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自由な感性がより良い社会をつくると信じて。教育機関との共創事例

COLOR Againプロジェクトを初めて知ったとき、誰も手をつけていないけれど、いまの社会にとても必要な活動をしていると感じた。

筆者が初めて参加したCOLOR Againのワークショップは、使わなくなったコスメを持参し、それを色材に変化させて絵を描くというものだった。さらに、絵を描くだけではなくサウンドバスを聴いて、自分の心の声に耳を傾けた。

COLOR Againはただアップサイクルをするだけではなく、自己の内面に目を向け、自分にとっての豊かさを見つけていこう、と呼びかけている。

このようなビジョンを掲げているため、活動は一般人を対象にしたものに留まらない。直近では、渋谷教育学園渋谷高等学校(以下、渋渋)の教育プログラムに採用され、高校生に向けて哲学対話や企画展のサポートをおこなった。

本記事では、教育プログラムの詳細、実施後の高校生たちの変化、どのような意図で教育機関と共創を行ったかをレポートする。

文=佐藤まり子

感性に自信を持ち、行動を促す教育プログラム

2022年2月に開かれたサステナブル・ブランド国際会議で、COLOR Againの伊藤さんは渋渋の発表を聴き、その内容に強く共感した。その場での名刺交換をきっかけに、渋渋の教育プログラムの提案をする機会を得て見事採用。2022年4月からスタートをきった。

このプログラムでは「自分の感性に自信を持ち、社会に向けて行動を起こすこと」を目標に、哲学対話や企業見学、学生を主体とした企画展などを行ってきた。

プログラムの流れ

学生自身の「問い」と「考え」を深める、哲学対話とは?

この教育プログラムの鍵になるのが、「哲学対話」だ。哲学対話とは、参加者が「問い」を共有し合い、考えを深めていくもので、答えを出すことを目的としていない。近年、日本の教育現場でも取り入れられ、注目を集めている。

哲学対話のプログラムは、クロス・フィロソフィーズ株式会社の吉田幸司氏の協力を経て作成。普段は企業向けに「哲学シンキング」という独自のワークショップを提供している吉田氏だが、縁あってCOLOR Againの「哲学対話」に関わることになった。

吉田氏「2022年4月に弊社とFICCとの間で、zoomで話すカジュアルな場を設けたんです。最初は哲学の話で盛り上がっていたのですが、途中からCOLOR Againに対する伊藤さんの葛藤や悩みを聞く形になりました。

意思を持ってプロジェクトを立ち上げ、役員の森さんも応援してくれているけれど、売上や利益の側面では全然貢献できていないと。会社に何も返せない不甲斐なさが爆発したのか、伊藤さんは30分ほど泣きながら話していました。

ただ、その課題感は伊藤さん一人の問題ではないと思うんです。今の社会やビジネスの世界では、売上、利益、効率が求められるじゃないですか。多くの場合、社会課題への取り組みはビジネス視点で評価されにくい。ジレンマみたいなものがあると思うんですよね。

僕らは『哲学』で起業して、今でこそ事業化に成功していますが、これまでに同じような苦難を経験してきました。伊藤さんが感じる課題感はよく理解できるし、必要としていることも提供できるかと思い、一緒に取り組むことにしたんです」

クロス・フィロソフィーズ株式会社 吉田幸司氏

COLOR Againプロジェクトは、大量生産・大量廃棄されるコスメへの疑問や、コスメを通して考える「自分らしさ」から始まった。このため、今回の哲学対話は美意識や自分らしさに関する問いかけを主にした

学生自らが「自分らしさを持つのは、どんな人なのか?」「他の人から影響を受けたら、本当に『自分らしい』のか?」など、普段考えないような問いと向き合い、感じていること・考えたことを共有しあった。

ユニークな点は、対話のなかで学生から出た言葉をもとに吉田氏が4象限を作成するなど、通常の哲学対話よりさらに一歩進んだ思考の深め方をしている点だ。

あらかじめ決まった4象限の軸にあてはめるのではなく
学生から出た言葉をもとに吉田氏がオリジナルの4象限を作成

企画展で展示した哲学対話

哲学対話で錬った思考を「企画」でアウトプット

渋渋の学生とCOLOR Againが哲学対話を重ね、学生たち自身が課題に感じたことをまとめ発表したのが企画展『Feel&Think〜私が感じたもの、私がしたいこと〜』だ。

下北沢のイベントスペース「砂箱」で実施した企画展
COLOR Againと渋渋生、当日メイクブースにご協力いただいた
花王ビューティリサーチ&クリエーションセンターのアーティストの皆さま

発表の形は人それぞれで、例えば高校2年生の山本さんは渋渋生を対象に「哲学対話 -美しさとは-」を企画した。

山本さん「スマホの中には大量の情報が溢れ、気がつくと一定の価値基準ができあがっています。すると、自分自身がどうありたいのか、わからなくなることがあります。本当は一人一人全く別のものを持っていて、限られた型に綺麗に収まるわけなんてないのに。私自身が哲学対話に影響を受けたこともあり、自分らしさとは、美しさとは何なのか、みんなで考える機会を作ろうと企画しました」

企画の元になったスプレッドシート このシートをもとに
COLOR Againの伊藤と面談をして企画を仕上げる

企画展の詳細は、ぜひ公式サイトのレポート『日常の違和感から考え始める。渋渋生の美意識に基づく企画展を下北沢にて開催』をご覧ください。

教育プログラムを通しての学生たちの変化

哲学対話の企画だけではなく、クラウドファンディングやメッセージカード作成など、各々が課題と感じたことをテーマに企画展で発表が行われた。

4月からの教育プログラムを通して、どんな変化があったのかを学生自身に聞いた。

プログラムに参加した渋渋生

山本さん「哲学対話を通して自己分析までできることに感動しました。これまでぼんやりとしていた自分の価値観や思考を言葉にしたり、他の人の意見を聞くことで輪郭をもたせることができたように感じます。無意識の固定概念や先入観、偏見に気付き、考え直すことが多くなりました

吉田さん「私は元々、自分に自信をもてなかったのですが、哲学対話を繰り返すことで少しずつ自分を受け入れ自信を持てるようになりました。企画展では一般の方から『素敵』『すごい』などの感想をいただき、忙しかったけどすごく充実した時間になりました。今まで考えてなかったことを深く考えたこと、実際に感じたことを活かして企画をつくり、うまく伝えるために試行錯誤した経験は、とても貴重でした」

山岡さん「私はメイクが大好きなのですが、SNSで男性もメイクをしている投稿や、アートメイクの投稿にインスパイアされ、固定概念に囚われない自由なメイクに魅力を感じるようになりました。そういった自由な投稿がある一方で、イエベ、ブルベなどメイクをより良くするために作られたパーソナルカラーが、逆に『こうするべき』と自分の可能性を狭める要因になるのではとも考えています。企画展では、自分のその想いや課題感を元に、来場者の方の好きなメイクをプロの方にしてもらい、写真を撮る企画を考えました」

「教育」ではなく、場と機会を提供したい

学生に確かな変化を与えているCOLOR Againのプログラムだが、一般人だけではなく、学生にこのプログラムを提供することにどんな意義があると考えているのだろう。

吉田氏「もともと僕は、哲学対話自体にも肯定派ではありませんでした。専門家が研究する哲学と哲学対話は別物だと考える人が多く、僕もどちらかというとその考え方に近い。だから、企業に提供する際は『哲学シンキング』という別の手法でアプローチしています。

でも、あるとき大学の授業後に哲学対話をしたことがあって、学生たちが楽しそうに、それぞれが抱いている疑問や思いを話したんですよね。なかには劇的に変化する子もいました。哲学対話が哲学かどうかはさておき、そういう場や機会を求めている人はいるんだなと。そういった理由で、渋渋の教育プログラムにも哲学対話の手法を取り入れました。

ただ、僕は教育的なことはしようと思っていません。場とか環境を提供するだけで、あとは参加者が自分で課題や気づきを見つけてくれればいいかなと。

COLOR Againプロジェクトを一言で表現すると、『mayの価値の再評価』だと僕は思っているんです。ビジネスでよく聞くのは、will(何をしたいか)、can(何ができるか)、must(何をしなければならないか)。
これらの言葉には少なからず、人を制約する一面があります。COLOR Againが提唱したいのは、may。『別のかたちであってもよい』のmayです」

同様のことは、COLOR Again発起人の伊藤さんも感じているという。

伊藤さん「COLOR Againのイベントでは、心理的・知的安全性を担保できる場作りや空気感を大切にしていて、その際に心がけているのは、一方的に『こうじゃなきゃいけない』と誰かの考え方を押し付けないこと。一人一人の美意識や感性が大切にされて、生き生きと暮らしている社会を目指したいんです。

このプロジェクトは、教育業界との相性がいいかもしれないけれど、私も別に教育をしたい欲求はないんです。『自分なりの美や感性を再発見する場』を作って、人の可能性を広げていきたいんですよね。結局、産業を支えているのも『人』なので、一人一人の感性が大切にされることで、これから求められる『いいお金の生まれかた』を目指せるような気がするんです」

株式会社エフアイシーシー 伊藤真愛美

共創を目指して

取り組み当初には、自分への不甲斐なさから落ち込むこともあった伊藤さんだが、現在は少しずつ手応えの様なものを感じているという。

伊藤さん「渋渋さんとの取り組みは、本当にやってよかったと感じています。参加してくれた高校生たちが、自分が大切にしたいものを改めて大切にしたいと言ってくれたことや、自分なりにアクションしてくれたことが嬉しかったです。

また、企業側の利益は考えず、いま彼女たち自身が感じて表現したいものはなんなんだろうかと、そこだけに集中できたことも良かった。一応、主題は「コスメの廃棄問題を学び、理想的な未来を考えよう」と掲げていましたが、最終アウトプットはどれも個性的で、私の想像を超えるものでした。例えば、塾に部活と疲れ切っている友人を見て、身体と心の健康を大事にしてほしいと思ったことや、パーソナルカラーによって化粧を素直に楽しみづらくなったなど、社会課題と言われていないものでも、自分自身が問題意識を感じることを主題に選んでくれた子もいて嬉しかったですね。

また、今回のプロジェクトを進めるにあたり、本当にたくさんの企業が、学生の想いに寄り添う形で協力してくださいました。

外からみると、COLOR Againは『美意識』を切り口に社会課題の解決に挑戦しているように見えるかもしれませんね。でも、社会課題やSDGsの枠組みに当てはめて考えてしまうことは本来、創造的な行為ではないと思うんです。

学生たちは哲学対話を通して気づき問題・関心を見つけ、最終的に企画展で全然みんな違う取り組みやアクションを起こしてくれました。SDGsという与えられた課題ありきで行動するのではなく、自分自身の内面から主体的、積極的、能動的に発露した問題意識や課題に取り組むことが、本来は大切なのではないでしょうか。

こういった考え方をベースに私たちは活動を広げているのですが、もし共感してくださる企業さんがいましたら、ぜひご連絡いただきたいですね。一緒に何かを創り上げていけたら嬉しいです」

問い合わせ
担当者:伊藤・田中
https://color-again.com/contact/

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