Rigel

気ままに更新します。たぶん。

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最近の記事

或る女の夜

場末のJazz Bar “Blue” ピアノ近くの席に私は居た。 つやつやと光る鉢植えのアンスリウム。花瓶の中のカサブランカが香る。帽子を目深に被った女性客がカウンターでX.Y.Z.を飲んでいる。 ピアノトリオの演奏が始まる。演者は全員男性で、ドラマーは優しくブラシを手にしている。カーヴィーなラインの美しいコントラバス。ピチカートの指。ピアニストはうっとりした表情でドラマーとアイコンタクトを取っている。 ピアニストの指が鍵盤をなめらかに滑る。別の生き物のような指だ。中指

    • セックス・アピール 〜 或る女のプロローグ

      昔、俺は香港のホテルの一室に居た。堅気ではない連中が高値で売るビデオを撮影するために。 1000HK$の束が積まれている。相手の女は金の為なら何でもするようだった。 俺達の他に、機材を持った男達が居る。女は真っ赤なベビードールを着ていた。同じデザインのブラジャーと、紐を腰の横で結ぶタイプのパンティ。 部屋は香水の匂いと煙草の香りに混じって、特有の葉っぱの臭いがした。葉っぱは女にも与えられ、それによって性欲が異常に高められている。 「モザイクは一切かけない。時間制限も設

      • セックス・アピール2

        窓際のテーブルに2人は移動し、レストランには不自然なほど近くに座った。長いテーブルクロスを女の腰に掛ける。テーブルクロスの下で、男の手は別の生き物になっていた。彼女のなめらかな太腿を這い回る。 「あんまりしないで。椅子が汚れちゃう。」彼女は濡れたような声で言った。それは彼をとても喜ばせるので、彼女は「だめよ」と繰り返した。 彼はもうとっくに我慢できなくなっている。テーブルの下に潜ってしまいたかった。彼女はそんな事は知っていて、わざとゆっくり食事をする。彼女はこのディナーを

        • セックス・アピール

          マンハッタンの摩天楼、夜景を見下ろすレストランに、ロンドンふうの英語でオーダーをする女が脚を組んで座っている。シルクのきわめて薄い黒のストッキングのシームが、太腿の裏側で少し波打っている。女の背が小さいからだ。 彼女は20歳くらい、髪は栗色で肌は黄色っぽい白のアジア人のようだった。真っ黒な瞳は大きく、ぴったりした黒のドレスが彼女のおっぱいを自慢していた。 x.y.z.を注文して、ウェイターに免許証をと言われ、彼女はかわりにパスポートを見せた。ウェイターは「失礼」と言う。

        或る女の夜

          ハンカチのお礼

          「何かお礼を」 花売り娘はそう言ってきかない。 コーヒーでも、と言うので、それくらいならと思い、僕たちは路地裏の自販機が立ち並ぶ一角まで歩いた。街はすっかり濃紺色に包まれていて、酒場に仄かに灯りがともっている。 「あら、かわいいお二人さん。」 不思議な魅力を放つ女に話し掛けられる。 「お嬢さん、悪いけれど、そのワゴンのリボン、少し分けてくれないかしら。」 「今日はもう店じまいして...それにリボンだけは売ってないんですが、お姉さんなら、特別に。」 「ありがとう、

          ハンカチのお礼

          私のこと。

          先日、病院で色情症との診断を受けました。 と言うのも、「どこも触っていないのに快感が走っておかしい。こんな事ありますか?」とのツイートに「PGADでは?」とのお返事を頂き、友人の助言もあって、心療内科に行って来たのです。 ただ単に好色な人と何が違うのかと言うと、以下の通りです。 ・平均して1日に2時間以上を性的な空想や自慰行為に費やしている ・自慰行為後の罪悪感が強い ・人間関係は円滑であるが、性が絡むとトラブルが多い(浮気など) ・普通の人が興奮を覚えないものに

          私のこと。

          ポインセチア

          「篠崎さぁん」 同性の主任が猫撫で声で近づいてくる。こういう時に次のセリフは決まってるんだ。 「今日、残業できる?」 拒否権があるなら教えてほしい。 私は煙草一本分の休憩と引き換えに残業を承諾した。 今日はクリスマスだ。 「どうやって今日中にポインセチアを売り切ろうかな。残ったら福袋行きだなぁ。」 そんな事を考えながら、コンビニの前でミルクティー片手に煙草を吸っていた。 「おねーさん、お店の人?」 「はい?」 「カーディガンにラメが付いてるから」 「ああ

          ポインセチア

          ある年のロンドンの話

          Twitterのプロフィール欄をご覧の通り、私はロンドンが好きだ。Rの発音も楽だし、人も優しい。クウォーターコインも存在しない。パリも良いけどパリより治安が良いし、言葉に困らない。 日本人が若く見られるのはもはや言うまでもない事だけれど、27歳で「何年生?」と聞かれた時はさすがに驚いた。 「日本人女性は海外でモテる説」が昔からある。私はイエスだと思う。どこの国であれ、「外国人」は多かれ少なかれ珍しい。日本人男性だって金髪美女とデートしたいと思うだろう。外国人男性だって同じ

          ある年のロンドンの話

          恋愛遍歴。

          私は文学が何かなんて分からない。語るつもりも毛頭ないけど考えちゃう性格で。妄想癖があるというか。 高校の時に本を読むのが嫌いで読書感想文を書くのに本を半分しか読めず、「半分しか読めませんでした」と書いた読書感想文を提出して担任からペラッと賞状をもらった。思春期うつで留年していたぐらいなので、どんな賞だったかなんて見もしなかった。でも誰かが賞をくれたので、多かれ少なかれ良い事を書いたのだと思う。 「あの時の賞状が原点です」と言えれば格好がつくけどそれも違う。 時が経ち、大人

          恋愛遍歴。

          花言葉

          長いこと花屋で働いていた。 ショッピングモールのテナントのひとつで、小さな店だった。 いつもカサブランカを買って行く美しい女性客が居た。領収書を書いて知ったけど、カラオケ喫茶のママだった。彼女はいつも綺麗な服を着て、お化粧を完璧にし、艶やかに微笑んでいた。いつも甘いものと飲み物を差し入れてくれ、他のスタッフも居ると私を「いつもこの子が仲良くしてくれるの」と言ってくれた。 ある日、虹色のバラが入荷した。花言葉は「奇跡」だそう。染めた花に「奇跡」だなんて、私は馬鹿馬鹿しいと

          花言葉

          雑記。

          Twitterのアカウント名を「パティシエールは魔女」としていますが、平たく言えばパティシエです。パティシエの女性形がパティシエールです。 最初は販売員として今のケーキ屋に入りました。面接の時に「いずれ工房に入りたい」と言ったら何より先に「舌を汚すな。美味いものを食べろ」と言われて驚いたのを覚えています。 パティシエは資格試験がある訳でも無く、下手すれば誰でも名乗れます。私は製菓学校は出ていません。イチゴ切ったり卵割ったりから始めました。技術が必要なので、社内試験は沢山あ

          雑記。

          BARと言えば聞こえはいいが

          バーテンと言えば聞こえはいいが。 私はまだシェイカーも振れないアルバイト。ステアなら出来る。 無口なお爺さんが私が生まれる前に始めたBAR、だけど今となっては場末の酒場だ。無口なお爺さんが唯一気に入った人間である私が、たまに手伝うだけの、吹けば飛ぶような小さな酒場。 お爺さんと会ったのは横浜駅だった。高速エスカレーターというのがあって、洒落たお爺さんが私の目の前でよろけた。危ない、と声に出す間も考える間も無く、私はお爺さんを抱き止めていた。 「いやはや、失敬。」 彼

          BARと言えば聞こえはいいが

          無神論者の恋

          モーセの十の戒めに「他人の妻を欲するべからず」とある。 「横取りするべからず」なら分かるが、欲するのもいけないのか。 ならば何故、私と彼女は出逢ってしまったのか。 出逢った時にはすでに彼女には家庭があった。守るべきものがあった。 この世に神とやらが居るとして、皆に戒めを守らせたいのであれば、そもそも出逢わせないようにすれば良い。神なのだからそれぐらい出来るだろう。 私は彼女と出逢わなければ、こんなにも苦しい思いはしなかった。 神が禁止するというマスターベーションだ

          無神論者の恋

          「逃げ水は街の血潮」感想文

          ひょんな事から影響を受けた人がプッシュしていた、気鋭の若手、奥野紗世子さん。二作目の「復讐する相手がいない」を先に読んだのだけど、彼女の作品が掲載されている文芸誌を全て取り寄せた。 すっごく良かった。めちゃくちゃ良かった。 「ドールチェあーんどガッバーナーのー」とか言われても何も想起出来ない私だけど、割と年代の近い(五歳下)の同性の方が書いたものだからか、細かい描写に凄く共感して、純文学なのに声出して笑ってしまった。いや笑われたくないかも知れないけれど。 一番笑ったのが

          「逃げ水は街の血潮」感想文