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4度の打ち切りを経て、Amazonの無料本配信が大ヒット。絵日記が330万回DLされた漫画家が語る、今の時代の作品づくり

昨年3月からAmazonが提供する「Kindleインディーズマンガ」上で無料漫画の配信を始め、330万回以上ダウンロードされたという漫画家・ぬこー様ちゃんさん。

Twitterでは約45万人にフォローされており、今ネットで最も注目を集めるクリエイターの一人です。

ご自身の体験を元に描かれる絵日記漫画には、思わずぐいぐいと読まされてしまう魅力があり、人気を博しています。

『#07 100日後にオフパコされる話: パコおじ編 ぬこー様ちゃん絵日記集』より引用。作品のリンクは記事下です。

今回はそんなぬこー様ちゃんさんに、個人での作品づくりを通じて、どのように人生が変化していったのかをインタビューした内容を公開します。

あわせて前回のインタビュー記事も読んでもらうと、より深く内容を理解していただけるかと思います。すごくおもしろいので、おすすめです。

前回の記事(前編)

前回の記事(後編)

※本記事は昨年10月3日にTwitterスペースで配信した内容を書き起こし記事化したものになります。

一ヶ月で会社員時代の年収の2.5倍が入った

ーー先日、「Kindleインディーズマンガの8月分の分配金のお知らせが届いた」というふうにツイートされていましたね。

ぬこー:Kindleインディーズマンガって、毎月末に、分配金がいくらですよっていうお知らせがくるんですね。

それが大体1ヶ月遅れなので、8月の分配金のお知らせが来るのが9月末です。これが、4日前ぐらいに届きました。

どれくらいかを正直に話すと……僕、ブラック企業に勤めていたんですけれど、当時の年収の大体2年半分くらいが一ヶ月で振り込まれるという、バグのようなとてつもない状態になっています。

7月も結構な額が振り込まれていたんですけど、作品のDL数自体は7月のほうが多いにもかかわらず、金額は8月のほうが大きかったですね。

ーーダウンロード数が前月より少なかったのに、金額が増えたのは、Amazonが用意している分配金自体が増えたりしたのでしょうか。

ぬこー:あくまで僕の予想なんですけど、おそらくKindleインディーズマンガって、ダウンロードされたときではなく、作品が読まれたタイミングで分配金が発生しているんですね。

だから、7月にたくさんダウンロードしていただいて、それを8月のお盆休みとかのタイミングでたくさん読んでもらえたんじゃないかなと思っています。

ーーこれは正式に発表されている情報ではなく、ご自身で作品をSNSに投稿している上での肌感覚からの予想でしょうか。

ぬこー:そうですね、そんな感じです。本当にありがたいことに、みなさんに漫画を読んでいただけるおかげで、生活がすごく変わりました。

ーー今、Twitterで漫画を投稿されている漫画家さんって、さまざまなWebサービスを使って、個人でお金を稼ぐ方が増えてきています。ぬこーさんの場合は、Kindleで無料配信した本が160万回DLされている(※配信された当時の数字)んですよね。

ぬこー:そうです。170万回いきそうですね、ありがたいことにどんどん増えています。あ、今見たら170万回超えてました。

ーーすごい、おめでとうございます。前回の記事を出した時点で、絵日記は最新作が11冊目でしたよね。

ぬこー:僕の漫画は連番でやっているんですが、どこから読んでもなんとか楽しめるようになっているので、11巻が出たときに読んでくれて「面白かった」という人は、そのまま他の漫画も全部ダウンロードして、あとで読んでくれるという流れが多いんですよね。

ちなみに僕、めちゃめちゃエゴサするんですけど、やっぱり新刊を出したタイミングで全部まとめてダウンロードして読んでくれた人の感想とかを結構見ます。

今日も「面白かったから全部ダウンロードしたら、時間を忘れて読んじゃった」みたいなコメントを2つ、3つ見つけました。もう、めちゃくちゃ嬉しいですね。

そういう感じで、Kindleインディーズマンガだと続きものを作っていくのが良くて。どこかしら引っかかる部分、刺さる部分があったら、 まとめてダウンロードしていただけるっていうのがあるので。

続けるほど、しっかり皆さんから読んでいただける機会が得られるっていうすごい素晴らしいプラットフォームです。これは無料だからこそですよね、本当に。

ーー普通だと漫画を全巻まとめて購入するってハードルが高いですけど、無料だととりあえず全部ダウンロードしておこうとなるのかもしれませんね。

ぬこー:Kindleインディーズマンガのいいところは、とりあえずどこか引っかかったら、全巻ダウンロードするまでの障壁がまるでないんですよ。

なので、続編を出すたびにその作品全巻がダウンロードされやすくなっていくっていう。これは有料コンテンツだとあり得ないことで、無料コンテンツだからこそですよね。

ーーここから、前回のインタビューで聞き切れなかったところをより深堀りしていこうと思うんですけど、まずは簡単におさらいをできれば。Kindleインディーズマンガでの投稿自体は、2022年3月半ば頃からですよね?

ぬこー:そうですね。

ーー当時も、漫画を出してすぐ、1〜2日で19万円ほどの売り上げがあったとか。

ぬこー:本当に偶然なんですけど、最初に出した漫画が、僕が20万円でウコンを買わされそうになった話で。

最初に出したKindleインディーズマンガの分配金が大体買わされそうになったウコンの金額とほぼ一緒ぐらいだったっていう(笑)。

『#01ぬこー様ちゃんとウコンの部屋 ぬこー様ちゃん絵日記集』より引用。無料で続きが読めるリンクは記事下です。

ぬこー:当時は2万DLくらいだったんですけど、これって一回SNSで話題にさえなれば、DL数としてはそんなに難しい数字ではないんですよ。

もちろん、SNSを運用していく必要はあるんですけど、うまく活用さえできれば、2万、3万とか10万くらいまでは全然いける数字だと思うんです。

10万DLされれば、100万円くらい入ってくるんですけど、若い子からすれば結構な大金じゃないですか。それが、中学生とかから手に入るチャンスがあるわけですよね。

だからすごいですよね、大人の100万円は生活費で結構すぐなくなっちゃいますけど、中学生、高校生の100万円なんてもう大富豪ですよね。

Kindleインディーズを始めた狙い

ーーぬこーさんが最初にKindleインディーズで投稿されたときは、Amazon内で著者としてのフォロワーが増えていくと、いつか商業の本を出すときに有利になるんじゃないかという狙いがあった(※前回の記事後編を参照)んですよね。

ぬこー:そうです。始まりは、「もう悲しい思いをしたくない」というのが一番にありまして。

作家としては、打ち切りが一番悲しいんですよ。今聴いてくださっている方々の中には作家さんも多いので分かると思うんですけど、連載作品ってものすごくカロリーを使うんですよね。

読者の方々が想像している以上にすごくカロリーがかかっていて、 下手すると2年ぐらいかけて温めた企画だったりするわけです。

その温めた企画が、 まあ、一年も経たずに終わってしまって、本も出ないみたいなことがあるんですけど、そのときの絶望感は半端じゃないんですよ。

僕は結構ポジティブなほうなんですけど、最初の『専門学校JK』が終わったときは、僕は絶対に打ち切りにならないと思って描いていたんですけど、あっという間に打ち切りになって。

ぬこー:そのときにかなり落ち込んだのを覚えているんですけど、そういう思いは二度としたくないぞと思って。

結局そこからさらに打ち切りを繰り返すわけなんですけども。まあ、もう歳も歳なんで、これ以上は打ち切りになりたくないと思って、何かできることがないかと考えたんですよね。

要は作品力ではなく、 プロモーション力みたいなものを付けていかないといけないんじゃないかと。

それもSNS以外で、他の方がまだやっていらっしゃらない分野で、力を付けないといけないんじゃないかなと思って、Amazonの中での影響力を高めようと考えたんです。

それで、最初はKindle Unlimitedというサブスクの会員向けの本を出そうかなと思っていたんですけど、これは無料では読めないので、影響力を伸ばすにはちょっと弱いと思って。

単純にAmazonの中でのフォロワー数を増やすにはどうしたらいいか考えたとき、Kindleインディーズマンガが最適解だなと思い、なおかつお金ももらえるということで即参入したんですね。

それで副産物として、Amazonのアフィリエイトがありまして、アフィリエイトリンクを使って自分の無料作品を宣伝することで、一緒にダウンロードされた他の漫画のアフィリエイト収入も入ってくるんですよ。

それも本当にバカにならない金額が入ってくるんですよね。毎月どれくらい入ってくるかって、前の記事で出しましたっけ?

ーー前回の記事では、ちょっと生々しかったので「バカにならない金額」とだけ書いてぼかしましたね。

ぬこー:完全に言ってしまうと、僕の場合、大体50万円ぐらいがアフェリエイトだけで入ってくるんですね。

あと僕、元々はほっけ様とかいろんな名義で漫画を描いていたんですけど、Kindleインディーズマンガで作品が読まれるようになってから、皆さんが昔の僕の作品を探して買ってくれて、その印税も最近は入ってきているんですね。

それも結構な金額で、ちょっとKADOKAWAさんに許可取ってないんで言えないんですけど、かなりの金額が入ってきている状態ですね。

ーーこれはすごく面白いですね。

ぬこー:つまり、これまで打ち切りにあった作家さんも、こういう活動をすることによって、過去の作品を買っていただけるっていうことがあるわけです。

本当に、結構な金額だったんですよ。Amazonの中で自分のフォロワー数を増やすっていうことは、作家にとって、特に長く活動している作家さんは、やればやるほど旨みしかないと思います。

ーーすごいですね。印税が結構な額っていうことは結構部数が出たんじゃないですか?

ぬこー:はい、すごい出ましたね。紙の本はもう絶版なんですけど、市場の在庫が全部なくなりました。

ーー編集者さんとかから連絡が来たりするんじゃないですか。

ぬこー:もうここでだけ言いますけども。

僕、『専門学校JK』が終わった後に『専門学校JK Ctrl+Z』という続編を出して、 一巻は単行本が出たんですけど、売れなかったんで二巻は出してもらえなかったんですよ。

それが、出してもらえることになったんです。

ーーおお、それはすごいですね。おめでとうございます!めちゃくちゃ嬉しくないですか。

ぬこー:嬉しかったです。単行本にならなかったので、苦肉の策としてpixivで2巻を無料公開していたんですけど、皆さんから「Kindleで読みたいです」というお声をもらっていて、何とかできないかって気持ちがずっとあったんですよね。

それが何とかなりました、すごくありがたいことに。決まったときはめちゃくちゃ嬉しかったです。本当にもうずっと心の中でチクチクとしているような部分があったので。

ーーちなみにこれはいつ頃か、言えたりしますか?

ぬこー:時期はまだ分からないんですけど、原稿は全部揃えていて絶賛準備中です。

ーーTwitterの発信やKindleインディーズマンガの作品がきっかけで、商業の単行本が売れ始めたのは、いつ頃からですか?

ぬこー:ざっくりと言いますと、僕の場合、7月くらいからすごくDL数が増えまして、9月にはもう爆発的にダウンロードされていますね。

ちなみに「2巻を出しませんか」っていう話が来たのは、8月くらいです。本当にありがたいことに、もちろんお金も大事なんですけど、何よりも自分が作った作品が報われるかどうか、やっぱり最後まで描かせてもらえるかどうかってすごい大事なんですよね。

最後まで描かせてもらえないんだったら、モチベも下がりますし。でも、ちゃんと出してもらえるんだと思ったら、楽しくてしょうがないですね。

ブラック企業勤務も楽しかった

ーー本当に胸が熱くなるような話ですね。前回の記事にも書いたんですけど、「本当に最近は楽しくて仕方がない」という風にインタビューでお話しされていたのがすごく印象的でした。

ぬこー:そうですね。基本的に僕はずっと楽しいんですけど。高校生くらいかな、結構高校生とかって、失恋とかあるじゃないですか。

思春期なんでそういうイベントもありますけど、それを乗り越えたあたりから、本当にずっと人生楽しいですね。

ーー乗り越える前はちょっと落ち込んだりしていたんですか。

ぬこー:僕、一回落ち込むと結構ひどいんですよ。高校生のとき、当時飼っていたウサギちゃん、ミンディという名前なんですけど、高校3年生のときに亡くなっちゃったんですね。

そのタイミングで当時、付き合っていた彼女と別れたんですよ。そのとき僕は本当に、夜になったら毎日亡くなったウサギに手紙を描いていましたね。

1ヶ月か2ヶ月ぐらい続けていました。その後はまぁ小さい波はあれど、大体ずっと楽しいです。本当に、高校生のときが一番厳しかった。

ーーそれが一番だったんですね。

ぬこー:そうですね、2番目はあれですね、親にエロ同人描いたのバレたときくらいですかね。

ーーブラック企業で勤務されていたときの話とかではないんですね。

ぬこー:ブラック企業にいるときは結構楽しかったんですよ。

僕、人を育てるのが結構好きで、漫画の中では描くと主題がずれちゃうので描かなかったんですけど、 やっぱり水泳選手として子どもたちを育てるのって、めちゃくちゃ楽しいんですよ。

みんな素直ですごくいい子なんですよね。もう楽しくて楽しくて、ずっとその子たちにに付きっきりでしたね。

ーー人が成長するのを見ることが好きだったりされるんでしょうか。

ぬこー:単純に教えるのが気分がいいっていうのもありますよ。それもあるんですけど、その後、その子たちが成長していく様子を見ていくと、もっと気分がいいわけですよ。

そういうのが好きで、その後に代々木アニメーション学院に就職して教員をやったりとか、その後も人のお節介を焼いたりとかをよくしてました。

商業で結果が出なくても、無料作品としては成立する

ーーあまりお金の話ばかりしてもと思って、ちょっと本筋から逸れた話が多めになっちゃったんですけど、そろそろ戻しますね。

3月くらいからKindleインディーズマンガを始められて、7月くらいからDL数がすごく増えたというお話でしたけれど、やっぱりシリーズで冊数を増やしていくことがかなり効いたんでしょうか?

ぬこー:まさにおっしゃった通りで、1冊出すごとに全巻ダウンロードされるのが本当に大きくて。

商業だと逆なんですよね。商業だと、一番売れているのは絶対に1巻なんですよ。で、2巻、3巻と続きが出るごとにどんどん売り上げが下がっていくんですね。

それが商業の弱点というか、どんなに売れている作品でも、 最新刊は1巻より絶対売れないっていう。

でも、僕の場合は無料で買える本なんで、1巻が一番売れているわけじゃなくて、はっきり言ってしまうと、1巻よりも7月に出した『100日後にオフパコされる話』のほうが売れているんですよ。

ーーこの作品はすごく話題になりましたよね。

ぬこー:そうですね、今のところ『オフパコ編』が今一番ダウンロードされていて、次点が『何度も血祭りにあげられるイラスト窃盗犯』です。

『#11 何度も血祭りにあげられるイラスト窃盗犯: バーサーカー編 ぬこー様ちゃん絵日記集』より引用。作品のリンクは記事下です。

ぬこー:だから、普通だったら絶対に1巻が一番売れるんですけど、2巻とか3巻とか、続きの巻のほうが売れてしまうみたいな現象が起こることが、無料作品の強みです。

なので、最初は泣かず飛ばずだったとしても、最新刊が面白かったら一気に全巻読まれる可能性も出てくるわけですよ。

有料だと、続ければ続けるほど、どんどん敷居が高くなってくるんですけど。今から『ONE PIECE』を1巻から買って読もうって、相当なハードルじゃないですか。

ーー未読の人が一から読もうとすると結構な金額になってしまうので、節目ごとに無料キャンペーンとかが開催されていますよね。

ぬこー:そういったキャンペーンをやらない限り、読まれにくいじゃないですか。

でも、無料コンテンツだと全部まとめて読んでいただけるっていう流れがすぐできるので、SNSで活動されてる作家さんにとっては、プラスでしかないんですよね。

逆に僕なんかは有料プラットホームは向いていないと思うんですよね。僕の場合、漫画を探り探り描いていくタイプなので。

ーーぬこーさんの描かれている漫画って、一つのストーリーが続いていくのではなく、短編がたくさんまとまっているような感じですもんね。ストーリー漫画をシリーズで出すとなると、また少し変わってくるのかなと思いました。

ぬこー:そうですね。僕からすると無料プラットフォームでストーリーものを描くのはちょっともったいない気もしていて。

結局、商業と同じで、1巻を10巻が超えることはない、みたいな動きになってしまうかなとは思います。

もっと、どこから読んでも面白いし、他の巻を読まなくても成立するという漫画のほうが、Kindleインディーズマンガみたいなプラットフォームには向いているんじゃないでしょうか。

ーー気になったのが、一冊読んで面白かった人は結構まとめて全巻ダウンロードしてくれるって話だったと思うんですけど、それぞれの巻のDL数は横並びになったりするんですか?

ぬこー:今ちょっと確認してみてみたんですが、『オフパコ編』が一番ダウンロードされているんですけど、他の巻と大きな差はないですね。

ーーじゃあどこかで一冊当てれば、どの巻も同じくらいダウンロードされる、という感じになるのかもしれませんね。

ぬこー:それってすごいですよね。後から出したものとかも、昔出したものにだんだん追いついてくるような状態ってことですもんね。

だから、とにかくどれか読んで面白いと感じてもらえたら、とりあえず全部ダウンロードしてもらえているんだと思います。

Aamazonはすごいその辺のUIが考えられてて、簡単にまとめてダウンロードできるので。

ーー漫画家さんだと、描いたけど世に出てない読み切りとかが結構あったりされるんじゃないかと思うんですけど、そういったものを短編集としてまとめて出したりするといいかもしれませんね。

ぬこー:僕、まさに先月それを阿東里枝先生に「やってみたら」みたいな感じでおすすめして、実際に出してくれて。

Amazonのランキングで、3位か4位くらいになったんですよね。

ーーおお、実際にたくさんの人に読まれたと。

ぬこー:だから僕思うんですけど、やっぱり商業作家志望の方たちって、無料でネームを描いたりするわけじゃないですか。

描くのにすごく時間がかかるんですけど、1円にもならないのってやっぱりおかしいと思うんです。

もちろん編集さんと一緒に作ってるんで許可を得ないといけないんですけど、ボツになった作品をKindleインディーズマンガで出してみるのっていいんじゃないかと思います。

意外とボツ漫画って、その編集さんに刺さらなかったとしても、おもしろいと思ってくれる読者さんがたくさんいるってことって、案外あると思うんで。

編集さんって、やっぱり売れるか売れないかの目線で作品を見る、要は要はお金を出せるかどうか。でも、無料にすることによって、そのハードルってめちゃくちゃ下がるじゃないですか。

だから、無料作品としては成立したりするし、それによってその作家さんがすごく潤うというのはあると思うので、試してみてほしいですね。

今の時代は変化できる作家が強い

ーー無料作品が話題になったら、Amazonの中で、同じ著者の有料作品の宣伝にもなりますしね。一方で、Kindleインディーズマンガの分配金が果たしていつまで支払われるのか、という問題もあります。

ぬこー:Amazonさんは大企業なんで、すぐになくなるってことはないと思うんですけど、 もしKindleが全体的に下火になったりしたら、緩やかに撤退する可能性もやっぱりあるわけですよね。

分からないですけど、ずっとは続かないと思うので。ただそのときはまた別のプラットフォームでいい場所を見つけられるかどうかだと思います。

ーー移り変わっていきますもんね。Twitterとかもここ数年で漫画やイラストを投稿する場所として盛り上がっていますが、フォローしている人のツイートが表示されにくくなったりと、作家さんには不利に思える変化が起こったりしています。

ぬこー:今って時代がどんどん変わっているじゃないですか。Twitterの中でも、アルゴリズムが変わるだけで、作家としての姿勢を変えないといけないじゃないですか。

例えばちょっとセクシーな女の子を描いている作家さんって、人が見たらアウトではないだろうって絵を描いたとしても、ロボットによってNGと判定されてしまったりしますよね。

アルゴリズムが変わったその日から、数字がガクンと落ちてしまうって事例を僕も見てきているので。

それまでめちゃくちゃ伸びていたとしても、数字が急に5分の1くらいになってしまうみたいなことがあるので。

だから大事なのは、クリエイターとして長く、できるだけしっかりと活躍するために、そういった変化に対応する準備をしておくってことですね。

ちょっと悪い言い方になるかもしれませんけど、不満を言い始めたら終わりです。クリエイターで、プラットフォーム側の仕様について不満を言い始めたら、成長が止まってしまうと思います。

息の長い作家さんほど、そういう仕組みに対して不平不満を言わないんですよ。その仕組みに合わせて自分が変化していける人じゃないと、どんどん生まれてくる若い才能と戦えないですよね。

この間、若い作家さんと飲みに行ったんですけど、その方はとある有名なアーティストさんのMVを19歳のときに作ったんですよ。

「なんでそんなことができるの」って聞いたんですけど、その方はそれまでそんなに絵を描いてなかったらしくて。

でも、あるとき、『君の名は。』を映画館で観て、それに感動してアニメーションを描き始めて、アーティストさんの目に留まって、MVを描いて、今は個展を開くくらい。

びっくりしちゃいますよね、僕の半分の年齢ですよ。

知り合う前からその子の作品を見ていて、本当に感性がすごいなと思って、 どんな人が描いてんだろうなって思ったら、もうすごい若者でしたね。

そういう若い作家さんがどんどん出てくるんですよ。はっきり言ってしまうと、 僕みたいなおじさんって、頑張ってももう伸び代がそんなにないんですよね。

これからそのセンスを鍛えようと思っても、 若い作家さんが持って生まれたセンスと戦えないんですよね。

そこはもう認めないといけなくて、じゃあ、どうやって戦っていくかって言ったら、もう今ある仕組みに合わせて変化していくしかない。

そういう動きをしていかないと、若い作家さんには絶対勝てないですね。

ーー大人として社会を経験している立場からの考え方ですよね。

ぬこー:個人的に僕は、福田ナオさんという作家さんがめちゃくちゃ好きなんですよ。

御社のインタビューの記事も読んで、彼も若いんですよね。若手なんですけど、自分が持っているものをしっかり表現できていて、爆発力のある漫画を描くんですよ。

ーーすごく素敵ですよね。Twitterで絵日記漫画を描かれている方なんですが、日常的な出来事をおもしろおかしく描く力がすごい方だなと。

ぬこー:とても洗練されているんですよ。もう表情がめちゃくちゃいいんですよ。

漫画ってキャラクターの表情がとても大事で、福田ナオさんの描く表情って毎回シンプルなんですけど、最適解なんですよ。

何で毎回こんなに最適解を出せるんだっていうくらい、最適解を出すんですよ。

それを見るたび、最初は嫉妬が先に来ていたんですが、最近はもう単行本を出されたとき、紙の本を買いましたからね。

僕はいつも電子なんですけど、本当に好きな作品だけ紙を買うんですよ。もうあれだけは絶対に紙で読もうと思って、Kindleではなく紙の本で読みました。

ーー素敵なお話です。

ぬこー:めちゃくちゃ面白いので、ぜひみなさん読んでみてください。本当に最高です。

ネットでの反応とどう向き合うか

ぬこー:でも、今はこんなふうに話している僕も、最初は新しい文化に否定的なタイプだったんですよね。

「面白いサイトがあるよ」って言われても、「こんなの流行らねえよ」と拒否したりしていて。

ーーそうなんですか。そんなぬこーさんが、今のような活動をするようになったきっかけって?

ぬこー:当時は20代前半くらいだったんですけど、少しツンツンする感じの世代じゃないですか。

ちょっと大人になって、自分で使えるお金が増えてきて、妙に万能感を得るみたいな。

そういうとき、自分の価値観が最上だというふうに思い込んじゃっていたのかなと。

ちょうどそのとき、ニコ動(ニコニコ動画)が流行り始めたんですけど、コメントが流れるからなんだよみたいな感じで、斜に構えていましたね。

でも結局、新しいものを使わないと自分はどうにもならないんだって気づいたので、 それから考えを改めました。

ーーこれからぬこーさんみたいに個人で新しいサービスを使って戦っていこうという作家さんは、どういうことに気を遣っていくといいですかね?

ぬこー:さっき話したように、自分がコントロールできないものに対して不平不満を言い出したり、言わなくてもそれを思ってしまったりっていう時点で、個人のクリエイターとして活動するのは難しいと思うんです。

だから、常にあらゆることの責任は自分にあるっていう考えを持っておくのが大事ですね。

編集さんと一緒であれば、編集さんがうまく指導してくれたりとか、軌道修正してくれたりとかするんですけど。

個人でやる場合は、そういう人間が誰もいないので、自分で自分をマネジメントしかないといけないんです。

ーー個人のクリエイターの場合、ネットでの反応を見て求められている作品を出していく必要がありますが、そういうふうに届く意見って玉石混合だと思うんです。それこそ、誹謗中傷みたいなものもあったりとか。

ぬこー:ありますね。読者さんからいろいろ意見をいただくとき、感情抜きでちゃんと聞き取れるかどうかってすごく大事だと思うんですよ。

人間なので、批判的なコメントがあると、やっぱり「この野郎!」みたいな気持ちが出てくるじゃないですか。

そういうとき、「俺はこういう理由でこう描いたんだよ」みたいに言い訳したくなっちゃったりすると思うんですけど、そういうときに感情を抑えて「こう思う人もいるんだな」と捉えられるかどうかってすごく大事で。

感情で反発してしまう作家さんも多いんですが、読者さんからいただく意見っていうのは、ちゃんとフラットな状態で受け入れないとまったく意味がないので。

特に否定的な意見のほうは、そういう意見をくれた人たちが悪い思いをしないようにより配慮できないか、常に考えていく必要があるかなと。

もちろん、配慮しすぎてしまうと作品に影響が出てしまうんで、そのバランス感覚が大事なんですけど、それをうまく保った状態で受け止められるといいですね。

そもそも自分の作品に否定的な意見を持ってる人たちって、そもそも好きだったからこそ、裏切られたと思って言う人が多いと思うんですよ。

でも、何かしら思うところがあったからそういうふうに言ってしまうわけで。

だから、自分の作品に関心を持ってくれているわけなので、そういった人たちを味方にできるような立ち回りをできるとめちゃくちゃ強いなと思います。

それはSNSを使っている作家さんの最大の利点とも言えますよね。個人の作家さんにとって、そういう動きがちゃんとできるかどうかは、大事だと思います。

どこから読んでも面白くする

ーーでは続いて、視聴者の方から届いたコメントを拾っていければと思います。

質問1、「ストーリー漫画が好きな私には辛い時代ですが、これをどうするかの意見も聞きたいです」。

先ほどの、Kindleインディーズマンガだと短編集のような形のほうが向いているというお話に関連した質問でしょうか。

ぬこー:これは多分、ストーリーの立て方にもよると思うんですけど、章ごとに途中から読んでもおもしろくなるような構成を目指せばいいと思います。

『ONE PIECE』って、いきなりワノ国編から読み始めてもすごくおもしろいと思うんですよね。

そういう構成にできると、Kindleインディーズマンガでも成功するようなストーリー漫画になるんじゃないでしょうか。

ーー『ONE PIECE』だと、主要なキャラクターがすでに認知されているから読みやすかったりするのかなと思いつつ、章ごとにそこから初めて読む人でも読み進められるような導入を作れたらいいんじゃないか、というお話ですかね。

ぬこー:そうですね、『ONE PIECE』はそもそもキャラクターデザインが、どんな感じの人なのかすごく分かりやすい漫画だと思っていて。

要は見た目がそのままキャラクターの性格を表しているというか、見た目から想像がつかないような性格をしているキャラはあまりいないので、説明が少なくても読みやすいんだと思います。

そういった部分で工夫をするという方向性もあるんじゃないでしょうか。

ーー世界一売れている漫画と同じことを、と言われるとなかなか難易度が高い気もしつつ、そういう工夫ができるといいと。

ぬこー:でもこれはKindleインディーズマンガとか関係なく、ストーリー漫画を描く作家さんはみんな考えていかなきゃいけない課題なんだろうなと思います。

どこから読んでも面白くなるように作るっていうことですね。一番すごいのは、『DRAGON BALL』だと思います。『DRAGON BALL』って、本当にどこから読んでもおもしろいんですよ。

幼少期編を読んでいない人でも、ラディッツ襲来あたりから読んでもめちゃくちゃおもしろいし、なんならフリーザ編から読んでも超おもしろいっていう。

ーー名作の条件の一つなのかもしれないですね。

Kindleインディーズのランキングに入るには?

ーー続いて質問2、「自分もインディーズに出しているんですが、ランキングに入らないと気づいてもらえない感じです。ランキングに入るコツとか、読んでもらえる方法を知りたいです」。

ぬこー:本当に単純なんですけど、「続きが気になる」って思ってもらえれば、必ずダウンロードしてもらえるんですよ。

もう大前提なんですけど、おもしろいものを描くことが当たり前に大切です。その上で、続きが気になるものにできれば、たくさんダウンロードされて、ランキングに入れると思います。

無料な上に、Kindleは本を読むのにみんな使ったことがあるような有名なプラットフォームなので、ダウンロードするハードルはかなり低いんですよね。

だから、もしめちゃくちゃおもしろいものを描くのは苦手だったとしても、そこそこおもしろいものを描いて、SNSで作品の一部を公開してみて、それがちゃんと続きが気になるものになっていれば、そこから必ずダウンロードしてもらえます。

逆に言うと、ダウンロードされなかった場合は、そもそも作品自体に興味を持ってもらえていない可能性が高いので、作品のほうを考えていかないといけないと思います。

矢薙先生という作家さんがすごく上手にやってらっしゃって、よくKindleインディーズのトップになっているので、参考にされるといいかもしれません。

ーーとにかく少しでも気になるような作りにできれば、読んでもらえると。

ぬこー:はい、だからTwitterなどで小出しする際は、特に最初の4ページがすごく大事です。

僕の漫画、特にシリーズの続きものを描き始めるときは、最初の4ぺージでその作品のおもしろさが分かるような作りにしようと努力しています。

10ページぐらい読まないとおもしろさが分からないような作品だと、読者からするとストレスになっちゃうので、SNSを主戦場にする場合は難しいと思います。

スマホやPCでネットサーフィンしていて、もっと簡単に楽しめる娯楽に溢れているなかで、10ページも漫画を読むのって結構な時間のロスですからね。

だから、4ページ目まで読んでおもしろくなかったら、 5ページ目は開かない人が多いと思います。

苦労した思い出はネタになる

ーー続いて質問3、「先生がブラック社畜時代に、就業時間と創作活動のそれぞれの時間、配分をどんな感じで取っていたか知りたいです」。

ぬこー:漫画にも描いているんですけど本当にブラックで、就業時間は大体お昼から夜の9時くらいまで。

ただ、終業後も掃除をしなければいけない決まりになっていて、結局終わるのが10時半とかなんですよ。

しかも、職場が家から遠かったので、帰宅すると11時半くらいになっていて、そこからご飯を食べるのでフリーになるのは12時くらい。

そこから頑張って朝の4時くらいまで漫画を描いて、4時になったら眠くなって寝るみたいな感じでしたね。

それで、10〜11時ぐらいに起きるみたいな。当時は漫画を描くのがすごくおもしろかったんですよ。やっぱり久しぶりに描いていたんで。

『#09 2876日後に洗脳が解ける社畜: ブラック企業編 ぬこー様ちゃん絵日記集』より引用。作品のリンクは記事下です。

ぬこー:すごく楽しくて、FXとブログと漫画を同時並行で、もう時間を忘れて一生懸命やってましたね。

だから、朝4時に寝るっていうよりは、気づいたら眠くなって寝ちゃっていたみたいな感じで、大体机で寝てました。

本当にすごく腰が痛かったのを覚えています。

ーーなかなかハードな生活ですね。しかし今は、そういったブラック企業勤務時代の経験をネタとして活かし、漫画に描いていらっしゃいます。

ぬこー:そうですね。皆さんもそうですけど、苦労した経験って財産になりますよ。

ちょっと言いにくいというか、時代に逆行していると思われるかもしれないですが、苦労した経験は本当に財産になったなと思います。

だから作家としては、苦労はしたほうがいいぞと言いたいです。当時、さまざまな理不尽な出来事があったからこそ、今は本当にすべてのことが大体楽しいです。

それに今の世の中って、自分の悩みについての情報を共有するだけで、いろんな人にありがたがられたりするじゃないですか。

だから、今どん底にいる方とかは、その情報は今後どこかで価値を持つと思うので、忘れずにしっかり覚えていてほしいです。

おまけ:新車を買いました

ーー続いて、「支出はどうですか」。前回の記事でも、税金とかについてちょっとお話しされていましたが。

ぬこー:税理士さんから車を買えと言われていたんですが、実はー昨日に車を買ったんですよ。

ーーええ〜!

ぬこー:ちょうど箱根ヒルクライムの帰りに近所のカーディーラーに電話して、「すいません、今からいいですかね」って。

そこのカーディーラーさんは19時までしか開いていないんですけど、 「いいですよ」って言ってくれたので21時ぐらいまでいて、車とオプションを選んで、一括でバチーンと買いました。

ーーすごく思い切りがいいですね。

ぬこー:とにかく税金って収入が上がるほどうなぎ登りで上がっていきますし、漫画家という職業なので、作品に活かせることであればとにかく経費として使ったほうがいいとその税理士さんにも言われて。

皆さんがたくさん漫画を読んでくださったおかげで買えました。僕、新車を買うのは初めてなんですよ。

そんなに高い車とかじゃなく、いわゆるファミリーカーみたいなやつを。自転車を積みやすいところが気に入って。

本当は税理士さんには、中古車を買うように言われていたんですけど。中古車だと、減価償却が2年でいけるからって。

でも、欲しい車が中古で見つからなかったんで、「新車買います」って言って。

ーーいいですね。最後に、ぬこーさんから聴きに来てくださった方に向けて、告知などがあれば。

ぬこー:とにかく、これからもクリエイターさんの助けになるような情報を発信していけるように頑張っていきますので、 末長くよろしくお願いいたします。

僕、一応リプライも全部見ようとはしているんですけど、最近見切れていなくて。

DMに関しては多分9割くらいは返事をしているので、何かあればそちらからご相談ください。よろしくお願いいたします。

ーーそれではありがとうございました。おやすみなさい。

ぬこー:おやすみなさい、失礼いたします。

ぬこー様ちゃん 漫画家。商業出版での代表作は『人見知り専門家庭教師坂もっちゃん』『専門学校JK』など。現在は主にTwitterで絵日記漫画を描く活動をしており、シリーズごとにKindleインディーズマンガで無料本として配信している。

ぬこー様ちゃんさんのTwitterはこちら。
https://twitter.com/nukosama

ぬこー様ちゃん絵日記集(全19巻)のダウンロードはこちらから。全部無料で読めます!

さいごに

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