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グローバル化するアメリカのヒップホップ

WebメディアのMikikiに、「DJキャレド(DJ Khaled)がアナザー・ワンな理由――オールスター・アルバムの系譜から見る個性」という記事を寄稿しました。

先日新しいアルバム「KHALED KHALED」をリリースしたDJ Khaledの個性を、同じように豪華な面々を迎えてアルバムを制作してきたDiddyやDJ Clueなどと比較して探っていくという内容です。

記事では「KHALED KHALED」でのプロデューサーの人選について書いていますが、同作にはフランス出身のプロデューサーのTarik AzzouzがDJ Khaled本人に次ぐ最多となる6曲で参加しています。Tarik AzzouzはフロリダのプロデューサーのSTREETRUNNERが立ち上げたレーベルのRun The Streetsに所属しており、「KHALED KHALED」での参加曲も全てSTREETRUNNERの名前がクレジットされています。近年この2人のタッグでのプロデュース曲は多く、DeJ LoafやWestside Boogieなどの作品でもこのタッグによる曲を聴くことができます。

STREETRUNNERのサイトによると、この2人を繋いだのは「Blazetrak」という音楽投稿サイトだったそうです。BlazetrakはプロデューサーやA&Rなどのアメリカの音楽業界関係者に自分の曲を送り、感想を貰うことができるというサービス。Tarik AzzouzはSTREETRUNNERとここで知り合って契約に至り、2010年代半ば頃からアメリカのラッパーの作品への参加を急激に増やしました。

Tarik Azzouz以外にも、アメリカのヒップホップ/R&Bではヨーロッパやアジア等で生まれ育ったプロデューサーが多く活躍しています。比較的古い例では、ノルウェー出身デュオのStargateが挙げられます。Stargateは1990年代後半にノルウェーで活動を始め(最初は3人組)、ヨーロッパでの成功からUK、さらにアメリカと活動の幅を拡大。アメリカに拠点を移し(この時に1人メンバーが脱退)、2005年のNe-Yoのシングル「So Sick」のヒットから本格的にブレイクを掴みました。「So Sick」以降はRihannaやBeyonce、Trey Songzなど多くのアーティストの作品に参加。R&B作品が中心ですが、Wiz Khalifaの2010年のシングル「Black & Yellow」などヒップホップも手掛けています。

2006年のアルバム「Here」でブレイク前のWiz Khalifaをいち早く起用していたNicolayはオランダ出身のプロデューサーです。NicolayはPhonteとのデュオのThe Foreign Exchangeでの活動でアメリカで名を上げましたが、デュオ結成のきっかけはWebサイト「Okayplayer」の掲示板だったといいます。2004年にはデュオでのアルバム「Connected」をリリースし、2006年にアメリカに移住。Phonte周辺のアーティストやZion Iなどの作品を手掛けていったほか、2008年にリリースしたThe Foreign Exchangeの2ndアルバム「Leave It All Behind」は大きな話題を呼びました。Nicolayは以降もThe Foreign Exchange関連作などで活躍しています。

Phonteと交流のあったDrakeも、2010年リリースの1stアルバム「Thank Me Later」収録の「Fireworks」でドイツのプロデューサーのCradaを起用していました。Cradaは2008年頃からNY勢を中心にアメリカ仕事を増やし、The Loxや40 Calなどの作品に参加。2009年頃からはDrake以外にもKid CudiやJay Rockといった(後の)大物ラッパーの作品も手掛けていきました。

Kid Cudiは2008年のシングル「Day 'n' Nite」のリミックスをエレクトロ畑で活動するイタリアのCrookersに委ねていましたが、Kid Cudiと同時期に登場したWaleも2007年にフレンチ・エレクトロのJusticeによる曲「D.A.N.C.E.」の非公式リミックスとなる「W.A.L.E.D.A.N.C.E.」を発表しています。同じ2007年にはKanye Westが「Stronger」でDaft Punkをサンプリングしていたように、この時期のアメリカのヒップホップではこういったヨーロッパのエレクトロとの接近例がいくつか見られました。2009年にはThe Black Eyed PeasがフランスのDavid Guettaらを起用したアルバム「The E.N.D.」をリリース。David Guettaの2009年のアルバム「One Love」にもアメリカのラッパーやR&Bシンガーが多く参加し、ヨーロッパのエレクトロとアメリカのヒップホップ/R&Bの交流は進んでいきました。

2013年には、Kanye Westがアルバム「Yeezus」でDaft PunkにBrodinski、Gesaffelsteinとフレンチ・エレクトロ畑のプロデューサーを多く起用。Brodinskiはその後アメリカのヒップホップ/R&Bに急接近し、Theophilus LondonやGangsta Boo & BeatKingなどを手掛けていきます。GesaffelsteinもA$AP Rockyと組んだ曲「In Distress」を映画「Divergen」のサウンドトラックに提供。Brodinskiはアメリカのラッパーを多数迎えたソロ作をリリースし、GesaffelsteinはThe Weekndの作品に参加するなど、以降もヒップホップ/R&B寄りの活動を行っていきます。

YouTubeやビート販売サイトのBeatstarsで「タイプ・ビート」を販売して名を上げた、CashMoneyAPもフランス出身のプロデューサーです。CashMoneyAPはインターネットを通じて2013年頃からChief KeefやFredo Santanaといったシカゴ勢を中心にビートを提供し始め、徐々に名を広めてアメリカのシーンに根を張っていきました。現在はアメリカ西海岸に拠点を移して活動しており、Lil SkiesやPop Smokeなどの作品に参加しています。

そのChief KeefやFredo Santanaの周辺では、山形出身でシカゴに移住したプロデューサーのDJ Kennの存在もありました。DJ Kennは2007年頃に渡米し、2008年頃にシカゴに拠点を移してChief Keefらと制作を開始。Chief Keefの2011年のヒット曲「Bang」をプロデュースして注目を集め、Chief Keefとシカゴ・ドリルをブレイクに導きました。Chief Keef周辺のラッパーはDJ Kennがきっかけでラップを始めたというエピソードもあり、非常に重要な人物です。

シカゴ・ドリルのG Herboも参加したNicki Minajの2014年のシングル「Chiraq」に関わっていたVinylzの周辺からも、ドイツのデュオのCuBeatzが登場しました。CuBeatzはVinylzに送ったループが最終的にMeek Millの2015年のシングル「R.I.C.O.」になったことから一躍ブレイク。CuBeatz単独でのプロデュースはめったに見られませんが、「R.I.C.O.」の時のような「ループ・メイカー」としての活動を精力的に行い、Travis ScottやScHoolboy Q、Drakeなど数多くのビッグネームの曲でクレジットされています。

Drakeが2018年のシングル「In My Feelings」で打ち立てた一週間でのストリーミング数の最多記録を破った、2019年のLil Nas Xのシングル「Old Town Road」のビートを制作したのはオランダ出身のYoungKioです。YoungKioが「Future Type Beat」として販売していたビートが「Old Town Road」になり成功を掴むと、その後もLil TeccaやA Boogie Wit Da Hoodieなどの作品に参加。現在はアメリカ西海岸に移住し、CashMoneyAPのレーベルのCash Gangに所属して活動しています。

Lil Nas Xが先日リリースしたシングル「MONTERO (Call Me By Your Name)」には、イスラエル出身のOmer Fediが関わっています。10歳からギターを始めたOmer Fediは、2016年頃にアメリカに移住してジャムセッションで頭角を現し、ソングライターのSam Hookに発掘されElla Maiの2018年の曲「Naked」に参加。その後24kGoldnやIann Diorなどの作品にプロデューサーとして関わり、多くのヒット作を支えていきました。

Omer Fediのように現行シーンではギタリストとしても活動するプロデューサーが多く活躍していますが、ニュージーランド出身のSephGotTheWavesもその1人です。SephGotTheWavesは自身のギター演奏を取り入れたビートをFacebook経由でアトランタのプロデューサーのBeezoに送ったところギターが気に入られ、その後ループ・メイカーとして活躍。多くのプロデューサーと共作し、Rod WaveやTrippie Reddなどの曲でクレジットされています。福岡出身でアトランタ在住のYung Xanseiも、NoCapが2019年に発表した曲「Take Care」でSephGotTheWavesと共作しています。

Yung Xanseiはアメリカ在住ですが、日本に住んだままアメリカで活躍しているプロデューサーもいます。静岡のBohemia Lynchは、カナダのLord JucoやNYのHus Kingpinなどの作品に参加。2020年にはWestside Gunnのアルバム「Pray for Paris」のラストを飾る「LE Djoliba」をプロデュースし、同作に参加したDJ PremierやThe Alchemistと比べても遜色のないビートを聴かせました。今後も要注目のプロデューサーです。

Bohemia LynchはカナダのLord Jucoやアメリカ西海岸のCousin Feoとのタッグ作をリリースしていましたが、東京のCedar Law$や名古屋のCloudyBeatzもアメリカのラッパーとのタッグ作をリリースしています。Cadar Law$はNeakoなどの作品にも参加しているほか、Jay Worthyとの制作も伝えられています。CloudyBeatzはミシガンのラッパーの作品への参加が多く、12曲中11曲をプロデュースしたミシガンのJenks Jimmerの2020年作「Caption Music」ではRio Da Yung OGやTeejayx6とも制作しています。

そして、2020年には茨城のTRILL DYNASTYが制作に関わったLil Durkのアルバム「The Voice」がBillboardチャートのR&B/ヒップホップアルバム部門で一位を獲得。TRILL DYNASTYはフロリダのプロデューサーのMook On The BeatsやLowLowTurnThatUpとSNS経由で繋がり、ほかにもKiddo Marvなどの作品に参加しています。

そしてフロリダといえばTarik Azzouzを起用したDJ Khaledです。また、最新作「KHALED KHALED」にはTarik Azzouzだけではなく、スイスのOZやドイツのDAVID x ELIも参加しています。DJ Khaledは2008年に「We Global」と題したアルバムをリリースしていましたが、現在のヒップホップはその頃よりも格段にグローバルなものになりました。プロデューサーがアメリカのヒップホップ作品に参加するだけではなく、オーストラリアのThe Kid LAROIやアジア勢を多く擁する88risingの面々などラッパー/シンガーも人気を集めています。ポップ畑ではBTSも大きな成功を収めています。DJ Khaledが選ぶメンバーの中に日本人が入る未来も、そう遠くないのかもしれません。

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