぜひバンクーバーにお住まいの方は訪れてみてはいかがでしょうか?お休みの週もあるのでスケジュールは下記のホームページでご確認ください。


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