国体出場、ブラック企業勤務、株で大失敗…からの漫画家デビュー 絵日記150万DLで話題のぬこー様ちゃんに聞く、日々の生活と作品づくり
今年3月より、Kindleインディーズマンガ(以下、Kindleインディーズ)で絵日記漫画の無料配信を始め、150万回以上ダウンロードされたというぬこー様ちゃんさん。
今、ネットで最も注目を集めるクリエイターの一人です。Twitterでは、30万人以上にフォローされています。
ご自身の体験がキャッチーかつ分かりやすく描かれる絵日記漫画は、思わずぐいぐいと読まされてしまう魅力があります。
そんなぬこー様ちゃんさん、Twitterではお金の話なども結構オープンにお話しされているのですが……。
Kindleインディーズで絵日記漫画がヒットしたことで、どうやらかなりの収入があった様子です。
これはぜひ話を伺いたいと、筆者がダメ元でDMしてみると、「いけますよ!!!」と勢いよく快諾してくださいました。やさしい。
というわけで、前後編でぬこー様ちゃんさんのインタビュー記事をお届けします。
前編では、Twitterなどのネットを主戦場にする作家としてのご活動について、詳しく伺いました。
▼告知:10月3日(月)21:00〜 Twitterスペースで公開インタビューを配信します。配信は無料、後日公開のアーカイブ記事は有料です。詳細は記事下にも記載しております。
▼続きの記事:記事の後編はこちら。
▼おすすめ:ぬこー様ちゃん絵日記集 最新「#11 何度も血祭りにあげられるイラスト窃盗犯: バーサーカー編」が配信中
Twitter漫画家の日々のスケジュールって?
ーー今日はよろしくお願いします。ぬこー様ちゃんさん、とお呼びすれば良いですかね……?
ぬこー様ちゃん:ぬこーさんとか、いろいろ呼ばれますね!
ーーそれでは、ぬこーさんとお呼びさせてください!ぬこーさんみたいな絵日記漫画を描く作家さんって、普段はどんなスケジュールでお仕事をされているのでしょうか?
ぬこー:今は大体、朝8:00に起きています。ゴミ捨てをしないといけないので。
それから大体2時間くらいぼーっとして、猫の世話をしたりとかして、仕事をし始めるのが10:00ですね。
ーー結構、朝早いんですね。漫画家さんってもうちょっと不規則な生活をされている方が多いイメージがあります。
ぬこー:もともとはもっと早かったんですけどね。
その後は13:00くらいまで、2〜3時間くらい仕事をします。今はPR案件を受けているので、そのネームを進めたりとか、打ち合わせとかですね。
それからお昼ご飯を食べます、外食が多いです。家に帰ってからは、1時間くらい昼寝をして、そうすると15:00くらいになるので、そこから一息ついて、また1時間くらい仕事をして。
毎日16:00になったら絵日記を描き始める。毎日できるだけ16:00にスタートして、2時間以内に描き終えて、投稿したら後は運動するのみ。
22:00くらいまで、少なくとも2時間、多いと3〜4時間くらい運動をして、そこから晩酌をしたりするので、そういう日だと寝るのは1:30とか。
それで一日が終わって、また8:00に起きます。
ーーめちゃくちゃ運動しますね!ジムなどに通っているんですか?
ぬこー:基本的には家のなかでやっています。ジムも契約しているけど、月に数回しか行かないですね。
ーーそうすると毎日、規則的に生活している感じですか?
ぬこー:そうですね、ゲームをほとんどやらなくなったので。
最近やっているZwift(※編注:屋内用のサイクリングアプリ。専用デバイスに接続した自転車がコントローラー代わりになる)がゲームと言えばゲームだけど。
去年か一昨年まで、必ずハマっているゲームがあったんですけど、ゲームの虚無感を一通り味わい尽くしたというか……。
やればやるほど虚しくなるようになっちゃったんです。それからは、Zwiftか、アプリでポーカーをやるくらい。
ーーちなみに休日とかってあるんですか?
ぬこー:休みの日みたいなものはあまりなくて、大体、今お話ししたような生活を毎日、規則正しくやっています。
仕事が少ない日には、ついでに遊びに行ったりしますね。
明日なんかはちょうど、お昼から取材があるから、午前中のうちに絵日記を描いてしまって、取材の後に漫画家の友だちと夜まで遊ぶ予定です。
商業誌での挫折から、SNSを主戦場へ
ーー絵日記は、毎日投稿をしている?
ぬこー:これは、そういう縛りでやっているというよりは、楽しみだからやっている感じですね。
最初は億劫だったんですよ。毎日投稿を続けようとして何回も失敗して、今は5〜6回目のチャレンジです。
なんで続いたかというと、単純に反応が良くなったので、それが嬉しくて描いています。
ーー楽しくて毎日どんどん描いちゃうとなると、最強ですよね。
ぬこー:この流れを止めないようにしないと、と思っています。
海面に例えると、大きく荒れたりせず、ずっと程よいさざ波が続くようなイメージというか。
ーーTwitterで漫画を読んでもらう上では、やっぱり毎日投稿をするのが良いんでしょうか?
ぬこー:商業誌の週刊漫画とかだと、1週間に一回、読者とコンタクトがあるわけですけど、SNSを本拠地にしている作家からすれば、読者との接点が週1回くらいだと、どうしてもインパクトが弱いんですよね。
商業誌で戦っていて、毎週バチッとホームランを打ってくる、才能ある若者と渡り合っていくには、それくらいしか勝てる見込みがないですよね。
とにかく数を打つしかないと思います。そういう意味で、確実にSNSという打席に立ち続けることを心掛けているというか……。
僕は商業誌で何回か連載したんですが、どれも打ち切りになって、もう40歳で、自分の限界を感じているんです。
商業連載が続かない原因は、僕が他の才能ある作家と比べて、話を膨らませるのが下手すぎるからなんですけど。たくさんのキャラを動かすのって、しんどいんです。
そうなると、自分視点で、自分の周りの出来事だけを描いていくやり方が向いているんじゃないかと考えて、絵日記に辿り着いたんですよね。
ーー背景として、商業誌で挫折した経験があったと。
ぬこー:本音としては、商業で売れたいですよ!
王道の漫画家として、何度も重版されて、自分の漫画がアニメ化されて、放っておいてもお金が入ってくるような状況で、遊んで暮らすのが理想なんです!
それが一番の理想なんですけど、ちょっと難しそうなんですよね。
小6から毎月、十数ページの漫画を投稿
ーーぬこーさんが、漫画を描くことを仕事にするまでの経緯をお聞きしたくて。もちろん、ご自身の漫画で散々、描かれているとは思うんですけど。
ぬこー:いえいえ。もともと小学生2〜3年生のときから漫画家になりたくて、中学1年生のときに諦めたんですよね。
ーーいきなり諦めた話になっちゃった!
ぬこー:漫画家になろうと思ったのは、母親に塗り絵を褒められて、絵を描くのが好きになったことがきっかけです。
当時は『ドラゴンボール』が流行っていて、その影響も受けました。
それで、小学校6年生のときに「ガンガン」(月刊少年ガンガン)に漫画の投稿を始めて、何回原稿を送っても反応がないので、中学1年生のときに心が折れたんです。
当時は毎月十数ページくらいを描いて送っていました。家にコピー機などもなかったので、描いた原稿をそのまま送ると手元に何も残らないのも辛くて……。
我が子を送り出して何も音沙汰がない状態が2年くらい続いて、向いてなかったんだなと思い、やめたという感じです。
ーーそこから、水泳にハマるんですか?
ぬこー:そうですね、中学生のときに中国地方の強化指定選手になったり、県の代表として国体に行ったりとかしていたんですけど。
ーー水泳は漫画を諦めたタイミングで、次の楽しみとして見つけたような感じですか?
ぬこー:ちょうど漫画を諦めた頃、成長期で、身長がすごく伸びたんですよね。
体格が良くなったことで、水泳の記録もすごく伸びて、調子に乗りやすいタイプなので、頑張ってやっていたら、思いのほか結果が出た感じですね。
その後は、水泳のコーチとしてブラック企業で働くんですけど、一発逆転しようと株に手を出し、失敗して2年分の貯金を全部失って、その体験談をブログで漫画に描いたんです。
株ですべてを失ったとき、「自分にあるものはなんだろう」と考えて、そういえば漫画が描けるなと思い出したんですよ。
それが結構読まれて、アフィリエイトの収益が入ってきたんです。初めて漫画でお金を得たのが、そのときですね。
ーーちなみに当時って何歳くらいですか?
ぬこー:26歳くらいだったと思います。
それからはすぐ同人活動のほうに行って、気づいたら商業の漫画も描いていて……というふうに、2〜3年ごとくらいに、やることが変わっていった感じですね。
基本的には同人活動がメインで、商業誌は年に1回くらい持ち込みをするかしないかくらいの感じ。でも、持ち込みからは芽が出ませんでした。
2013〜2014年頃、めちゃくちゃ4コマ漫画を描いていた時期があって。
当時は4コマ漫画を1ページ分、なので2本、毎日描くと決めて描いていたんですけど、それを見てくれたとある出版社の方が声をかけてくれて、そのまま商業デビューしました。
ーー当時はすでに絵日記漫画も描いていたんですか?
ぬこー:今思い出したんですが、並行して絵日記も描いていましたね。そう考えると、絵日記を描き始めてから結構長いですね。
当時は同人誌のプロモーション目的で、自分の作品を登場させる絵日記を描いていました。
同人誌って、普通に描いて即売会で並べるだけじゃ買ってもらえないので、会場の自分のスペース番号を宣伝するような漫画を描いたりとか。
と言っても、今ほどたくさんの読者がいるわけではなくて、Twitterのフォロワー数は1,000人くらいでしたね。
ーーちなみに、漫画家として食べていこうと決めたタイミングとかって、あったんですか?
ぬこー:どうなんでしょう。いつも流れに身を任せているので。
もともとなりたかった職業ではあったし、少し良い感じの結果が出たので、行けるところまで行きたいなという思いはありました。
今も、その延長線上だと思います。
Twitter漫画は「読者のツッコミ」がセットのエンタメ
ーーここから、ぬこーさんが作品づくりをする上で大切にしていることをお聞きしていきたいです。
ぬこー:とにかく大事にしていることが一つあります。
僕が参考にしている漫画として、クソヤザさんという方の、『クソ漫画ぶくろ』という作品があって、これが僕のバイブルなんです。
※『クソ漫画ぶくろ』はニコニコ静画で無料で読むことができます
ぬこー:この漫画は、本当にネタがくだらない(笑)。
めちゃくちゃ馬鹿馬鹿しくて、とことんくだらないんですけど、そんなネタを無理矢理にでも面白くなるように描いているのが良いなと思っていて。
僕は絵日記漫画を描いているわけですが、そう毎日、面白いことが起こり続けたりはしないんですよ。
だから、「なんてことない出来事であっても、面白く読めるように描こう」と心がけているんです。
嘘を描いたらダメなんですけど……こういう見せ方をしたら面白いよね、みたいに考えて、毎日描いています。
ーーぬこーさんの漫画を読んでいると、パンチのあるエピソードももちろん面白いですが、日常的な出来事もキャッチーな切り口で描かれているなといつも思います。
絵日記漫画について、手応えというか、反応はどのように確かめているんでしょうか?
ぬこー:読者さんからの反応はすごくよく見ています。
Twitterで投稿した後、いいねの数、リツイートの数、リプライの数を見ていて。
それぞれの数をどう見ているかというと、まず、いいねの数が、毎日楽しみにしている読者の数だと思っています。
また、リツイートは積極的に布教したいと思っている人の数。リプライは、増えるにしたがってリツイートが増えるという数です。
そのなかで僕は特に、リプライが多くなるような作品づくりをしていて。どういうことかというと、最後のツッコミを読者さんに任せるようにしているんです。
ーーああ、なるほど、面白いですね。
ぬこー:「こういうツッコミをしてほしい」と想定しておいて、読者さんがそういった反応をしたくなるようなフリを、最後のコマでちゃんとすると、たくさんリプライがもらえるんです。
その点、ツイートへのリプライが少なかったら、読んで終わりの面白くない作品だったということです。
そのような、読んだ後にツッコミをしてもらうまでがセットのエンタメになるように心がけています。
そうすると、最後の1コマがすごく大事なんです。それまでの流れが良かったとしても、最後の1コマがダメだと上手く伝わらない。
文字が多すぎてもダメだし、逆に少なすぎても伝わらなくて、ツッコミに統一感がなくなっちゃったりする。
毎回、そういった部分をしっかりと見ながら、作品に活かしています。
ーーそういったスタイルで描いているのって、いつ頃からなんでしょう?
ぬこー:割と最近で、今年3月、ちょうどKindleインディーズで無料本を配信し始めた頃ですね。
僕の漫画って、毎回、最後のコマが大ゴマなんですけど、こうすると読者さんはツッコミをしやすくて。
ぬこー:最初の頃はむしろ、小さいコマで終わる描き方のほうが多かったくらいなんですけど、これだとツッコミをしづらいと気づいて。
最後に大ゴマを持ってくるパターンだと、SNSでのウケも良く、あとはページ数も稼げるというのがあって(笑)。
理にかなっていますよね。
ーーちなみにTwitterのフォロワーが増えていったのって、どういう流れだったんでしょうか?
ぬこー:最初に増えたのが、『艦これ』(艦隊これくしょん -艦これ-)の同人誌を描いて流行ったタイミングで、そのとき一気に2万人くらいになりました。
その後、『けもフレ』(けものフレンズ)の同人誌で5万人くらいになって、さらにオリジナル漫画の『人見知り専門家庭教師坂もっちゃん』という作品を描いたんですけど、それでさらに2万人増えました。
それで、7万人くらいをずっとキープしていたんですけど、続きものの絵日記を描き始めてからは伸びがすごくて。
「ウコン編」とか「業界人シリーズ」とか「オフパコ編」とか、描くたびに毎回、数万人単位で増えていきました。
Twitterのフォロワーは、連続性のある作品を投稿したときの伸びがすごいですね。
同人誌のときは、単純にそのジャンルの人が食いついてくれて、その後は増えないんです。
普段の絵日記も、多くて100〜200人くらい増えるだけなんですけど、続きものだとシリーズごとに1〜2万人くらい増える。1話投稿するたび毎回、1,000〜2,000人規模で増えていく。
やっぱりTwitterだと、そういうものが求められているんだと思います。
◆
前編では、これまでのぬこー様ちゃんさんのご活動について詳しく伺いました。
後編では、多くのクリエイターさんが気になっているであろう、Kindleインディーズマンガで150万DLされて収入面はどうなったのか、どういうノウハウが得られたのかをがっつりお聞きしていきます。
記事は明日、公開予定です。
今後、他にもクリエイターさんにとって参考になる記事を発信していきますので、ぜひクリエイターエコノミーラボのnote、Twitterをフォローのうえでお待ちいただけると嬉しいです。
さいごに
10/3(月)21:00〜 Twitterスペースで公開インタビュー!
取材後、Amazonでますます漫画がダウンロードされ、勢いが止まるところを知らないぬこー様ちゃんさん。
新企画「#クリエイターエコノミーラジオ」にて、Twitterスペースでの公開インタビューの配信を行います。
当日は、Kindleインディーズマンガで「これをやったらうまくいった」という話や、個人クリエイターとして作品でお金を稼ぐことについての話を伺う予定です。
配信は無料ですが、アーカイブは後日、有料記事として公開されます。
ぜひお聴き逃しのないよう、クリエイターエコノミーラボのTwitterアカウントをフォローのうえお待ちください。
話を聞いた人
ぬこー様ちゃん絵日記集(全11巻)のダウンロードはこちらから。全部無料で読めます!
ぬこー様ちゃんさんのTwitter
https://twitter.com/nukosama
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