潦 月見 /ニワタズミ ツキミ

私の世界がもっともっと私の好きで溢れますように。(24)

潦 月見 /ニワタズミ ツキミ

私の世界がもっともっと私の好きで溢れますように。(24)

最近の記事

晴れの日。

晴れの日。 どうしてもダメな日があって、そんな日は外で日光を浴びて、ぼーっとする時間が必要だと思う。 オフィスでパソコンを閉じて、外に飛び出して、外回りをしたら足が疲れた。 夏を控えたその空から、刺すようになった日差しが文字通り少し刺さって痛いけれど、日焼け止めを塗ったから大丈夫だと自分に言い聞かせて、落ち着かせる。 公園のベンチに腰掛けて、足に馴染まないシルバーのパンプスから踵を外す。 よく冷えたミルクティーの缶を開けた。 自動販売機の中で缶の落ちる、ガコンという音が好

    • 花びらの行方なんて知らない

      24歳。あと2ヶ月もすれば25になってしまう。 紀伊国屋の1階と2階をぐるりとしたけれど、強く心惹かれるような本は見つからない。 落胆してブルーの座椅子に腰掛けて、窓から花曇りの外を眺めた。 どちらかと言うと、花曇りって、明るい曇りに近い曇を言うことが多いらしいけど、外は薄暗い。 でも、桜が満開だから、花曇りでいいよね。 活字は好きだけれど、社会に出てから随分と離れてしまった。 季語とか、もう、ほとんど覚えてない。 桜ってあんなに繊細な色味なのに、どうしてこの時期のショー

      • センチメンタルガール。

        今日は雨が降っていないのに、なんだか湿った匂いがしていた。 オフィスでパソコンを見ている間に、いつの間にやら外は暗くなってしまって、地下鉄で家とは反対方向の電車に乗った。 改札を抜けて地上に出ると、カフェやら信号やら、居酒屋やらのネオンが煩わしく主張する。 本当は、家、帰りたかったな。 先週よりは温かいけれど、風はまだ冷たくて、鼻上までマフラーをつまみ上げて、信号が青に変わるのをじっと待つ。 1時間後、キラキラのヒールに、夜空のように深い青のドレスを着る。 暇潰しに入ったカ

        • m/e スラッシュミー

          去年の今頃、私はこんな自分を想像したことがあっただろうか。 この1年の間に、私を守ろうと包む腕やその肌の匂いは変わったし、それが私の肌に既に馴染みつつある。 人生最大の大失敗、というよりは、間違ってはいなかったと思うけど、世間的なその失敗をした事で私は仕方なしに夜の世界にやってきた。 私が日に日知らない人になっていくんじゃないか、夜に染まっていくんじゃないか、と、怯えて泣いた彼の頭を撫でて、ただ平謝りするしかなかった。 その日私は酔いつぶれて玄関で眠っていて、深夜4時に目が

          イチョウ色。憂鬱。月の色。

          初めてイチョウの木を見て美しいと思った。 朝は降っていた雨は止んでいて、雲の隙間から僅かに射す光がキラキラと黄金のようにその黄を照らしていた。 ヒラヒラと、ゆっくりと、その葉を落としていく大きな木。 ものの半月くらいで、きっとこの木もその辺の茶色い大木Bになるのだと思うと、なんだか胸糞が悪い。 仕事で外回りをしていた筈なのに、どうしても足が重く、憂鬱になって公園の池の前のベンチに腰を下ろした。 足元に散らかった黄色い葉を、1枚だけ拾いあげ、スケジュール帳に挟む。 鬱と診断さ

          イチョウ色。憂鬱。月の色。

          ブルーホリック【~完~】

          簡単な事だった。 そこらに転がっていた石を拾い上げるくらい。 久しぶりに降りた青い電車のあの駅は、もう私にはなんでもなかった。 かつて私を中毒死させそうだったその青は、摂取量を間違えてしまっていたからそんな状態だったんだろう。 去年の今頃バーでギムレットを飲みながら私は、彼と一緒に引っ越すことについて上司に話していたっけ。 結局、私達は引っ越してはいないし、私は今週、1人で引越しをするよ。 3ヶ月くらい前から、あの部屋はまた私だけのものになったから。 無論、契約者もその他諸

          ブルーホリック【~完~】

          秋の人のよりし柱に咎めあり

          ずっと遠くを観ているような。 ショーウィンドウの外側から、自分のものではないものを、硝子越しに眺めているような、そんな、感覚だった。 2ヶ月も仕事をしていない私は、曜日感覚や時間の感覚を失ってしまって、何処か知らない場所にずっと独りで座っているような。 それでも、道を歩けば不意に金木犀が香ってくるし、毎年決まっているかのようにその花が咲けば降る雨は、またその花をすぐに零れさせていくし。 水溜りに浸かった橙色が、徐々に溶けて白んでいくのを今年も横目に盗み見る。 季節は私が立ち

          秋の人のよりし柱に咎めあり

          Kiss you and kill you.

          ただ、普通の彼女になりたかっただけ。 花のように黙ってただ笑っていられるほどに私は大人ではなかったし、そんな経済的な余裕も精神的な余裕もなかったのだ。 蝉の声はもうしない。 秋の虫の声と、冷たい風が私の頬に掛かった髪を吹き飛ばしていった。 古着のライダースの黒革に、ぼうっとネオンが映る。 拘るのを辞めてしまったら、案外世界は軽々しくて、出ていかなくてはいけないこの部屋のこととか、損賠を払わなくてはいけないことも、すうっと心に染みって、自分の足で生きていくと決めた。 素敵な靴

          眠れぬ夜に夕日を思ふ。

          美しいものは壊れていく様すら美しいんだと知った。 比べて私はどうだろう。 憂鬱に押しつぶされるくらいなら薬を飲んで眠ってしまえばいいんだと、気味の悪いオレンジ色の錠剤を摘んだ。 思考はどんどんそのオレンジの微睡みに奪われてゆくし、そういえば最後にゆっくりと夕陽を眺めたのは何時だっただろう。 日が沈むように、私も眠った。 以前私はどうしようもなく果てしない何かに押し潰されそうになったとき、途方に暮れて眠り続けた。 私の体が私の思考を止めて、この世界から切り離して私自身を守ろうと

          眠れぬ夜に夕日を思ふ。

          満月はどうせ欠けるから。

          いくら綺麗な月でもその真ん丸の瞬間から、すぐさま欠けていく。 完璧な時間なんて本当に刹那。 なんだってそう、全てそんなものな気がしてならなかった。 居場所が見つかったと思っても、その周りの人達だって次々に変わってゆくし、人間簡単には変わらないとはよく言うものだけれど、こうも変わって行かれてしまうとそれもどうも信じ難かった。 綺麗に咲いていたジャスミンも、また、昨日のゲリラ豪雨に打たれてユラユラと水溜まりに落ちていってしまった。 実家に戻るとなんだか、自分があのなんの責任もな

          満月はどうせ欠けるから。

          木に縁りて魚を求む

          モワッとした湿度の高く暑い空気。 慣れない煙と夏の香り。 くすんで淀んだ美しくない暗い空。 それが懐かしくて、何処か悲しかった。 あの時と同じように窓枠に上り、あの時に似た、くすんだ空を見上げる。 10代後半くらいから、自ら手放したものまで欲しいと想うのだから強欲なのかもしれないが、それでいいとすら思う。 歳を重ねるスピードは思いの外早くて、私が想い馳せる日はもう2年も前になってしまった。 あの頃煙をふかしながら、片手でクルクルと退屈を凌いでいた長い髪は今はもう肩までもなく

          線路脇、フェンスの朝顔。快速電車。

          いつの間にか、また季節は進んでる。 蒼く吸い込まれそうだった筈の紫陽花はいつの間にか茶色く萎れているし、線路脇のフェンスには朝顔の蔦が巻きついて当たり前みたいな顔で咲いてる。 気持ちに整理が着いていようと居なかろうと、どんどん時間は流れてくし、聞くのが恐ろしくて、何時までも聞かない真実は、時間が過ぎる度に有耶無耶に空気に滲んでいく。 ブルーのラインの入った電車を見ても何も思わなくなったのは、まだ彼は私の傍に居るからか。 あの時の儚くて優しい時間は終わってしまったけれど、新しい

          線路脇、フェンスの朝顔。快速電車。

          1999/06/27

          久しぶりの夜の電車。 なんで今日に限ってなんだろう。 あと20分くらいで、、、 祝ってくれるかなと思っていた彼は熱で家で項垂れてる。 仕方ないと言えば仕方ないけれど、熱を出しても年に2回くらいだろうに、なんで今日なのか。 全てが嫌になるくらいには疲れたし、誕生日だろうがなんだろうが、溜まった洗濯物は洗わなければいけないし、放置されたままであろう鍋は洗わなければならない。 私は私の為に生きるのが苦手。 半袖でも丁度いいような気温が続いて、私の誕生日が来るということは、今年

          my eye.

          私がこの世界に滲み溶けて消えてしまわないように。それが馴染むってことなのもしれないと最近は思うけれど。 こうして文を書いていると、こここそが私の瞳に映る全てで、私の世界で、私の現実で、私の生だと想える。 この瞳を綺麗だと言って話し掛けて来る人がなんだかんだで居る訳だし、抱き締めてくれる腕なんて選ばなければ幾らでもあるのかもしれない。拘ってばかり居るから苦しいと思うことが多いんだろう。 雨は窓枠に腰掛けて煙を吐く私の煙草の火を消してしまった。 片付けたいという気持ちが大いに

          朝ご飯。蜘蛛の巣。小雨と貸した上着。

          部屋を出てバス停に向かう。 卵とソーセージを焼くような、朝ご飯の香り。 私が中学に上がる頃には、私の家の朝ご飯制度は廃止されていたから、懐かしむのは小学生の頃。 部屋を出る前にシャワーを浴びていたら、高校生の時のことを思い出した。 どんなに尊もうと、どう嘆こうと、あの頃には戻れない。 当たり前だけど、たまに不思議になりませんか? 昨日の夜迎えに来てくれた彼の車に乗り込む。 ぼーっとフロントガラスから眺めた深夜の街。 路面電車の電線は、雨の水がきらきらと主張するから、まるで大

          朝ご飯。蜘蛛の巣。小雨と貸した上着。

          10年前の呪い

          なんとなくタップして流した曲は学生の時に聴いていた曲だった。 このまま大人になっていくのかな。と、歌詞が言う。 私は随分前に大人になってしまったというのに。 吐き出した煙は行き場がなくて車内を漂っては私にまとわりつく。 朝は土砂降りだったのに、今はただの曇天で、それはなんだか私の中に眠らせている激しい気性のよう。 「貴方はしっかりしてるから」という言葉が耳にこびり付いていて取れなくなってから10年以上も経ってしまっている。 別に私だってテキトーにしていたいけれど、そうはしてい