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朝ご飯。蜘蛛の巣。小雨と貸した上着。

部屋を出てバス停に向かう。
卵とソーセージを焼くような、朝ご飯の香り。
私が中学に上がる頃には、私の家の朝ご飯制度は廃止されていたから、懐かしむのは小学生の頃。
部屋を出る前にシャワーを浴びていたら、高校生の時のことを思い出した。
どんなに尊もうと、どう嘆こうと、あの頃には戻れない。
当たり前だけど、たまに不思議になりませんか?

昨日の夜迎えに来てくれた彼の車に乗り込む。
ぼーっとフロントガラスから眺めた深夜の街。
路面電車の電線は、雨の水がきらきらと主張するから、まるで大きな蜘蛛の巣のようだった。
彼は普段シャワーを休みにしか浴びないけれど、今朝は出勤前の朝早く浴びて髭を剃っていったみたい。
前の恋人のお陰で、急に小綺麗にしようとする男を見ると疑ってしまう。
綺麗になった彼の身体の裏で自分の思考が私自身に泥を投げた。
汚れてしまったね。

外は小雨だけれど傘は持ってなかったの。
その泥を少しでも洗い流すために。

2年前、私は幸せだったな。
サンダルの少し禿げ始めたネイルを睨んだ。
32℃もあった気温は落ち着いてしまって外は半袖では少し肌寒いし。
貸した上着、いつ返してくれるの、先輩。
先輩は歯を見せてニッと笑う。
手先が器用で、いつもバカにして来るけど、なんだかんだでいつも助けてくれるし、凹んだ時は「車だすよ〜」とか言って少し遠くに連れ出してくれる。
数少ないお酒を飲める友達だから、いつだって最後は2人して酒をかっくらって、あーあ、嫌だなあ〜、頑張ってくれぇ〜、そんなやり取りを繰り返す。それだけ。
それだけだけど、大事で大切な時間。
色々なものが、雨と青く茂り始めたその街の色彩に溶けて、ぼやけて、見えなくて、掴めない。
会社の近くに着く前に、雨、止めばいいな。

#創作大賞2023
#エッセイ部門
#エッセイ
#日記

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