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めちゃくちゃ良い論文!「強みの活用」が仕事を天職と感じさせ、人生満足度も高めることを示した研究

こんにちは。紀藤です。本記事にお越しくださり、ありがとうございます!
強み論文100本ノック、30本目の記事です。

さて、今日のご紹介の論文は『あなたの強みが呼んでいる(強みは天職である)』というタイトルで、強みの活用と天職と人生満足度の関連を調べた研究です。

最初にお伝えすると、「めちゃくちゃいい論文」でした。さすが、組織における強み開発の598の論文から選出された25論文の一つに数えられているだけあり、研究の設計に説得力があり、かつ大変わかりやすい内容でした。

その理由については、本文にて。それでは早速まいりましょう!

<今回ご紹介の論文>
『あなたの強みが呼んでいる:天職を増加させるウェブベースの強み活用の介入の予備的結果』
Harzer, Claudia, and Willibald Ruch. 2016. “Your Strengths Are Calling: Preliminary Results of a Web-Based Strengths Intervention to Increase Calling.” Journal of Happiness Studies 17 (6): 2237–56.


30秒でわかる論文のポイント

  • 本研究は、強みの活用が、天職(仕事を天職と感じること)と人生満足度に影響を与えるかどうかを検証することを目的とした。

  • 介入群に4週間にわたって「自分の性格的強み4つをより頻繁に仕事で使うこと」を指示し、対照群には「自分が優れている4つの状況を振り返る」ことを指示した。

  • 効果を検証するため、トレーニング前、トレーニング直後、3か月後、6ヶ月後に、天職と人生満足度を測定した。

  • 総合した結果、職場での強みの活用が、天職と人生満足度に影響を与えることがわかった。

本論文のお薦めポイント

さて、この論文は最近ご紹介している論文の中でも、特にお薦めさせていただきたい、と個人的に感じております。その理由は、以下の3点です。

1,参加者の募集段階から、多くの媒体を活用し偏りが少なくなるように工夫している
2、介入群・対照群の実験について、”似ているワークだが違う設計にする”ことで強みの活用の効果を明らかにしようとしている
3,介入直後、介入後3ヶ月、6ヶ月と、中期的な変化まで追いかけており、介入効果に信憑性がある

という点です。また、この研究内容からの示唆が「職場の活用がしやすい」ことも特徴です。そのため、研究を実践につなげるという橋渡し的な研究としても、意義があると感じました。

・・・と前置きが長くなってスミマセン。早速論文に入ってまいりましょう。

強みと天職のお話

強みと「シグニチャー・ストレングス(特徴的な強み)」

今回の論文でも活用されているのが、VIAーISという性格特性的強みを認識するためのアセスメントです。240問の問いによって、人が持つ24の性格的な強みのうち、上位がわかるというアセスメント。セリグマン博士ら55名の研究者によって作成されました、

人の性格的な強みは24種類に分類され、ほとんどの人はその中で上位7つまたは中核となる強みを身につけるとします。この上位の強みのことを「シグニチャー・ストレングス(特徴的な強み)」と呼びます。

この自分にとっての「特徴的な強み」は、強みを使いたいという願望や、強みに従って行動しようとする意欲、強みを使おうとする内発的モチベーションなどが起こるとされます。特徴的な強みを使うと、”疲れるより元気がでる”というのもポイントです。

「天職」について

天職は英語で「Calling」と言います。神さまから「これがあなたの仕事ですよ、だから頑張んなさい」と”呼ばれている”からそういう言葉になったんだとか。(この論文のタイトルも「Your strength Are Calling」とありますが、「あなたの強みが呼んでいる」とも訳せますし「あなたの強みは天職である」とも訳せます)

この天職(コーリング)も、いくつかの定義があります。そして、本論文では以下のような定義を採用しています。

”天職とは、人々が自分の仕事のような領域に対して経験する「身を焦がすほど激烈で、意味のある情熱」である” (Dobrow and TostiKharas, 2011)
(天職はアイデンティティの中心なので、身を焦がすほど激烈(=Consuming)とされる)

そして「天職」と感じる人は、自分の仕事を意義深いものと感じ、金銭的報酬やキャリアアップの手段でなく、人生の目的と考え、仕事満足度、組織へのコミットメント、自己効力感が高く、離職も少ないという研究結果があります。

「人-環境適合理論」とは?

さて、関連する理論で、人-環境適合理論(Person-Environment理論)なるものがあります。言われてみれば当然なのですが、「人と環境の適合性が高ければ高いほど、良い結果が得られ、人は成長しやすい」という考えがあります。

そして、「自分の強みを仕事で活かせている」と感じることは、まさにこのP-E適合理論と似た構造を示します。そして仕事においてシグニチャーストレングス(特徴的な強み)を活用すると、仕事を天職と考える度合いが相関することが示されています。

そして今回の研究は、この「強みの活用」と「天職」の関係を、より深ぼるものとなっています。(職場での強みの活用が、本当に天職と感じさせるのか?)

本研究の目的と概要

では、具体的にどのような研究がされているのかをまとめていきます。
目的・参加者・測定尺度・介入方法の順でみていきましょう。

研究の目的

仕事における特徴的な強みの使用を意図的に増やすことが、個人が仕事を天職と考える度合いの増加につながるかどうかを調査すること

参加者

従業員152人(男性84人、女性68人)

言語はドイツ語であり、平均年齢は42.07歳(19歳から70歳)
参加者は高学歴で、96人が修士号、 7人が博士号、41人が職業訓練修了者、8人が中等教育修了者であった。

ちなみに、今回の研究では「異なった参加者サンプルをとる」ことを目的として、複数の方法で参加者を募集しています。新聞や雑誌など、オンラン広告、市内で配布したチラシ、電子メールやSNSなど、複数の媒体で被験者を募ることで、強み介入の結果が、より信頼性があるものになるよう配慮したようです。

測定尺度

今回の調査では、以下3つの尺度を測定した。

◯VIA-IS(性格的強み)
VIA分類の24 の性格的強み(各強みごとに10項目)を測定する240項目からなる質問紙。5段階の回答形式(1=私らしくない、から5=私らしい、まで)で構成される)

◯Calling Scale(天職)
12項目からなる質問票であり 、7段階の回答形式(1 =強くそう思わないから7 =強くそう思う)で、個人が自分の仕事をどの程度天職と認識しているかを測定する。(Dobrow and Tosti-Kharas 2011)

◯人生満足度尺度 (Satisfaction with Life Scale; SWLS)
全般的な人生満足度を評価するための5項目の尺度。7段階の回答形式(1 = 強くそう思わない~7 =強くそう思う)例:「私の生活条件は素晴らしい」など (Diener et al. 1985)

介入方法

介入群と対照群に分けて、4週間のトレーニングを実施した。
実施した内容については、おおまかには以下の通りである。

◯介入群
最も高い4つの性格的強みを職場でより頻繁に、新しい方法で使用するよう指示をした

(ステップ1)自分の最も高い4つの性格的強み(プレテストでのVIA-IS尺度の順位から決める)について学ぶ
(ステップ2)仕事における日常的な活動や仕事について考えた
(ステッ プ3)仕事における日常的な活動や仕事において、現在自分の特徴的な強みをどのように使っているかを収集した
(ステップ4)職場の日常活動や仕事において、4つの最も高い性格的強みをどのように新たな別の方法で使うかについて、『if-then-計画』(もし~ならーする)を立てた
(※補足:事後調査により、参加者は4週間の間に行動計画を平均11回(週3日程度)立てたことがわかりました)

◯対照群
 4つの異なる文脈(家族内 、友人間、学校、1年目の職場)の中で、自分が優れている状況(='最高の自分')について考えるよう求めた

調査方法

上記の介入群、対照群のそれぞれで、

・事前テスト
・4週間のトレーニング期間の直後(事後テスト1)
・3ヵ月後(事後テスト2)
・6ヵ月後(事後テスト3)

を受け、6ヵ月間追跡された。
従属変数である「天職」と「人生満足度」について、合計4回の測定を行った。

以下が、事前テスト~介入~事後テストの全体像である。

本介入研究のデザインと手順の概要

結果(わかったこと)

結論からお伝えすると、「個人が特徴的な強み(上位の強み)を職場で活かすことが強化されれば、自分の仕事を天職と感じる度合いが高まり、人生満足度が高まる」ことがわかりました。
以下1つずつ、結果をみてみましょう。

わかったこと1:強みの活用は「天職」と感じさせる

介入群は、4週間のトレーニング後(介入直後)に自分の仕事を天職であると強く判断した。そして、その効果は、3か月後、6ヶ月後も持続した(6ヶ月後はさらに上昇)。一方、対照群は変化がなかった。

各条件における天職の平均値の経時変化

わかったこと2:強みの活用は「人生満足度」の増加に繋がった

介入群では、経時的(介入直後→3か月後→6ヶ月後)に人生満足度が高まっていった。一方、対照群では経時的な変化が見られなかった。

まとめ

今回の発見として、強みの活用によって「天職」と感じることや、人生満足度に影響したのはその通りですが、個人的に思ったことは、対照群の実験との比較内容です。

対照群も、「最高の自分」を想像する、ということで若干”強み”のような匂いがしなくもない内容でしたが(強み開発のリフレクテッドベストセルフに似ている)が、それでは事後の天職や人生満足度の変化はありませんでした。

やはり「強みの活用」とは、

1)自分の特徴的な資質(4つ)を特定する
2)新しい方法で具体的にプランニングする(if-then計画)
3)ウェブ上で宣言をする

と「いつ・どこで・何を・どのようにするのか」+「宣言する」事で始めて実行され、そして成果につながるのだと感じました。

いわゆる、アクションの重要性を感じた内容でもありました。

また、今回のトレーニングでは4週間で、介入群の参加者平均は合計10.68回の「if-then計画」がウェブ上に投稿されたそうですが、研究者らは「職場という行動変容が難しい環境でこの数はやや少ない」といっており、介入の強度をもっと強めることも必要では、と提唱しています。

また、合回の参加者は、現職場に務めて平均11年とのこと。これを考えると、基本的には個人の強みにフィットしている仕事である可能性が考えられる(=もしそうでなければすでに辞めている)ということも論文の限界として述べていました。

シンプルですが、アカデミックな観点からも説得力があり、かつ丁寧な設計で、実践にも活用できるとても参考になる論文でした。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。
(参考になりましたら「スキ」を押していただけると嬉しいです!)


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