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マックルモア「HIND'S HALL 2」概説&歌詞和訳

どうもこんばんは、烏丸百九です。
本日はアメリカのラッパー「マックルモア」が新曲「HIND'S HALL 2」を発表したので、簡単な解説と歌詞の和訳を掲載したいと思います。

ガザ地区の方々に寄付をお考えの方は、下のサイトに本人確認済みの寄付先が掲載されております。経済的に余裕のある方は、是非寄付にご協力をお願いいたします。


楽曲概説

マックルモア、本名ベン・ハガティはアメリカ人であり、元々は「マックルモア&ライアン・ルイス」という二人組ユニットとして著名でした。彼なりのアメリカンドリームを唄った「CAN'T HOLD US」や、同性婚法制化の前にゲイの人々の結婚を取り上げた「SAME LOVE」がとみに有名です。

こうした楽曲でグラミー賞を受賞するなど、批評的評価も決して低くはなかったのですが、マックルモア本人が白人であることや、アメリカのヒップホップとしてはかなり歌謡曲寄りの作風が災いして、ヒップホップ通の人々からはあまり良く思われていなかったようで、「マックルモアがグラミー賞は恥ずかしい」などと言われていた時期もあるようです。

そうするうちに「マックルモア&ライアン・ルイス」は活動休止状態となり、マックルモアはソロ活動を開始。しかし「マックルモア&ライアン・ルイス」時代を上回る大ヒット曲はありませんでした。

そんな中、イスラエルによるガザ虐殺が開始されます。
6歳だったヒンド・ラジャブちゃんは家族と移動の折、イスラエル軍に車ごと銃撃され(当然両親も民間人)、赤新月社(パレスチナの赤十字社)に電話で救助を求めましたが、彼女を助けに行った救急車はミサイルで爆破され、ヒンドも命を落としました。
本事件をさらに詳しく知りたい方は、以前に動画を作りましたので参考にしてみてください。

この一連の事件に衝撃を受けたアメリカのパレスチナ連帯運動家たちは、 ホールを占拠して「ここはヒンドのホールだ!」と主張。マックルモアの「HIND'S HALL」の題名の由来となりました。

同性婚を支援するなど元々リベラル派のマックルモアでしたが、こうして制作された「HIND'S HALL」は、著名な反体制ロックバンド「レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン」のトム・モレロをして「レイジ以後で最もレイジ的な作品」と言わしめ、世界的なヒットを記録しました。

個人的には、ラッパーというよりはポップミュージシャンとして評価されたマックルモアのような人物が、自らのキャリアや過去の名声を全て擲ってでも作り出した本作の覚悟、怒り、覇気、情熱に強く心を揺さぶられました。

その続編として登場したのが、本作「HIND'S HALL 2」です。

「HIND'S HALL 2」のミュージックビデオ。一部暴力表現に注意。

「HIND'S HALL 2」の最大の特徴は、マックルモア本人による歌唱箇所が全体の半分(後半のみ)である点だと思います。
フィーチャーされたラッパーのMC Abdulanees、コーラスのAmer Zahr、そして子供たちはいずれもパレスチナにルーツを持っており、「平和を求めるパレスチナ人の声」を直接的に増幅させる役割を持っています。その声が、アメリカ人であるマックルモアのラップと美しく共鳴しています。

歌詞私訳

★注記の内容は全て個人的な見解です。

[コーラス:アニーズ&合唱団とマッケルモア]
生きているうちに、私たちは自由になる
ある日、光が輝くとき、私たちは自由になる
生きているうちに、私たちは自由になる
彼らは私たちを殺して埋めることができる
でも、彼らは私たちが地に埋められた種だと知ることになる

彼らは私たちを殺して埋めることができる
でも、彼らは私たちが種だと知ることになる

[第1節:アニーズ]
私はファラステーン(パレスチナ)を自由にと言う
なぜなら私たちが受けた
あらゆる虐殺を知っているからだ
ナクバ
(註0)、サブラ(註1)、シャティーラ(註1)、ラファ(註2)
私の民は闘争の中で何百万回も死んできた
それでも彼らは潮から立ち上がる
瓦礫の中から咲くバラのように
包囲されて生きるより殉教者として死ぬことを選ぶ
難民の目に神のお姿が見える
だからもし私が「川から海へ」
(註3)と言うことを許されないのなら
「皮から種までパレスチナは自由になる」
(註4)と叫ぶだろう
何十億ドルもの剣で首を斬っても
私たちを揺さぶれないことを知っている
死は私たちを壊すことはできない
パレスチナ難民全員が鍵を持っている
(註5)
いつの日か私たちは戻ってくる
どんなに時間がかかっても

[コーラス:アニーズ&合唱団とマッケルモア]
生きているうちに、私たちは自由になる
ある日、光が輝くとき、私たちは自由になる
生きているうちに、私たちは自由になる
彼らは私たちを殺して埋めることができる
でも、彼らは私たちが地に埋められた種だと知ることになる

彼らは私たちを殺して埋めることができる
でも、彼らは私たちが種だと知ることになる

[第2節:MC アブドゥル]
私は虐殺を見てきた
生きていることに感謝している
大量虐殺を生き延びたら人生に感謝するだろう
私の目を見て何が見えるか教えてくれ
泣く涙も尽きた、パレスチナが解放されるまでラップしよう
私たちの存在を望まないシステムに問題がある
街を生活環境のない監獄に変えてしまった
母さんから電話が来て、怖いと言っていた
爆弾が落ちる音が聞こえ、空に死の匂いがする
叔父さんは子供たちを失い、私はいとこを失った
涙が墓を潤し、今もまだあなたを愛していると知らせる
富めるものも貧しいものも避難所に変わった学校に来る
(註6)
私はただ平和を祈る、戦争は望んでいない
死体が横たわっているときに、戯れ言など要らない
私は人々に希望を与える
なぜなら私はそこから抜け出した最初の人間だから
私は作ってもらった道を歩いている、これは神の計画だ
手で触れた瓦礫を使い夢を築き上げていく

[コーラス:アメル・ザール&合唱団]
في حياتنا منكون حرين
يلمع النور ومنكون حرين
في حياتنا منكون حرين
لو دفنونا منرجع مزهرين(アラビア語:
生きているうちに、私たちは自由になる
ある日、光が輝くとき、私たちは自由になる
生きているうちに、私たちは自由になる
彼らは私たちを殺して埋めることができる
でも、彼らは私たちが地に埋められた種だと知ることになる)

川から海まで
パレスチナは自由になる
川から海まで
パレスチナは自由になる

[第3節:マックルモア]
パレスチナは今や世界を目覚めさせた
ホワイトハウスのお前らが誰に仕えているかを知った
ガザの子供たちに今誓う
我が子にするのと同じようにあなたの人生のために戦うと
抵抗する対象があるなら抵抗運動万歳だ
小さな子供を殺すお前らクソ野郎どもにはもううんざり

私はしばらくはわきまえていた
人々の架け橋になろうとしていた
だがシオニストに懇願したところで自由は決して訪れない
世界は「パレスチナを解放しろ」と叫んでいる
マニュアルを見たぞ、お前らがどうやって植民地化したかは知っている
全能のドル記号の力を奪われる以外のことを
お前らが実際どれだけ気にしてないかに驚くだろう
戦争から得られる利益なんてクソ食らえだ
店をボイコットする
資本主義が我々を殺している、それは許せないことだ
お前らは戦争のために我々がお互いを憎むことを望んでいる
モスクを恐れ、メノーラーに火を灯すことを恐れている
(註7)

カマラ・ハリス、聞いているか知らないが
金と武器をイスラエルに送るのはやめてくれ
さもないとミシガンで勝てないぞ
(註8)
我々は選挙に関与していないし、立場を変えるつもりもない
(註9)
いまや全世界がパレスチナになったからだ
ガザの殺された子供たちと私たちの赤ん坊が見える
私たちが製造している爆弾によって命が奪われている
パレスチナ人の命がイスラエル人の命と同じくらい貴重だと
議会はいつ認めるのだろうか?

私たちは地球を所有していない
土の上の境界線をめぐってお互いに殺し合っている
私たちは同じ血を流し
同じ痛みを感じている
パレスチナ人の命にも同じ価値があるのではないのか?
私たちに何が起こったのか?
私たちに何が起きているのか教えてくれ

[コーラス:アメル・ザール&合唱団]
في حياتنا منكون حرين
يلمع النور ومنكون حرين
في حياتنا منكون حرين
لو دفنونا منرجع مزهرين(アラビア語:
生きているうちに、私たちは自由になる
ある日、光が輝くとき、私たちは自由になる
生きているうちに、私たちは自由になる
彼らは私たちを殺して埋めることができる
でも、彼らは私たちが地に埋められた種だと知ることになる)

川から海まで
パレスチナは自由になる
川から海まで
パレスチナは自由になる

註記

(註0)「ナクバ」はアラビア語で「大厄災」を意味する言葉。特にイスラエル建国時のパレスチナ人虐殺と追放を表す。

(註1)サブラー・シャティーラ事件のこと。レバノン内戦中の1982年9月16日、レバノン内の親イスラエル派だった「レバノン軍団」がレバノン内のパレスチナ難民を大量に虐殺、最大で3500人が死亡したとされる。

(註2)ガザ地区の街ラファフのこと。現在進行形で虐殺が行われている。伝統的にファタハ派の多い地域であり、イスラエルの主張する「ハマスの基地」ではない。

(註3)パレスチナ解放のフレーズ「From the river to the sea」のこと。ヨルダン川と地中海の間の地域はパレスチナだ、と主張するもので、これは歴史的な文脈に根ざしたものだが、一部の国では「イスラエルを滅亡させることを願っている」として、発言自体が法的に規制されている。

(註4)「From the river to the sea」と韻を踏んだ(From the rind to the seed)洒落で、パレスチナの象徴であるスイカを表している。

(註5)「鍵と返却の権利」のこと。イスラエル建国時の虐殺(ナクバ)によって住む家を追放されたパレスチナ人達は、自身の家の鍵を「帰還の鍵」として、パレスチナ解放の象徴としている。

(註6)イスラエルの爆撃から逃れるために何十万人もの人々が避難する中、多くの学校が仮設の避難所となっている。UNRWAの学校の70%が攻撃を受け、中には複数回攻撃を受けた学校もある。一部は倒壊し、多くは深刻な被害を受けている。

(註7)「メノーラー」はユダヤ教で用いられる聖なる燭台のこと。超正統派のユダヤ教徒やユダヤ人リベラル派は、ネタニヤフ政権の暴虐を激しく非難しており、婉曲に本曲が反ユダヤ主義ではない(ユダヤ人とも連帯している)ことをマックルモアは主張している。

(註8)アメリカ合衆国の州「ミシガン州」のこと。白人が多数派ながら、共和党支持と民主党支持が拮抗する「激戦州」として知られ、アラブ系の支持を失ったので、ハリスは大統領選に勝てないと警告している。

(註9)このフレーズは、2024年の大統領選挙シーズン中にバイデン政権にイスラエルとガザに対する政策の転換を促すために立ち上がった「非拘束国民運動」に引っかけた洒落。パレスチナ支持のマックルモアは、改めて民主党へ投票しないことを宣言している。

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