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朝の電話/ちいさな村の ちいさな愛しい物語①


“もしもし

あのねえ
宛名書いてもらいたいから
これから行きますから”
(がちゃん)

梅雨の合間の
少しだけ青空が見えた朝
電話が鳴りました

仲良しのおばあちゃんです

このおばあちゃんは
お耳がとても遠く
受話器の向こうの人の声は
聴こえないのですって

だから
待ってるねーとお返事したけど
おばあちゃんは知りません

もし聴こえるなら
わたしが行くから待っててね
と言いたかったのですが

要件が伝わったと信じて
おばあちゃんはやって来るでしょう

冷えた麦茶を用意して
お待ちしておりました
 
 
汗をいっぱいかいて
手にお手紙を握り
おばあちゃんが来ました

喉に穴があいたー、と
それは美味しそうに麦茶を飲んで
おばあちゃんはひと休み
 
 
“手が震えて字が書けないのに
手紙なんて書いたの

でも宛名だけは
こんな字じゃだめだから
あんたに頼もうと思って”
 

もちろん
喜んで書かせていただきました

おばあちゃんは目を細めて
わたしの文字を見ています

 
本当は
おばあちゃんに言いたいこと
たくさんありました
 
わたしを思い浮かべてくれたこと
わざわざ来てくれたこと

それがどんなに嬉しいか
おばあちゃんに言いたかった

でも
長い言葉は
おばあちゃんには大変だから

一番伝えたい言葉だけ
大きな声で言いました

“ありがとう”
 

おばあちゃんは
にんまりして

おもむろに
手提げ袋からレタスを取り出し
ごろんと置きました

おばあちゃんの畑のレタス
みずみずしく
光っています

 
“あーーー、いかった”

おばあちゃんは
何度もそう言って
帰っていかれました

わたしはずっと
微笑んだり
頷いたりしていただけ

でもたぶん
おばあちゃんにはわかったのです

わたしが
嬉しいことが
 
 
おばあちゃんがくれたレタスと
清々しい気持ち

きょうは
なんていい朝
 






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