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Amazonで無料本が150万回DLされると、漫画家の生活はどう変わる? Kindleインディーズマンガの成功事例

今年3月より、Kindleインディーズマンガ(以下、Kindleインディーズ)で絵日記漫画の無料配信を始め、150万回以上ダウンロードされたというぬこー様ちゃんさん。

今、ネットで最も注目を集めるクリエイターの一人です。Twitterでは、30万人以上にフォローされています。

ご自身の体験がキャッチーかつ分かりやすく描かれる絵日記漫画は、思わずぐいぐいと読まされてしまう魅力があります。

『#07 100日後にオフパコされる話: パコおじ編 ぬこー様ちゃん絵日記集』より引用。無料で続きが読めるリンクは記事下です。

そんなぬこー様ちゃんさん、Twitterではお金の話なども結構オープンにお話しされているのですが……。

Kindleインディーズで絵日記漫画がヒットしたことで、どうやらかなりの収入があった様子です。

これはぜひ話を伺いたいと、筆者がダメ元でDMしてみると、「いけますよ!!!」と勢いよく快諾してくださいました。やさしい。

というわけで、前後編でぬこー様ちゃんさんのインタビュー記事をお届けします。

後編では、Kindleインディーズでの作品の無料配信を始めた当初の狙いから、本人も予想外だったという結果が出るまでのお話を、具体的にお話しいただきました。

▼前回の記事:記事の前編はこちら。

▼告知:10月3日(月)21:00〜 Twitterスペースで公開インタビューを配信します。配信は無料、後日公開のアーカイブ記事は有料です。詳細は記事下にも記載しております。

▼おすすめ:ぬこー様ちゃん絵日記集 最新「#11 何度も血祭りにあげられるイラスト窃盗犯: バーサーカー編」が配信中

Kindleインディーズマンガを始めた狙い

ーーここからはもう少し踏み込んで、お金の話をお聞きしていきたいです。Twitterのフォロワー数が増えたことで、入ってくるお金の面ではどのような変化がありましたか?

ぬこー:僕の場合はPR案件の漫画を描いているんですけど、これは他の同じような仕事をしている作家さんもそうだと思うんですが、フォロワー数が多くなればなるほど、一回あたりの単価が上がっていくんです。

今のフォロワー数は30万人くらいなんですが、7万人のときと比べると、3〜4倍くらいの単価を提示されるようになりました。

企業の人も、フォロワー数だけじゃなく、アクティブなユーザーがどれくらい付いているかを見ているんですが……。

とはいえフォロワー数が多くてマイナスな要素はないというか、こちらとしても金額の交渉をしやすくなります。

僕の場合は、自信を持って単価を上げてほしいと伝えられるようになったので、PR案件を受けるのであれば、現状では、フォロワー数が多いに越したことはないと思います。

ーーPR案件の単価にがっつり効いてくるんですね。

ぬこー:そうですね。Twitterのフォロワー数は、PR案件の単価が上がればいいなという気持ちで増やしてきたんですけど……。

そこから発展して、僕はKindleインディーズに目を付けたんですよ。というのも、Kindleにも作家をフォローする機能があって。

何を考えたかというと、Kindleインディーズで無料の本をたくさん配って、たくさんの人にフォローしてもらったら、いつか商業で作品を出したとき、自分の本がおすすめされやすくなるんじゃないか、という仮説を立てたんです。

ーーじゃあ最初は、分配金(※編注:Kindleインディーズでは、作品のダウンロード数に応じて、印税の代わりに「インディーズ無料マンガ基金」から著者にお金が支払われる)を狙っていたわけじゃなかったんですか?

ぬこー:そうなんです。

正直、Unlimited(編注:正式名称はKindle Unlimited。個人で電子書籍を出版でき、印税も支払われる)でやっても良かったんですけど、Amazonのなかでのフォロワーを増やすなら、インディーズのほうが向いていたんですよね。

いつかまた、僕が商業漫画を描くことになったとき、やっぱり打ち切られたくないので、Amazonという一番大きなマーケットでフォロワーが多いことは、作家として一つの価値になるんじゃないかと考えたんです。

そうすると、編集者さんも僕を使うメリットが出てくるから、強みになるはずだと思って。

「予想していなかった」 Amazonからの収入が爆伸び

ーーかなり戦略的というか、仮説ありきでKindleインディーズに飛び込んだんですね。その結果、今ではかなりの収入につながっているように見受けられます。

ぬこー:先ほどもお話しした通りで、最初はインディーズの分配金のことは特に当てにしていませんでした。

していなかったんですけど、今となっては結構すごい金額が入ってくるようになりましたね。

僕が初めてKindleインディーズで本を出したのって、3月24日なんですけど、それからたった2〜3日くらいで2万回くらいダウンロードされて、19万円くらい入ったんですよ。

その後、4月は何も出さなかったんですけど、放置しているだけで8万円くらい入ってきて。

それからどんどん本を出していくうちに……ちょっとここは出しづらいんですが、結構な金額が入ってきて。

ーーあまり露骨な書き方はしませんが、ぬこーさんのTwitterの投稿を読んでいると、大体の金額が分かってしまいますね。

ぬこー:結構、オープンに書くようにしているんです!

しかも僕の場合、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しているので、アフィリエイトの収入もあって。

読者さんが僕のリンクから本を無料でダウンロードするついでに、Kindleの他の本を購入すると、僕にお金が入ってくるんです。

それだけでも、毎月バカにならない金額が入ってきます。

3月からKindleインディーズで作品を投稿し始め、先月くらいから、毎月の売り上げも安定してきました。

これ、ちゃんと徹底してやれば、他の作家さんも近い数字を出せると思うんですよ。

ーーKindleインディーズの作品が読まれることで、分配金も入ってくるし、アフィリエイト収入にもつながっているんですね。しかも、ぬこーさん的には、再現性のあるノウハウがあると。

ぬこー:AmazonさんはKindleインディーズの分配金をどんどん増やしていて、それまでは毎月1,300万円だったんですが、最近、2,000万円になって。

サービスの利用者が増えるほど、分配金を増やしてくれているんですよね。

ーーネットでは、分配金が急に700万円も増えたのは、ぬこーさんの漫画が読まれまくったからではないかという憶測が流れているのも見かけました。

当時は、ぬこー様ちゃんさんが「オフパコ編」シリーズを連載していた時期でした|『#07 100日後にオフパコされる話: パコおじ編 ぬこー様ちゃん絵日記集』より引用。作品のリンクは記事下です。

ぬこー:とはいえ、この分配金はいつまで出るのか分からなくて、急になくなる可能性もあります。

今は安心して続けられますが、2〜3年後も続いているかは分からないから、新しい取り組みをしていきたいなと考えていて。

今後は例えば、Unlimitedでの個人出版を試すために、Kindleインディーズでのノウハウを本にしてUnlimitedで出し、Kindleインディーズとどれくらい差が出るのかを検証したりしたいなと考えています。

ーーすごい、どんどん新しいやり方を試しているんですね。

ぬこー:だいぶ、ハイになっていますね!

「商業誌じゃなくてもいい」 クリエイターの選択肢の広がり

ーー3月以前だと、PR漫画が収入の軸だったのでしょうか?

ぬこー:そうですね。商業連載が完全になくなったのが2年前で、そこからはほとんどPR漫画と単発のお仕事です。

実は、僕の収入って、今のようにKindleインディーズが上手くいく以前はずっと横ばいで。

副業で漫画家をやっていたときも、専業で連載していたときも、3〜4本の連載を並行してやっていたときも、PR漫画だけになったときも……入ってくる額はほとんど変わらなかったんですよね。

それで思ったんですけど、漫画家って無理に連載をしなくていいんじゃないかと。

むしろ漫画家にとって、連載が足枷になっている場合も多いんじゃないかと考えています。

ーーそれは具体的には、どういうふうに?

ぬこー:商業誌ってやっぱり、作画をしっかりやらないといけなくて、そうするとアシスタントを雇うコストがかかるじゃないですか。

そうすると、あるラインを越えればめちゃくちゃ儲かるんですが、そのラインを越えるまでがかなり大変です。

しかも、そのラインを超えられず、何も結果を出せなかったとき、作家の手元に残るものがとても少ないように感じていて。

それに、商業でそのラインを超えられる人なら、一人でやっても結果が出るパターンは多いんじゃないかなと。

ーーさまざまな事例を分析してみないことには、肯定も否定もできないですが、そういったやり方のほうが肌に合うというクリエイターさんは、たくさんいると思います。

クリエイターエコノミーの発展によって、まさにそういった選択肢が増えていて、クリエイターの方々が、より自分に合ったやり方でお金を稼げるようになっているのは、とても良いことですよね。

ぬこー:そうですね。

去年、本当にお金がなくて大変だという作家さんがいて……長い間、とてもお世話になっている方なんですけど。

昔はめちゃくちゃ売れていて、何も困っていなかったけれど、気づけば収入がほぼゼロになっていたと。

その人はすごく絵が上手くて、しかもニッチなジャンルの絵を描ける人だったので、ファンティアをやったらいくらでも稼げるんじゃないかと言ったら……本当にめちゃくちゃお金が入ってくるらしいんですね(笑)。

最近は楽しくてしょうがないみたいです。

ーーめちゃくちゃ素敵な事例ですね。

ぬこー:そういう人たちが、必ずしも商業出版に頼らなくていいように、僕にできる範囲でノウハウを伝えていけると良いなと考えています。

とはいえ直近だと、今年は収入がバコーンと上がってしまったので、ちょっと税金対策を……。

最近は、毎年お願いしている税理士さんに、「中古車を買いなさい」と言われます。新車は5年かけて減価償却しないといけないんですけど、中古車は2年でいいんだそうです。

そうは言われても、良い車を買ったら、事故に遭ったときにもったいないよなと思ったり。

でも、そういった体験も、また絵日記漫画にしていけたら良いですね。

というわけで、ぬこー様ちゃんのインタビューでした。

ネットで漫画を投稿されている方にとっては、かなり参考になる事例だったと思います。

「とにかく作品を出せば出すほど結果が付いてくるので、最近は楽しくて仕方がない」と言ってらっしゃったのが印象的で、落ち着いた口調でありながら、熱のこもった語り口でお話しいただけました。

あと、取材中にぬこーさんの肩に飛び乗ってきた猫ちゃんがかわいかったのでとても良かったです。

さいごに

10/3(月)21:00〜 Twitterスペースで公開インタビュー!

取材後、Amazonでますます漫画がダウンロードされ、勢いが止まるところを知らないぬこー様ちゃんさん。

新企画「#クリエイターエコノミーラジオ」にて、Twitterスペースでの公開インタビューの配信を行います。

当日は、Kindleインディーズマンガで「これをやったらうまくいった」という話や、個人クリエイターとして作品でお金を稼ぐことについての話を伺う予定です。

配信は無料ですが、アーカイブは後日、有料記事として公開されます。

ぜひお聴き逃しのないよう、クリエイターエコノミーラボのTwitterアカウントをフォローのうえお待ちください。

また、今後もクリエイターの方々にとって参考になるような記事を発信していくので、ぜひnoteでもフォローして更新をお待ちいただけると嬉しいです。

話を聞いた人

ぬこー様ちゃん 漫画家。商業出版での代表作は『人見知り専門家庭教師坂もっちゃん』『専門学校JK』など。現在は主にTwitterで絵日記漫画を描く活動をしており、シリーズごとにKindleインディーズマンガで無料本として配信している。

ぬこー様ちゃん絵日記集(全11巻)のダウンロードはこちらから。全部無料で読めます!

ぬこー様ちゃんさんのTwitter
https://twitter.com/nukosama

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