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ポインセチア

「篠崎さぁん」

同性の主任が猫撫で声で近づいてくる。こういう時に次のセリフは決まってるんだ。

「今日、残業できる?」

拒否権があるなら教えてほしい。

私は煙草一本分の休憩と引き換えに残業を承諾した。

今日はクリスマスだ。

「どうやって今日中にポインセチアを売り切ろうかな。残ったら福袋行きだなぁ。」

そんな事を考えながら、コンビニの前でミルクティー片手に煙草を吸っていた。

「おねーさん、お店の人?」

「はい?」

「カーディガンにラメが付いてるから」

「ああ、これ。花屋なんですよ。ポインセチア運んでて。」

「花かぁ。買って帰ったら、あいつ喜ぶのかな。」

「お兄さん、だれ。」

「ここの店長。一応。」

「見た事ある顔だと思った。」

「そろそろ戻らなきゃな。」

「今夜さあ」

「え?」

「私、店に1人なの。すぐ隣のそこ。19時過ぎたら、ポインセチア半額にする。待ってるから。」

「ありがとう」


その時、雪が舞い降りた。

桑田佳祐の「ダーリン」を口ずさんで店に戻る。


さっきのお兄さんの好きそうなお姉さんが好きそうなポインセチアをバックヤードによけておく。

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