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みんなの視点 第一回

初めに

カラフルデモクラシーの活動の一環として、noteを使っていろいろな人の社会への視点を紹介する記事を書いていこうと考えています。初めに、様々な視点を紹介するにあたって、改めて私たちの政治的中立性についての考え方を書いておきます。私たちは団体としては政治的な中立性をもって活動していきますが、それは政治的な意見について触れない、ということではありません。むしろ積極的に様々な意見を知り、その違いを理解することが、社会への出発地点において必要なことだと考えています。そのような視点から、このみんなの視点シリーズも書いていきたいと思っています。

第一回 ドイツから見たコロナ

第一回のテーマは「ドイツから見たコロナ」です。私たちは今回、ドイツのシュレンヴィヒ=ホルスタイン州のフレンスブルクにお住いの佐藤信悟さんにお話を伺いました。

ドイツは感染者が16.2万人でているものの回復者が13万人(2020年5月3日現在)おり、コロナ対策の優等生国として、韓国などと並んで名前があげられる国です。

規制と国民の受け止め

ドイツのコロナ対策として注目すべきものの一つに罰則規定の強い外出規制があります。基本的に生活必需品の買い物と仕事、散歩以外の外出は控える、一度に家族以外の二人以上の人と会ってはいけないなどの規制があり、さらにそれらの規定には強い罰則規定があるのだそうです。ものによっては罰金200万円や禁固刑があるものもあり、きちんと規制がなされるように町のなかを警察がパトロールするなど、徹底した対策が取られているようです。しかし中には家族三人でピクニックをしていたところ警察がやってきて罰金を取られそうになった、という極端な例もあり、対策のあり方に議論はあるそうです。

これらの対応に関してドイツの国民はどのように感じているのでしょうか。佐藤さんがドイツの新聞の、規制が行われている最中の世論調査の記事を翻訳して送ってくださいました。

回答者の大多数は、政治が行っているコロナ大流行の対抗措置に同意している。しかし医療経済の構造(改革)に成果が求められている。多くの回答者がとりわけ危機の長期的な影響に不安を抱いている。 コロナウイルスによる日常生活の制限が続いて4週間になる。できるだけ早く「日常」へ戻りたいという声が日に日に大きくなってきている。特に経済界、そして政治の一部からもこのような主張が聞こえてくる。しかし YouGov 世論研究所のアンケ ートによれば、ドイツ人の大多数が措置に満足している。79%が連邦政府の安全措置を緩和することに反対しているということがチューリッヒ保険の委託で2038人に行われたアンケート調査によって明らかになった。 

フランクフルト・アルゲマイネ・ツァイトゥング(電子制新聞社)     2020年4月10日の記事

この記事を読むとわかるように、多くのドイツ国民はこの強い対策を支持していることがわかります。この背景にはドイツにコロナの感染拡大以前からある休業補償政策があるのではないかと佐藤さんは言います。常日頃からの基盤のしっかりした労働補償制度があることで、緊急事態になっても早い段階でその法制度を活用して迅速な対策をとることができており、国民の間にも政府がある程度なんとかしてくれる、という信頼感があるからこそ、このような強い対策をとっても国民はそれを支持して我慢をすることができるのではないかとみているのだそうです。(ドイツの短時間操業のシステムや短時間労働給付金についての詳しいことはお恥ずかしながらまだ勉強不足なのでまた別の記事にまとめてみようと思います。日本の雇用調整助成金との違いなども調べているのですが、いやはやなかなか難しい。奮闘中です。)

現在はドイツの規制は緩和され、800㎡までの販売面積のお店の営業再開が決まったそうです。(車の販売、州によっては家具の販売は面積にかかわらず認められている。)この決定も多くの国民に支持されています。しかし、連邦政府は800㎡以上の販売面積を持つお店の営業再開は認めない、というつもりで行った規制緩和だったようなのですが、州によっては800㎡を超える部分を閉鎖すれば営業再開をしてもよい、という解釈をした州もあり、連邦政府と州政府の対応に齟齬が出てきてしまい、ドイツの連邦制の課題点として注目されているそうです。(ドイツは連邦制をとっています。連邦制は2つ以上の州が一つの主権のもとに集まって形成されている政治体制のことを言います。地方政府の権限が中央政府からの委任に限られる単一国家に対し、地方政府の権利がより尊重されます。日本の都道府県の権限がもっと大きくなるようなイメージでしょうか。コロナの対策も連邦政府が大枠の対策を制定し、それを受けて州政府が最終的な対策を打ち出す形をとっています。)

メディアと政府

また佐藤さんはドイツでは政府とメディアが一緒にこの危機を乗り越えるために頑張っているように感じられる、と言います。もちろんメディアの仕事として政府の行いをきちんとチェックしていくという役目はあるけれども、この危機を乗り越えるためにメディアと政府が一緒に頑張っている(そのように感じられる)ことが感染拡大防止の空気作りに役立っているのではないか、と考えているそうです。

西欧と日本の文化の違いからくる感染拡大の規模の違い

イタリアのなどでは大きな規模で感染拡大が起こりました。一方日本では警鐘は鳴らされ続けているものの、いまだイタリアほどの大規模な感染拡大は起こっていません。佐藤さんはこの背景には文化の違いが大きく関係していると考えています。例えば西欧と日本では全く衛生環境が違います。西欧の多くの国では公共のトイレは日本のように数は多くなく、あったとしても有料の上に汚い、公園などの手洗い場もあまりないそうです。そのうえで非常にスキンシップの多い文化なので、感染拡大は起こりやすかったのではないか、と佐藤さんは考えています。佐藤さんは日本の報道をドイツからよく見るそうですが、感染拡大の当初、イタリアなどのことを多く取り上げ、日本と比較するような報道がみられることになぜ文化が大きく違う西欧と比べるのだろうか、と違和感を覚えたそうです。

まとめ

規制にかかる労働者に対する補償制度、感染拡大の背景にある文化の違いなどを見ても、新型コロナウイルスの感染拡大は普段見えない、社会の中の様々なものを浮き彫りにしているように感じられます。私たちもこれを機にコロナが浮かび上がらせる社会の様々な課題に向かい合い、コロナの感染拡大が収まった後も、しっかりとそれぞれが見つけた課題を解決するために動くことができたらいいのではないか、と思いました。

            カラフルデモクラシー 松浦薫

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