見出し画像

「生きてるだけで、愛。」 二人称で君、と言ってしまった時に笑われた中学生の頃の記憶

昨日の夜、終電間際、彼氏と一緒に新宿の映画館で観た。
「生きてるだけで、愛。」

あなたの抱える生きづらさに寄り添って、ぬくもりと共に認めてくれるような、そんな生ぬるい作品じゃない。

むしろ、観なければ思い出さなかったであろう、当時の自分もどこまで認識していたか分からないような傷も含めて、解像度もバラバラなら、しまわれてる場所もその深さもバラバラな過去の記憶が一気に自分の脳裏に溢れかえった。小学4年生の私が、留学中の高校生の私が、受験生の私が、1シーン1シーンに呼応して、私の中で抑えていた感情を爆発させた。いろんな年齢の自分が、涙を流していた。

二人称で君、と言ってしまった時に笑われた中学生の頃の記憶、牛乳瓶から直飲みではなくコップに注ぐ周りを見て恐る恐る真似した小学校4年の転校初日、トイレさえ逃げ場ではなくなってしまった高校2年生の留学先のホストファミリー。打ち合わせしたわけでもないのに何故か私の入り込めない共通言語があって、なにを変えたらそこに溶け込めるのか分からなくてもがいた小さな頃の記憶が、いくつもいくつも鮮明に蘇った。

同じところで続けられないから、ならば派遣で1日ずつ頑張ろう。そう思って申し込んだ派遣のバイトに備えて、あんなに早くベッドに入ったのに起きられなかった翌朝に痛いほど感じる自分の無価値。なんかの拍子で、家族が全員出て行った家に残されて意味もなくぼーっとしてたら、学校にいく時間をとっくに過ぎていたことを、初めて経験した日の不安。毎日決まった時間に起きて、学校に行って、友達と話して授業を受ける。それが全く確かなことなんかじゃなくて、こんなにあっけなくぽっかりと自分を切り離せることを知った。

寧子の一挙手一投足に、自分をえぐられる気がした。
どうして挽肉が売り切れなの、どうして卵は割れちゃって、それで何から手をつけたらいいの、ああどうして心を落ち着けるためのタバコに火が付かないの、どうして今停電するの!
頑張ってみようと一念発起するんだけど、他人からしたらなんでもないようなことが一つ一つ大きなハードルとして立ちはだかって、自分のがんばろうとする気持ちを踏みつぶしにかかる。もうそこからは頭がショートして、混乱して、「一歩一歩」なんてなんのことか全然わからなくって、叫びだして獣みたいに暴れ当たることしかできなくなる。

不器用なくせに、怒りも悲しみも喜びも、沸き立つ感情は異様に強くて、心を許した人には同じ温度で伝わって、同じ労力を費やして反応が返ってこないと、相手からの関心はゼロなんだと思い込む。

やっと少しできたこと、をいくつもいくつも積み重ねて、やっと手に入れた少しのプラスが、1つの小さな失敗で「やっぱりダメだった」自分自身への絶望を後押しして、どこまでもどこまでも落ちていく。破裂する。爆発する。

傷ついて、壊れそうになってその時投じられる1番きつい言葉を投げて身を守ろうとする、その瞬間にもう相手は自分から離れている。後悔と、でもどうしたらいいのかそれでもわからない気持ちと、受け止められず宙に放り出された自分なりの必死の訴えを持てあまして、取り乱す。

ひたすらに優しくとなりにいてくれる人の肌触りをたしかめようと、やったらいけないことが分かっているのに、あらん限りの言葉で相手を傷つけて、痛めつけて、それでも自分の側にいてくれるのか、どこまでも乱暴に相手の愛を試そうとする。

スーパーのシーン、取り乱す心を助長するような、何か異質のものが混ざったような背後の音楽、どこまでもシュールなのに爽快感があって、言葉なしに津奈木が寧子に惹かれた理由がにじみ出るような夜を駆け抜ける2回のシーン。屋上で全裸で出迎える寧子のはっとするような美しさ。仲間に迎え入れられる喜びを噛み締めた直後に、そんなのは幻想だったと我に返るウォシュレットのシーンが本当に切ない。

私があまりに寧子に自分を重ねて観ていたからか、津奈木の存在は奇蹟のようだと思った。
同じ温度で返して欲しい、同じエネルギーをぶつけて欲しい、それはまさに自分が相手に求めてしまうことだけど、
抱きしめてくれたら、それでいい。
ほんとにそう思った。
あんな人がそばにいることが奇跡だと思った。隣を見るとまさにその奇跡がいて、その幸福に狂いそうになった。

寧子の好きだったところを聞かれた津奈木の「追いかけたときの青が綺麗だった」「一緒にいたら綺麗なもの見られるかなと思った」と言った気持ちが分かる、と。「スーパーのシーンを見て、私の情けないくらい失敗続きの1日を、武勇伝にして、笑いのネタにできてるのはすごく強いことだと思った」と、帰り際に彼が言った。

東京を駆け抜けるシーンでぼろ泣きした私は、全力疾走したけど10分後の終電に間に合うことが出来なかった。

もう既に映画館に戻りたい。あんなに強烈だった感覚を、既に鈍く腐らせ始めている自分が憎い。

応援していただけると本当に力になります。