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夏の声が届けてくれたもの

夏も半ばを過ぎ、夕方前には少し涼しくなる時期になってきた。

「ねぇ、公園のカフェに行こうよ。夕方前から涼しくなってくるし、暑さも大丈夫でしょ?」

そんな時に友人からの誘いがあり、自然公園の中にあるカフェにお茶しに行くことになった。公園北口にあるベンチが私たちのいつもの待ち合わせの場所だ。

久々のカフェで、しかも、珍しく向こうからの誘いだったのでいつもよりワクワクしている私がいる。

自然公園は木陰が多くて風も通るから涼しく、葉が揺れる音、蝉や鳥の鳴き声が聞こえてくるのが心地良く、癒やされる。

待ち合わせ場所には早めに私が着き、程なくして彼女も到着した。

カフェまで続く遊歩道の周りには樹木や草花が植えられており、都会にあるとは思えないほど自然を感じることができる場所だ。

2人でお喋りしながら遊歩道を歩くのはとても楽しい時間だ。彼女は音楽やラジオが好きで、会話をしているときでもイヤホンを付けているちょっと変わった子。低い音量でも何かしら『音』を聞いていたいらしい。傍から見れば常識のない人と思われるだろうけど、彼女のそんな個性を嫌だと思ったことはなかった。

「イヤホン、外したら?」

楽しい時間が流れる中、私は躊躇わずに言った。

「ごめん。会話できるように低い音量にしてたんだけど、気に障った?」

彼女が慌ててイヤホンをとる。

いつもは何も言わないし、気にしてないって言ってくれてたけど、どうしたんだろう。やっぱり嫌だったのかな。

「これからはイヤホン外すようにするよ。ごめん……。」

悄気ているのか力無げな言葉か返ってくる。

「え?……あっ!違う違う。勘違いさせちゃったね。」

私は笑いながら謝った。彼女はきょとんとした顔でこっちを見ている。

「せっかく、夏の声が聞こえるのにイヤホンつけてるのは勿体無いかなと思って。」

「夏の声?」

「蝉の鳴き声や風で木が揺れる音とかだよ。夕焼けの空も綺麗だし、夏の時期だけだよ。たまには自然の音に耳を傾けるのも楽しいよ。」

自然の『音』か――。言われるまで、考えも思いつきもしなかった。

思わず足を止め、空を見上げる。

木々の間から綺麗な夕焼けの空が見え、目を閉じ、耳を澄ますと色んな音が聞こえてくる。

――夏の声か。今までイヤホンをつけていたから全然気付けなかったけど、夏を感じる心地良い音が聞こえる――。

「自然の音を感じるのも良いね。全然気付かなかった。」

「でしょ?じゃあ、今度、自然に癒やされにキャンプでも一緒に行く?何回も行ってるから任せてよ。」

「キャンプかぁ。楽しそうかも。今度、誘ってよ。約束ね。」

緩やかに曲がる道を過ぎればカフェはすぐそこだ。カフェの側には水遊び場や小さな池のある広場があり、週末になると家族連れなどの多くの人で賑わっている。レジャースポットとしても人気のある場所だ。

――ちょっとした事に気付くだけで感じ方が全然違うんだな。きっと季節によっても違うんだろうな――。

小さなきっかけや気付きで、大きく視野が広がったり見方や価値観が変わったりすることがある。そして、時には人生を変えることも。

今日は彼女にとって新たな感性と、新しい趣味を見つけた瞬間だった。

それから彼女は予想以上にキャンプにハマった。本格的な登山も始めるようになり、山小屋泊からテント泊、縦走までするようになっていた。

私としては同性の登山仲間が欲しかったし、彼女と一緒に登山できることは願ったり叶ったりで、とても嬉しかった。


後に彼女は自然公園でのきっかけがなければ、今の自分はいないと語る。 数年後、プロの登山ガイドとして活躍するのは、また別のお話し――。



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