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ブルーホリック【~完~】

簡単な事だった。
そこらに転がっていた石を拾い上げるくらい。
久しぶりに降りた青い電車のあの駅は、もう私にはなんでもなかった。
かつて私を中毒死させそうだったその青は、摂取量を間違えてしまっていたからそんな状態だったんだろう。

去年の今頃バーでギムレットを飲みながら私は、彼と一緒に引っ越すことについて上司に話していたっけ。
結局、私達は引っ越してはいないし、私は今週、1人で引越しをするよ。
3ヶ月くらい前から、あの部屋はまた私だけのものになったから。
無論、契約者もその他諸々の契約も全て私がしていた訳で、そもそもが私達の家ではなかったのだ。
そんな簡単なことすらも思いつけなかった私は、もう何処にも居なくて、今はただ、秋の少し乾いた空気を肺いっぱい煙と共に吸い込んでは外に逃がしてる。

きっかけはそう、確かに君だったかもしれない。
でも今は、ただのニコチン中毒だから、もし煙草をぼんやりとふかす私を見つけても、勘違いはしないで欲しい。
彼と住んでいる時は控えていたお酒も、今は電気ブランの瓶を持ったまま、外をぶらつくくらいだけれど、それは別れたからではなくて、元々そうであった私が、私に戻っただけなのだ。

つまりは、君は、私の何もしらなかった、ということなんだよ。
わかるかしら。

彼に綺麗に見せようと、必死に植えた花はもう全て摘んでしまった。

必要がなかったのだ。
植え付けた美しさを好意に替えて貰っても、その好意を浴びていたのは私ではなくてその花だったから。

落ち葉を蹴飛ばした。
その花の亡骸だったかもしれない。
焼き尽くすような、あの太陽の暑さは亡くなって、寒くなりましたが、お元気でしょうか。
彼と出会ったのも別れたのも、夏でした。
私は元々夏が嫌いです。
臭いものに蓋をするように、夏が嫌いな理由は敢えて並べないでおこうか。

新しい部屋に移るのが楽しみです。
とても忙しい日々を過ごすことにはなりますが、私はそれで満足です。

その辺に転がっていた小石のように、私を拾い上げてくれた人が、そこで待ってるから。
さようなら。
きっともう、貴方のことは一生書くことがないのでしょう。

ありがとう。
確かに私は、貴方を愛して、貴方と生きていくことに必死でした。
貴方が月を見上げた時、不愉快な気持ちにならないといいなと、願っています。
私は、貴方を彷彿させる、この青い電車が、好きではなくなってしまったけど。

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